プロローグ
ザァァ・・・
風が吹くたび、何とも心地よい音を奏でる。
ここには、憎しみ悲しみ、そして争いはない・・・。
ここには、楽しみ喜び、そして幸せはない・・・。
幸せ?意思を持たない木々花々達は幸せを感じることができるのだろうか?ただそこに生まれ、育ち、そして枯れて死んでいく木々花々達は幸せを感じることができるのか?
いや・・・。
もしかしたら彼等は意思を持ち、≪言葉≫という伝達方法ではなく、もっとほかの伝達方法で意思の交流を図っているのかもしれない。
木々花々でない私にはそれを知るすべは持ってはいない。
もし、彼らに意思があるのならば、彼らの間に争いというものはあるのだろうか?いや、もしあったとして、自ら動けない彼らにしてみれば争いそのものがないに等しい。
意味のないもの。
もし、意思を持ち、自ら動くことができる者にとって≪争い≫が無いに等しく、意味のないものという考えがあったのならば、この世界は二度も滅ぶことはなかったのかもしれない。
古来よりこの人種世界には、人族・エルフ族・ドワーフ族の三種族が共存して生きてきた。その他に、世界が二つ存在し、一つは神族が住む天界、もう一つは魔族が住む魔界。
かつてこの三つの世界が争った為に人種世界は滅んだといわれている。おとぎ話の話しだ。
だが、約三千年前、一人の魔人族により人種世界は終りの危機を迫られた。
その戦は二人の神族の手により終わりを迎えたが、エルフ族・ドワーフ族は絶滅の危機に侵された。
この時、天界は二人の神族を人種世界の守り神とし、魔族の監視を命じた。
そして、約千年前、一人の魔人族の復活と共に、三つの世界は大きな戦争を余儀なくされた。
【最終戦争・ラグナロック】
後にこの戦争はそう呼ばれることになる。
神族・人種族の協力のもと、魔族に大きな損害を与え戦争は終わりを迎えた。
この際、魔族は今後、人種世界への干渉を禁ずるとし、これが破られればその時は魔界の存在は無きものとするとして、魔界の核を天界に幽閉した。
なぜいまさらこんな事を書くのか?
ラグナロックが終わり約千年、絶滅寸前と言われたエルフ族・ドワーフ族も繁栄して来ている。
だが、世界は争いを望んでいるのだろうか?今この三種族の間で小さいながら争いが起きてきている。
それは、魔科学なるものがこの世にもたらされたからだろうか・・・。
今後世界はどう動いて行くのだろうか?一国の王である私にはそれはまだ分からない。
エルセア歴1125年 10月17日
アバンチェスター国国王 ルイセス・チェスター