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第十七話 表と裏、内と外 その3

「私は寝ている方が都合がいいんだろう」

「……おやすみ、いい夜を」


そう言って、階段に足をかける。そのまま部屋に戻り、間借りしているような寝床に潜り込む。

階段を登る途中には、入り口の扉が開いて閉まる音もはっきりと聞こえてきた。やはり、外に行ったようだ。

もちろん、そうしようとしていた現場を見たのだから、そうなるのは当然だ。それよりも。


「私は…どうしたんだろうな」


頭まですっぽりと覆い、隠れるようにして一人言葉を吐く。

最初は、いきなりご飯を振る舞ってくれた姿に驚いた。そのご飯を口にした私も私だが、そのおいしさにも驚いた。

もちろん、城で出ていたような高級な美味しさではなかったけれど。それとは違う美味しさがそこにはあった。

目の前の人が、私のために用意してくれたのだと、そう思うだけでなんだか嬉しくなった。けれど、その嬉しさが長く続くことはない。どんな食事でも食べれば無くなる。あの時は少しそれを惜しんだりもした。


「…………」


その料理を思い出し、体をモゾモゾと動かす。

そうして、そこに追手がやってきて、その人を巻き込まないようにと、私は店を出た。お礼を言う暇もなかった。そのことに悪いと思いながらも、そうするしかなかった。でなければ、その人は殺されかねない。

私が押し入ったようなものなのに、『王女を誘拐した罪』をでっちあげられてしまう。それだけは何としても防がないと行けなかったからだ。


「けれど…」


ああ、『けれど』。

その人は追いかけてくれた。私を、追われている身の王女と知ってなお、私のもとに駆けつけてくれた。

それだけでも嬉しかったのに、その人は。その人こそが、私の探し求めていた人で。

直前まで、泣いて内心を白状していた私の涙はピタリと止まってしまった。その何でもないことのように、言われたその名前が、私には救いそのものだった。


それから数日。まだ長くない日を過ごし、少なくないことを教えてもらい、少しずつ前に進めている。

彼も、自分のために、身を削って協力してくれている。きっと私が来てから、ほとんど寝ていないのだろう。それは、ふらつきながらもいつも通りにしている姿を見ればわかる。それはもう、謝りたくなるほど。


だからこそ、さっきの事には、不安になってしまった。

夜、今と同じようにふと物音がしたので目が覚めた。その音が気になったので階下に行くと、ちょうど彼が扉に手をかけるあたりだった。

夜にふと、外に行きたくなるのはわからなくないし、きっと今までも彼はそうしてきたのだろう。その自然な振る舞いは、いつもと何ら変わることはなかった。

それが、妙に寂しくてつい声をかけてしまった。声をかけてから、どうしてそんなことをしているのか、と思ったほどだ。いや。


「ああ、そうか」


もぞり、と体を半分起こし、頭を外に出す。呟くと、さらにその気持ちが強くなる。

私はきっと、彼のことが好きなのだ。好きに、なったのだ。


「っ〜〜〜……」


そう意識した途端、体が火照る。そのこと自体がその証拠のようで、今度は耳まで赤くなる。

誰も見ていないのをいいことに、手近なものをぼふぼふと叩く。そんなことをしても、何も変わらないが、今はとにかくそうしたい。ぼふぼふぼふ、としばらく叩き続けてようやく。腕が疲れてきて頭も冷静になってきた。


「はぁ……」


ため息をつき、また横になる。天井を見上げると、初めて、いや二回目にここにきたことを、また思い出した。あの時の嬉しかった気持ちは忘れない。

だからこそ、今は私のしたいことを果たす。それがきっと、今の彼にできるお礼にもなるはずだと、今度こそ目を閉じる。


「おやすみ、いい夜を」


呟いたその声が、届きますように、と少しだけ祈りながら。

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