表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

第十五話 授業その5

「じゃあ続けていくぞ」


パン、と手を叩いて気合を入れ直す。そのままヘリシアに目を向ければ、あちらもちょうど伸びをして気分を改めていた。


「さっき言ったように、俺たちには不思議な力がある。つっても、皆に宿ってるから、本当は不思議でもなんでもないはずなんだけどな」

「それが少し、気になるんだ。どうして皆は気がつかないんだ?」

「そうだな……。これは仮説なんだが、例えば俺みたいな人間がジャンプすると、すぐに落ちるよな?」


少し考えてから答えを口にする。といっても正解なのではなく、あくまで俺の一意見としての物だが。


「でもそれを意識する奴はほとんどいない。せいぜいが、それを考える必要が出た時に初めて『そう言えば』、と思う程度だ。それはお前もそうだったろ?」

「そう、だな」

「つまり、当たり前にある物について、俺たちは意識しづらいんだ」

「意識しづらい……」

「そ。だから多分、俺たちはこの『力』を普段から使ってるんだ。おそらく、よく分かっていないまま」

「…………」


本当はもう一つある。それは、全く知らない事には気がつけない、と言うことだ。

俺だって、このことに気がつくのにずいぶんかかった。けれど、ある時ふと思ったのだ。

『なぜ、人間には『不思議なこと』ができないのだろう』、と。

それは当然のような顔をして、実際には当然じゃなかった。

俺たちは気がついていなかっただけだ。他の種族が『不思議なこと』を起こせる理由。それはーー


「それは、竜人わたしたちや、他の種族が力を使って、いろんなことを起こしている……ということか」

「ああ、多分な」


考えている途中で、心の言葉にかぶせるようにヘリシアの答えが乗っかってくる。

その通り。おそらくではあるが、彼ら彼女らには気がつくタイミングがあったんだ。その『力』を使って何かができるということに。


「まだ俺の仮説でしかないが、多分これは間違っていない。現に、俺にもお前にも力が宿っているし、そのおかげで義翼も動かすことができる」

「そう、か……」


頷きながらも、少し噛み締めるように言うヘリシア。その顔は何かに安心したようで。


「私にも、皆と同じ力が……」

「…………」


なるほど、そう言うことか。

その心配は不要だ、とは言わない。彼女はすでに、自分でその答えにたどり着いたから。

その代わりに。


「安心するのは早いぞ。何せ、普段からみんなが使っている力を、お前はこれから意識して鍛えなきゃいけないんだ。……気を抜くなよ」

「もちろんだ」


そう伝える。

良くも悪くもこれから始まるのだと。



ーーー



「そうそう、そのまま呼吸を止めないように」

「う……む……、こう、か?」

「その調子その調子」


ヘリシアが握り込んだ右拳に、仄かに光が宿る。

その光を消えないように、明るくなりすぎないように意識して止めるよう指示をする。

その指示を出した直後。


「あ……」

「あらら」


すっ、と音もなく光は弱まり、そのまま消えてしまう。

少ししてからヘリシアの手からも力が抜けていく。


「やっぱり難しいか?」

「う……もう一回だ」


言ってヘリシアがもう一度拳を握り直す。少しして、またヘリシアの右手は光り始めた。

少し前からこうして、幾度となくヘリシアの右手は光っては消えてを繰り返している。

もちろん、別に何かに目覚める前兆と言うわけじゃない。ただ単に、体の中の『力』を意識して集めることにしたのだが。

それが何度も繰り返しては失敗している、と言うわけだ。


「お、今回のはいい感じなんじゃないの」

「だな、私もそう思う」

「じゃあそのまま続けて……よし」


少しずつ揺れが収まり、光の明るさが一定の強さで止まる。が、本題はここからだ。


「うぁ……っと」

「あー」


と思ったのも束の間。ヘリシアの右手はそのまま光を弱め始め、消えてしまった。


「……」

「よし、休憩にするか」


ヘリシアを椅子に座らせたまま、少しその場を離れる。

その足でコップを二つと、その中に水を並々と注いで戻る。


「ほれ」

「……ありがと」


声をかけると一応受け取るものの、顔は俯いたままだ。その水に口をつけることもない。


「……」

「……」


ごくり、ごくり、と少しずつ俺のコップの水が減っていく。しばらく、その音だけが妙に響いた後。

ようやくヘリシアが言葉をこぼした。


「私は、ダメだな」

「んー?」

「だって、皆が当たり前のように使える力を使えないんだから。意識して、それでも使えないなんて……」

「せいっ!」

「あだっ!!」


ヘリシアはまだ何か言っていたが、言葉を遮るようにヘリシアの頭に手を振り下ろす。

ゴッ、と頭からは鈍い音が聞こえてくるが、それには聞こえないふりをして。


「あのな、そりゃ当然だろ」

「へ……?」


頭を押さえながら、ヘリシアが顔を上げる。その表情は「なぜ」と聞いてくるようなもの。


「他の連中は何年、何十年とその力を使ってきたんだ。そんな連中にたった数日のお前が敵うわけがないだろ」

「…………」

「だから、ダメだなんて自分で言うな。それは当然のことなんだ。誰しもが陥る状況だ」

「………………」

「だから、今お前にできることをすればいい。今お前ができること、しなきゃいけないことはなんだ?」

「……飛べるようになる。そのために『力』をコントロールできるようになること」

「そ。忘れるなよ。お前はお前だ。他と比べる必要なんてない」

「ああ、わかった」


頷くと、今度こそ水を一息に飲み干し、そのコップを置いたかと思うと、早速手を握って『力』を集め始める。

その明るさが随分と長く保った事は言うまでもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ