第三十三話 理解者
「お疲れ様!」
「あ、ああ。ほんと疲れたよ……」
歩は部屋に入ると同時に勢いよくベッドに倒れ込む。
やれるだけのことをやって、全てを出し切った。
気力体力霊力ともにすっからかんだ。
初陣だというのにまさか十倍を超える敵に突っ込まされるとは思いもよらなかった。
しかし新型霊装の助けもあり誰一人欠けること無く祝杯をあげれたことは僥倖だろうと、先程までの会議室の光景を思い出し歩は口角を上げる。
それに、多数の敵航空騎士を落とすことが出来たのだ。
これならばと歩はベッドの脇に腰掛けたアヤカたちを見つめる。
「あー、ちょっとまってね? すぐ並べるから」
「そこまで数がないのです」
「にゃー」
あまり期待しないでよと言いながらアヤカたちがそれぞれの胸元へ手を忍ばせ、水晶を取り出しテーブルへと並べ始める。
疲れた体に鞭を打ち起き上があり、白菊とアヤカの間に座り直した歩はその光景を待望の眼差しで見つめていた。
しかし一つ二つ三つと弱々しく輝くいびつな形をした半透明の水晶が並ぶに連れ、歩の瞳は曇っていく。
「うーん、やっぱり粗製乱造って感じね」
「よくこの程度の祝福で戦いを挑もうと思えるのです」
「これなんて濁ってるにゃ。にゃっ!?」
桜花が軽く指で弾いた水晶は、たったそれだけの衝撃で砕けて塵に変わる。
「す、すまないのにゃ!」
「いや、仕方ないよ」
顎がはずれるんじゃないかと思えるほどに口を開け、目をくるくると回して慌てる桜花に歩は少しだけ癒やされた。
ともかく机に並べられた水晶、それらは先の空戦で倒した航空騎士たちに、彼らの神より与えられていた祝福の結晶だ。
そしてこれを集め、妹の彩香を取り戻すことが歩の目的であることはこの場にいる誰もが知っていた。
「えっと、ダメ、か?」
「う、うん。質が悪すぎるのよ。数が多ければそれなりにはなるけど……」
歩の縋るような声にアヤカは申し訳無さそうに答える。
同調しているからこそわかる。
普段は何でも無いように振る舞っていても、歩の目的は一切替わっていない。
ただひたすらに、愛する妹を取り戻したいというその一心なのだ。
「うちらが直接落としたのは見ての通り十騎だけだからにゃあ」
「守りに集中していたから仕方ないのです」
歩にしても障壁の展開と隊の指揮が精一杯で、撃墜したのは障壁で押し潰した二騎のみ。
それだって撃破確実とは言い切れないものだ。
「命あっての物種っていうにゃ? 次また頑張れば良いのにゃ」
「次、次か……」
「にゃっ!? そう落ち込むにゃよご主人……」
たった一回の出撃で取り戻せるとは歩としても思ってはいなかった。
そんなことは分かっていた、十分すぎるほどに。
それでも希望を持って、奇跡を祈って何が行けないというのか。
希望は重く歩へとのしかかり、その頭を床へと向けさせる。
「……、大丈夫。分かってたから」
「ま、まだ今日初陣を飾ったばかりなのです! これから! これからなのですよ!」
「そうだな、ありがとう」
しかし必死に慰めようとしてくる彼女たちにをこれ以上心配させるわけには行かない。
歩は無理矢理に笑顔を作って顔を上げ、何でも無い風を装う。
「お兄ちゃんさ」
「え? アヤカ?」
急に立ち上がり向きを変え手を伸ばしてきたアヤカに胸元を捕まれ、直後左頬に衝撃が走り追って熱を帯びた。
遅れて響いた破裂音に、歩は自身の頬をアヤカが張った事を知る。
「アヤカ!?」
「なにするにゃ!?」
「二人は黙ってて」
気でも狂ったかと慌てる二人を睨めつけ黙らせる。
そして呆然とする歩へアヤカは顔を近づけ――頭を振りかぶりそのまま勢いよく歩の頭へとぶつけた。
「ぐあ!?」
「痛っっっ!」
ぶつけた勢いそのままにベッドへと倒れ込み、二人は激痛に燃える頭を抑え込む。
心配そうに左右から様子を伺う白菊と桜花も、なんと声をかけて良いのかわからずオロオロとしている。
「くっあー! 痛いわね!?」
「それはこっちのセリフだ! 何だよいきなり!」
いきなり頬を打たれたと思ったら今度は頭突きとは意味がわからない。
二度も頭を揺さぶられ、目が回りそうだと歩が横になったまま抗議の声をあげるがアヤカの答えは満面の笑みだった。
「ん。目、覚めたみたいね?」
「なんだよ、それ……」
「べっつにー?」
釣られて歩も思わず笑ってしまう。
わかりきっていたことだというのに失望し、落ち込みすぎていた。
桜花たちも言うように、次があるじゃないか。
元々安全第一で少しずつ一歩ずつのつもりだったのに、いつの間にか欲が張っていたらしい。
「あー、その、なんだ。ありがとな?」
ニコニコと見つめてくるアヤカを照れながらもまっすぐ見つめ、歩はお礼を口にした。
歩もこんな時くらいアヤカと正面から向き合いたかったのだ。
真っ直ぐに歩と向き合い、ぶつかってくれる彼女の心に誠実にありたかったのだ。
「えっ! もしかしてデレってやつ!? くんくん、うん、大丈夫! いつでもばっちこいよ!」
「お前なぁ……」
しかしアヤカは恥ずかしさに耐えきれなくなったらしく、急にふざけるようなセリフを吐くと目を閉じ唇を尖らせる。
いつもと同じ冗談にしたいのだろう。
「はーやーくぅ! っ!?」
冗談めかして催促するアヤカに、歩は苦笑いを浮かべそっと近づくき、すぐに離れてベッドから起き上がる。
まもなく第二次攻撃隊が帰還してくる頃合いだ。
結果次第では再出撃になるだろうし、補給を済ませて置かねばならない。
「ほら、飯行くぞ」
「え、ちょっ、まっ、えっ……」
「いくのです!」
「いくにゃー!」
呆然と目をしばたかせるアヤカを部屋に残し、歩たちは一足先に食堂へと向かう。
「なんなの!? なんなのよ! もー!」
数分後、部屋の扉からは残されたアヤカの吠える声が漏れ出るがそれを聞くものは誰もいなかった。
「雛菊隊に下命。二十四時間後航空機とともに本艦より進発、南方に進出し本隊を援護せよ」
第二次攻撃隊の帰還後まもなく、少女たちには新たな指令が与えられる。
「そういうわけだ歩君。私は霊力が心もとなく共に行くことは出来ない。代わりに君が隊長として指揮を取れ」
「っ命令、拝領いたしました」
「すまんな……」
既に一線を退いている早乙女教官の霊力量は八城の半分にも届かない。
それでは目的地までたどり着けないと本艦待機となってしまっていた。
「隊長、次もよろしくおねがいしますね」
「よろしく頼むで!」
「歩さんが隊長なら安心ですぅ」
雛菊隊の隊長として、仲間たちの期待と命を背負い歩は再び太平洋の空へと飛び立った。
とりあえずここで一旦終わります。
ご愛読ありがとうございました。




