熱帯夜
短編小説だと初投稿です。
実は8割くらい体験談。
最後まで読んで頂ければ幸いです。
「女なんて」
今日も鈴木祐希の女文句は止まらない。
彼の女嫌いというのは今に始まったことではないが、初志貫徹を通すことにかけては得意分野のようである。
口を開けば「女はこうだ」とか「これだから女は」などと価値にもならぬ愚痴をこぼす。
そんな彼にも一応は春が訪れるもので、他者から見れば運命的この上ない出会いを果たすのであった。
祐希は止まらぬ嫌悪感を拭い捨て、校舎裏を歩いていた。
左手には拳を、右手にはげた箱に入っていたラヴレターを握り締め、しかめっ面で足を踏みしめる。
「後悔させてやる」
と吐き捨てる有様は観ていられぬものである。
足を止めて十分たったほどの頃。
ふと、風が吹いた。
瞳孔が見開き、彼も若干動揺したようであった。
そこには美しすぎる少女がいたから。
荒ぶる風にスカートを抑え、風になびく黒髪は清水を思い起こさせる。
砂嵐の立つ校舎裏に咲くその華に、女嫌いを謳う彼でさえ恍惚と化けてしまった、と思われた。
初志貫徹を通す彼にはやはり女であるというだけで嫌悪感が差すものである。
彼女の美を押しのけるように彼は口を開く。
「お前だろう。このようなふざけたものを下駄箱に入れたのは」
彼女はこくりと頷き、これもまた美しい声を出す。
「はい。小学生の頃から、ずっとずっと貴方のことだけを見てきました。どうか、私とお付き合い頂けませんか?」
並の男子高校生なら断ることを知らないだろう。
ただ相手は、かの祐希である。
「ふざけるな。小学生の頃から見ていたのなら知っているだろう。俺は女が嫌いなんだ。お前のような穢らわしいモノになど関わりたくもない」
声を鎮めながらも怒りと軽蔑は抑えられず、所々嘲笑うような口調を現す。
彼はこれで女がさっさと引き返すと思ったのだろう。
言葉を発した後は満足気な顔を浮かべ、俯く彼女を侮蔑的に見落としていた。
ポタリポタリと。
雨ではない。
涙が、悲しみが、止まらなかった。
彼女は自分が振られる知っていた。
知っていて告白したのだ。
それでいて涙を流すなどというのは少々虫が悪いようではあるが、感情というのは怪奇なものである。
彼に顔を向けることは羞恥心が許さず、またこのまま引き返すことは恋心が許さない。
ただ俯いて涙を流すしか選択肢がないのである。
目の前で女が泣いている。
普通なら無視でもするところだろう。
特にこの男なら。
ただ、この状況で見放して帰るというのは、「人間」としての良心が許さない。
酷く困惑した彼は口を開くこともままならず、涙も枯れそうな程に時間が過ぎてゆく。
さすがに耐えられん。
そう思い立った彼はやれクソと口を開いた。
「泣くなよ......女らしい......」
酷く蒸し暑い夜だ。
帰ってからというもの、祐希の頭の中では彼女の泣き顔が離れなかった。
どんなに頭を振っても、水を被っても頭から抜けない。
それどころか色濃くなってゆくようであった。
眠れぬ一夜はあっという間に過ぎるもので、祐希の目は赤く充血していた。
初めての徹夜だからといって学校を休むなどということは出来ず、怠さを抑えてどうにか学生服を身に纏う。
こんな時でさえも、祐希の頭からは彼女の姿は離れなかった。
祐希の家から学校までは徒歩で十五分もかからぬ程であるが、ほぼ夢現の祐希には関係がなかった。
彼女の元に行かねば、彼女に謝らなければ。
これが一晩かけて辿り着いたとりあえずの結論であった。
祐希は真面目故、ケリをつけずに物事を終わらせるというのにどうも抵抗があったためである。
教室に入ると、直ぐに彼女の姿が目に入った。
一晩中考えていた妄想上の彼女とはまた別のものであり、やはりこちらの方が華奢で、人間味のある体付きである。
謝らねば。
祐希はその一心で彼女の元へ向かった。
やがて足を止め、彼女の目を見ようと試みるが、どうにも顔が前を向かぬのである。
目を合わせねばそれは謝罪ではない、と親から口を酸っぱくして教えられてきたが、今回ばかりは別のようで
「き、昨日はっ、ごめん!」
と叫ぶように謝罪の言葉を発することしか出来なかったのだ。
これ以降、彼と彼女がどうなったのかは知らない。
私は急遽転校が決まり、名古屋方面の電車に乗っている。
これを恋と呼ぶのかどうかはそれぞれであるが、私もこんな恋をしてみたいものである。
青春とは程遠い人生を歩んできた私には羨ましいの一言に尽きる。
──とはいっても、まだ成人もしていない高校生のガキの私が語るのはどうかと思うが。
とりあえず、この涼しい電車の中で、今は暫し眠りに着こう。
眠れぬ恋など御免だ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
私自身、現在受験生ということであまり頻繁に更新は出来ませんが、気まぐれでやっていきたいですね。