一章01
この章はシリアス多め……かな?
たった二枚しかないカードの片割れを失ったことは、ククリにとって大きな痛手だった。
リールズはあれ以来一度もギルドに姿を見せず、取り返すことは絶望的。
しかも残されたカードは、確認してもらった結果その力が曖昧で、戦闘用とは言いがたかった。
ククリに残された、唯一のカード。
薄布を纏い微笑んだ女性と、その指先に止まる青い鳥が描かれた、そのカードの名は「女神の微笑み」。その力は、ツキの巡りを加速・減速させること。
運がいい時は、流れを減速させ幸運な時間を延長する。不運な時は加速させ、幸運が巡ってくるまでの時間を早める。
ただし、その日その時の運を示すグラフや数字が存在しないため、最も大事な発動のタイミングは、ククリの直感に頼る他ない、不完全な能力だった。
「こんな能力、どう使うんスかねぇ?」
「さあねぇ。……希少だけど、いや希少なだけに、使い道がまるで分からないわ」
能力の説明を受け、途方に暮れるククリに、肩をすくめてマレはそう言った。
「リールズがまたギルドに来た時に、何とか取り返せないスか?」
「……シラばっくっれるだろうし、第一アイツは多分、もう来ないわ。案外、今頃はこの町を出ているかもしれないわね」
「そんな……」
がっくりと肩を落としたククリを、マレは書類に目を走らせながら、適当に慰めた。
「嵌められて無事に脱出できたばかりか、一矢報いたんだから我慢なさい。……ウチとしても、期待の新人が塵になったのはイタイけど」
「塵って酷くない?」
「事実よ。……本当はもっといい仕事回したかったんだけど、しょうがないから、フツーに簡単な魔獣狩りか、新人向けの採集クエストにでも行ってもらうしかないわね」
そう言って、マレは三枚の紙をククリに見せた。
「コレが今、ここでキミに紹介できるクエストね」
ククリが貰った紙を見る。幸い、これもまた見たことの無い文字なのに、普通に読めた。
『火ネズミ狩り十五匹』
『化け蛍草一袋』
『ラナの森魔獣討伐隊・荷物持ち』
どれを見ても、マレが「いい仕事」と言っていたクエストと比べて報酬はかなり低く、仕事も簡単そうだった。
特に酷いのは『ラナの森魔獣討伐隊・荷物持ち』だ。これは殆ど無報酬に近い。
「これ、なんでこんなに報酬が低いんスか?」
「期間中は衣食住付きで、ベテラン冒険者の風格や能力を肌で感じられるから、ね。表向きは」
「表向きは?」
マレがため息を吐いて眉を寄せる。
「どのパーティもどんな人間も、手っ取り早く名を上げたいの。……この手のクエストはベテラン達を色仕掛けでスカウトするか、もしくは優秀な若手と古株達のコネ作りが主眼。ま、募集に来る人間の殆どがそういう目的ね」
「へぇー」
「一応紹介したけど、ククリには、あまりオススメしないわ。それよりは、こっちかしら」
そう言って、マレは『化け蛍草一袋』を指す。
「火ネズミの方が報酬いいけど?」
「その分、面倒だわ。ある程度の経験と勘が無いと、日が暮れても火ネズミが狩りが終わらない……なんてハメになるけど?」
「……化け蛍草にするよ」
「それが賢明ね」
仕事を引き受け、マレから簡単な説明を受ける。
一袋いっぱい集められるなら過程はどうでもいい。商店でも化け蛍草は普通に売っている。……が、基本的にはこの町近くの森――ラナの森の化け蛍草の群生地に赴き、採集しないと割に合わない。
群生地ポイントを記載した地図は支給する。ただし、あくまでも天然の群生地なので、地図は参考程度に留めること。
森の深部には魔族の集落があり危険だが、町に近い所は危険が少ない。初心者は、深くまで行かないこと。迷ったら、すぐに引き返すこと。
「はい、じゃあこれ。支給パックセットね」
そう言って、マレがドン、と何かが入ったナップザックを机の上に置いた。
「? これは?」
「ククリみたいな初心者や、道具を持っていない人のために、当ギルドで安くで売っている、ダンジョンに潜るための最低限のツールセットよ。代金は報酬から引いておくから」
「安い、という言葉は信用するな」。何故か、そんな警告が頭を過ぎった。 ……どうやら、前世の教訓らしい。ただ今回の場合、成功報酬から差っ引いて貰えるというのは少し太っ腹な気がした。
「ありがとう」
お礼を言って森のある場所を教えてもらうと、さっそくククリはラナの森に向かった。