第二話 結託と新しい日常
「フォルド、それが俺の名前だ」
「ふぉるど……って、まさかその、名前は……!」
?
おかしいな、探し人が目の前にいたって言うのにリアクションが薄めだ。
「どうした? そんなぽかんとして。もっと驚いてくれてもいいだろ?」
「っ! 驚いているからぽかんと……いや! ぽかんとなんてしてないけど!」
急に元気になったな……。
まぁ、いいか。
「よし、それじゃ行くか」
「行くか……ってどこに?」
「決まってるだろ? 工房だ」
「あぁ、あの店か……って待て待て。私が今追われてるのは知ってるよな?その意味がわかってるのか?」
「そりゃあ知ってるさ。そのおかげでこうして追いかけてくることができたんだからな。まぁその意味とか言われてもよくはわからないけど」
その言葉通り、実際にヘリシアを追いかけている騎士連中を見なければ、ここに来ようとすら思わなかったかも……いや流石にそれは言い過ぎか。
ぽりぽり、とほほを掻きながら言う。
そんな俺を見てヘリシアは大きくため息をついて。
「やっぱりか」
頭を抱えてしまった。
驚いたり急に元気になったり、今は落ち込んだり……忙しいやつだな。
まぁ、とにかく……。
「これからよろしくな。ヘリシア」
「っ!……ああ、もう!!」
伸ばした手を掴み返される。今ここに、約束は成った。あとは、ただ果たすのみ。
そう。ただ、果たすのみだ。
「……で、なんで私たちはこんなところにいるんだ?」
「なんで、ってそりゃここに来た以上、することは決まってんだろ。それともお姫様はこいうとこに来るのはやっぱり初めてか?」
「ゔ。そ、それは……確かに。初めて、だが」
「ほほぅ、それはそれは。……なぁ、ところで今の。もっかい言ってくれね? もっかい」
「な! なにに興奮してるんだ!?」
興奮? バカな。
「俺のどこが興奮しているように見えるんだ?」
「そういうセリフは私の目を見て言え」
冷静に突っ込まれては仕方ない。ふざけるのはここまでらしい。
「まぁただ食料を買いに来ただけなんだけどな」
目の前には露天が並ぶ通り。その入り口に俺とヘリシアは立っていた。
「それはいいんだが、今やることか?」
「と、言われてもな。翼は1日や2日で生やせねぇ。それに、今俺の家の食料事情は前代未聞の危機だからな。誰かさんに食べさせたし」
「う……そう言われると。その……」
理由を言うとあっさりと負けてしまった。
ふむ……。相変わらず優しいところは変わらないらしい。
(やれやれ)
「さて、じゃ早速行くとしようか」
「あ、ああ。買い物は初めてだけど、なにかできることはないか?」
「ふーむ、そうだな。じゃあ店主が出て来たら値引き交渉頼む。前かがみでな」
「ほ、本気か!?……でもそれで役に立てるんだな? ほんとだな!?」
「嘘」
「な!こ、この!!」
やれやれ、これからうるさくなりそうだ。
でもきっとそれは。
「悪くない、かもな」
「ん? 何か言ったか?」
「いーや、なんにも」
呟いて、今度こそ買い物を開始する。
……。
…………。
………………。
途中で、苦手な食べ物がどうこうという話が上がったが、それはまた別の話だ。