エピローグ 前を向いて
「――――」
今、夢を見ている。誰かが自分を呼ぶ声を聞きながら、ククリはそう自覚していた。
「――――」
もう一度、声が聞こえる。やはりそれは、自分の名だ。だけど聞き慣れない発音で、「ククリ」という名ではない。……でも確かにそれは、自分の名に違いない。
周囲を見渡してみると、全く見慣れない、ダタンの風景とはまるで違う景色が広がっていた。見たことのない景色だが……でも、どこか懐かしい。
信号。道路。横断歩道。自動車。バイク。トラック。
見たことない物のはずなのに、それがなんなのか分かる。――それで、ククリは分かった。
ここは、元いた世界。転生する前の世界なのだ。
「――――」
また、自分を呼ぶ声が聞こえる。そして、ぼんやりとその姿が見えてきた。
懐かしい友人達。そして――――父さんと、母さん。家族の皆。
皆、笑っている。だけど、それは幻のはず。
だって俺が死んだから。一番身近な人が死んだのに、笑っている筈がない。
――――そのはずだ。
きっと、そんなことは無い。皆強い人たちだ。俺が死んだくらいで折れることはない。泣いても、前を向いて、自分の人生を生きていく。
これは死者のエゴだ。一人その席から外れた者が、自分が去ったことをもっと悔やんで欲しいと願う、未練がましいただのエゴ。
もう既に、自分にも居場所があるというのに。
「……醜いッスね、俺」
ククリはぽつりと呟いた。
「――――」
まだ、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
「お達者で。二度と会えない大切な人達が、前を向いてその人生を幸せに過ごせるように、遙か彼方から願ってるッス」
ククリは一人涙を流し……儚げに、笑った。
頭上の空を、雲が横切っていく。
大小様々な雲が、様々の文様を描きつつ、ゆっくりと空の上を通り過ぎていく。
「……何で俺、生きてるッスかね」
穏やかな気持ちで空を見ながら、ククリは首を傾げた。
確かに、自分は死んだはず。そう思っていたのに、どういうことか、自分は生きている。
それどころか、身体も元に戻っている。
千切れた腕も元通り。吸血鬼化していた身体も、元に戻っている。
――そしてそれは、隣にいるナタもだ。
竜化していた身体は、ククリの知らない、ただの人間だった頃の姿を取り戻している。
「……ん」
ナタも目を覚ました。それから、自分とククリの姿を見て、疑問符を浮かべた。
「……どう、なってるの。ここはどこ?」
「知らない……でも、城が見えるし、近くじゃないッスか?」
そこはNo.0にある、小さなビルの屋上だった。
半壊した巨城と、今まさに崩れ落ちていく巨竜の身体が見える。
まだ眠っているが――ククリ達の他に、カトラとグラッチェ、ワイバーンのライもいた。
――――だがアルカナシアとギンドロの姿は、どこにもなかった。
「竜の体内に入ったとき、身体が溶けるような感覚があった。……再構成された、ってことッスかね?」
「……たぶん、ね」
疑問を口にしながら、ククリはナタの髪を撫でる。ナタはくすぐったそうにしていたが、何も言わない。目を閉じて、されるがままにしている。
「これから俺達、どうなるッスかね」
再構成されたのは身体と服だけで、ククリのポケットには、どこにもカードがなかった。おそらく、他の三人もそうだろう。
「分からない。……アルカナシアが死んだから、もしかすると、私が帝になるかも」
「ホント?」
あれだけ戦ったのに、本当にそうなるのか?
「分からない。……でも」
「でも?」
「……どうであれ、やることは変わらない。…………ただ前を向いて、生きていくだけ」
「そりゃそうだ」
ククリは笑った。そして、ナタを強く抱きしめる。
「――――俺もそれに、ついていけるッスかね?」
ナタも強く強く、抱きしめ返す。
「……何言ってる? ……私の隣は、ククリの席。――そう決まってる」
「「…………」」
二人は暫く見つめ合い、笑った。
――――この道の先に幸せが待っていることを、ククリは願った。
失った「女神の微笑み」よ……。どうか、俺達に幸運を。
これにて完結です。最後の方は燃え尽きていたというか、出来に納得いかない部分もありましたが、どうにか完結まで持っていけました。終わりは駆け足ですが、これまでちょっと助長だなぁと感じていたので、むしろ、もっとスピーディーに進めるべきだったかも? もしかすると、バトルモノなのに詐欺師モノっぽいタイトル含め全編推敲して、どこかに上げ直す時がくるかもしれません。その時はまた読んで頂けたら幸いです。
本格的にネットに長編小説を上げたのはこれが初めてで、色々試行錯誤しましたが、楽しめました。
ーーーー今まで読んでくださり、ありがとうございました。何か少しでも心に残るものがあれば幸いです。




