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7 離島脱出

 廃屋の中に入り込むと、廃屋の中には暴風雨が吹き込んだ廃材類が行く手を阻む。ユウトは不注意でボディスーツを金具にひっかけてしまった。このまま動いては、スーツが避けてしまう。

たいらさん、ちょっと待ってて。動けなくなっちゃったから」

その声とともに、柱の一つがユウトを襲った。

「大丈夫ですか」

 ユウトは動けず、答えられなかった。チエは暗闇の中で廃材をどかしつつ、ユウトを探し当てた。

「動けなくなったんですか。助けに来たって言っても、こんな状態じゃ役に立たないじゃないですか」

ユウトは、チエのあまりの剣幕に思わず謝っていた。

「ごめん・・・・」

「先輩、なんでこんな危険なことを…。それに何をしにここに来たんですか」

「俺はソウヨクだ。俺は君を助けに来たんだ。でも・・・・君の言う先輩ではない」

 チエは、暗闇でのユウトの感触と匂いとからユウトであると思ったのだが、相手は否定している。相手にそういわれると、チエにも確信はなかった。

 

 暴風雨は続いている。ガラスのない窓と蝶番の外れたドアの隙間から、吹き込んでくる風と雨が倒れこんでいる残骸を大きく揺らしている。チエはようやくユウトを救い出し、奥の無線室へ案内した。遠くの空が明るくなっている。しかし、この島の周りだけ重い黒雲が垂れ込めていた。

「西の空はもう明るいな」

「そう、ならもう少しで暴風雨はやむわね」

 チエはそう言ったが、一日待っても状況は悪くなるばかりだった。

「おかしい」

 神居島の周りだけが雲に囲まれていた。外側は黄土の砂のような雲に囲まれ、それに包まれるように黒雲が次々と生まれ重なっていく。

「これでは、暴風雨はまだ治まらない…どころか余計にひどくなっている」

 ユウトは、土蜘蛛の術を使っていることを黄土の衆羅たちに知れてしまったことを確信した。彼らの狙いがチエにあることは明らかだった。

 二人はがっかりして無線室に戻った。その時になってユウトは、チエが上気した顔いろでぼんやりしている様子に気づいた。悪寒だろうか、熱い体を激しく震わせ、ユウトに寄りかかって気を失っている。ユウトは自分だけがボディスーツのままで保護されていたことに、ようやく気付いた。

「体が熱い。風邪をひいたのか? これは体温が40度近くあるんだろうな」

「服を脱いで乾かさないと・・・・」

 暗闇が二人の味方になっていた。ユウトは手探りでチエの着用していたものを干し、チエの介抱を始めた。発熱と衰弱。原因は風邪ではない…。触診をし続けると、太ももの内側に発熱の高い腫れた部位を見出した。これは何かの毒に刺されている。毒を吸い出さねばならない・・・・・。

 チエの介抱は一時間ほど。ユウトは、チエに自分のボディスーツを着せ、体温を奪われぬように自分の肌でチエを温めつづける。外の暴風雨はその後も一昼夜ほど続いた。


 次の朝、ようやく空は晴れ、朝日が無線室にも差し込んできた。

「あれ、私、こんな大きなボディスーツを着ていたっけ? いや、着せてもらったんだ…でも、私の服はどこ?」

 チエの着ていた衣服一式が無線室に大きく広げられて干されていた。チエはボディスーツの下には何も来ていないことに気づき、さらに太ももの内側に消毒用の絆創膏が張られていることに気づいた。

 上体を起こし、乾いている衣服を身に着けて顔と口を洗うために外へ出てみると・・そこには一足早く起きていたユウトがいた。

「あ、おはよう、熱はすっかり下がったみたいだね」

 チエはその言葉を無視した。

「あんた、全部見たでしょ」

 ユウトは見たことの無いチエの剣幕に驚き、口をつぐんだ。

「あなたやっぱり先輩じゃなかったわ。先輩はこんな変態じゃないもの」

 ユウトがチエに一方的に責められている時、ようやく助けが来た。それは、事務所廃屋へやってきたトウヤだった。

(たいら)さん、無事か? 林ご夫妻から頼まれてきたんだけど・・・・。蒼翼、おまえも大丈夫だな?」

先ほど、トウヤのボートが港に着いたらしい。

「何喧嘩をしているんだ? まあ、二人とも無事でよかった」

 ようやく二人は島を離れることができた。


  漁港を離れると、すっかり晴れ渡った海原に、真夏の太陽がぎらぎらし始めている。チエの怒りもおさまる様子が見えず、ユウトはすっかり小さくなったまま嵐の過ぎるのをひたすら待っていた。


 海原に出ると、ユウトは複雑な顔をした。チエの隣にユウトがいることはばれなかったが、変態呼ばわりされたことは心外だった。それにチエは何かを聞きたがっている様子だった。

「暗いところで、よく毒で刺された場所が分かったわね」

「それは触診で・・・あれはしかたなかったんだ」

「さわってみつけたの? 私の足の太ももの裏を?」

「必要最小限だよ」

「じゃあ、ここが毒で腫れていることはどうやって分かったの?」

「まあ、ほかの部分も触診でチェックしたから…分かった」

「ということはすべてを探したの? 触診で? つまり、私の・・・全部を! 全部見たの?」

「見たなどと・・・。そんな変態めいたことはしていない」

「じゃあ、触ったんでしょ」

「ああ、それは・・・」

「エエン、もうお嫁にいけない」

 帰りのボートにチエの悲鳴が響いていた。

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