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第五話 授業その2

「よし、じゃあ次は翼、俺の作る義翼についてだ」


翼、と言ってしまってから言い直す。

あくまであれは偽物。間違っても本物の翼ではない。


「じゃあこれも確認だ。義翼について知ってることはあるか?」

「ふむ……」


質問を投げると、今度はヘリシアも素直に考え始める。

そこにはもう、安易に答えを出す様子はなかった。


「前に……」

「ん?」

「前に一度お前の話を聞いたことがある。『あれはあくまでただの飾りにすぎない』、だったか」

「ほー……よく知ってるな、そんなこと」


そして出た答えには少し驚く。

随分前、それこそまだ俺が現役として腕を振るっていた頃の話だからだ。

あれは確か、どっかの王国で取材を受けた時の話だっただろうか。


「あの時から、私はお前に興味を持っていたんだ。当然知っているさ」

「なるほどな」


懐かしい言葉に、少しだけ昔を思い出して。

そして、続くヘリシアの質問に固まった。


「だが、意味がわからないんだ。翼は翼だろ? そこに偽物かどうかなんてあるのか?」

「…………」


一瞬、意味がわからなかった。

なぜ、どうして、ヘリシアがそんなことを聞く?

どうしても、……が頭をよぎる。


けれど。


「何言ってんだ。あんな鉄くずが本物なわけないだろ?」

「そう、かもしれないが……本物じゃなければ、偽物なのか?」


続く質問も同じ。

いや、違う。重ねてしまっているだけだ。

そう言い聞かせ、気づかれないように少しだけ息を吸って。


「だからこそ、『飛べるはずのない翼』なんだよ」


あっけからんと、言う。

気づかれないように、いつも通りに。

気楽な姿勢で、過去の俺を貫いた言葉を口から出した。


ーーー


何事もなく・・・・・言われてしまい、戸惑う。

『飛べるはずのない翼』、それは彼が、フォルドが表舞台を去る際に言われた言葉だからだ。

何も感じていないはずがない。そう思っているからだろうか。

彼の顔が一瞬、ほんの一瞬だけ歪んだ。


「どした? もう飽きたか?」

「あ、いや……」


けれどそれは次に瞬間には消えていて、幻と言われても納得できてしまうだろう。

それでも、確かに見えた、彼の表情。


「っと、もう昼か。じゃ、一旦ここまでだな」


その表情に気を取られているうちに、授業は一度お開きとなった。

まぁそもそも。


きゅるるる……


私のお腹からそんな音が聞こえては、それ以上そのことを考えることもできなかった。


ーーー


「って、私はこんなに堂々と外に出ていいのか?」


あの後、授業をお開きにしたフォルドと私は、昼食をとるために外へ出た。

店で済ませてしまうのがいいのではと思ったものの、散歩も兼ねてるから、と言われてしまっては断れもしない。

確かに、あのまま座っていると息が詰まって行きそうだ。

と考えて、外に出たのだが。


「私はお尋ね者に近い状態なんだぞ。いつ見つかるかもわからないのに」

「ああ、あいつら(騎士たち)のことか。あいつらなら帰ったよ」

「は、え? 帰った?」

「あいつら探し人とかあまりしたことないんだろうな。俺の店に来た時も初めは写真すら見せねぇし……。あれじゃ誰も答えてくれねぇさ」


だから昨日のうちに街を出るのを見た、らしい。

確かに髪も、顔すら隠していないのに、騎士がやってくる気配はない。

街の人も私に注目していることもない。


「なんだ……そうか」


ほっと、少し胸を撫でる。

今は帰るわけにはいかない。それこそ、ちゃんと飛べるようになるまで。


「さて、んじゃどうする?」

「そうだな……」


再び歩き始め、ちょうど街の真ん中に来たあたりで聞かれる。

あたりを見回すと、ちょうど一軒のお店が目に入った。

この辺ではあまり見ない東方風の、木でできた店のようだ。


「あそこは……」

「お。そこにしてみるか」

「あ、ああ。そうだな」


ちょうどその視線を追われたのだろう。

そこを指差した時には、もう彼の足はその店に向かっていた。

特段、断る理由もない。私もそのあとを追って、店に入っていった。


ーーー


中に入ってみると、やはり東方の店だと言うことがよくわかる。

目に見えるところほとんどが木で作られている。

私たちも木を使うことはあるものの、やはりほとんどがレンガや石だ。


「いらっしゃい、お二人?」

「ああ。……っと、どした?」

「え、あ……いやなんでもない」


物珍しさについきょろきょろしてしまった。

その間に店の者が来ていたらしい。


「この辺じゃ珍しいですもんね。うちの店」

「あはは……いやすまない」

「いえいえ、ごゆっくりお過ごしください」


ちょうど思っていたことずばりと言われてしまい、恥ずかしくなる。


「ま、いいや。さて何にすっかな……」


そう言って『めぬ』と書かれた冊子をめくり始める。

私もそれにならい、今日の昼食を選び始めた。

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