第十九話 確認 その2
頭の中のルールをめくって、他に確認することを探す。
ああ、そうだ。あれがあった。
「それから、絶対に持ち込まなきゃいけないものがある」
「絶対に、か?」
「そ」
一呼吸。
「絶対に持ち込まないといけないもの、それは緊急を知らせるための道具、だ」
言っても、ヘリシアにはピンとこないのか、頭を傾げられてしまう。
「緊急を知らせるための道具、ってどういうことだ?」
「さっきも言った通り、エアリアルシューターでは、妨害が黙認されている」
確認するように視線を投げると、ヘリシアも頷く。
が、もちろん、エアリアルシューターで事故を起こすわけにもいかない。
ただ一度の事故が、イベントの熱をあっという間に冷たいものにしてしまうことを、運営側もしっかり分かっているのだ。
そうでなくても、レース中は不慮の事故はいくらでもあり得る。
だからこそ運営は、緊急時の行動をこうして明文化したのだ。
「もちろん、黙認するためにこれを作ったわけじゃなく、このルールがあるからこその黙認なんだろうが」
「ちなみに、それを持ち込まなかった場合はどうなる?」
「ん? 簡単なことだ」
出場停止。
それぐらいには、運営は緊急時に対して慎重だった。
「会場は海の上だからな。何かが起きて海に墜落した場合に、誰かが助けにいく必要がある。けれど、仮に誰も気がつかなかった場合、人死が出てしまうんだ」
「それは…」
「そ。それは絶対に防がなきゃいけない」
だからこそ、持ち込む道具は水に濡れても使えて、さらにはある程度の距離からも見える合図を出せるものが必要になる。
「といっても、持ち込むもの自体は各選手の自由だがな」
「え…それは、大丈夫なのか?」
「大丈夫、って何の話だ?」
そこまで説明したところで、ヘリシアの驚いたような声。
実際にその通りなのか、視線を向けてみると目が見開かれていた。
「だって、そんな。命に関わるようなもの、選手の自由にするなんて…」
「んー、自由って言っても持ち込むもの自体は運営がチェックするしな。それにーー」
「それに?」
言葉を切って、少し言葉を選ぶ。
「それに、んー。いろんな種族が参加するんだ。何か一つに決めちゃうと、不都合が出る種族もいるかもだろ?」
「それは…そうかもしれないが」
何か納得し切っていないような顔でヘリシアが頷く。
まぁその気持ちは分からなくもない。
俺も初めて聞いたときは首を捻った記憶がある。
「まぁでも、お前には特に関係ないよ」
「関係ない…? でもさっきは絶対に持ち込まなきゃいけない、って」
「ああ。だからこそ持ち込むさ。義翼の一機能としてな」
「なるほど…って、じゃあなんで今この説明だったんだ?」
「なんでも何も、ルールだからな。そりゃ説明ぐらいするさ」
またしても納得できないような顔をしながら頷くヘリシア。
その視線がさっきより困惑気味だったのは気のせいだと思いたい。




