六章08 教訓
キュウイ、と小さく相棒が鳴いた。
背後で凄まじい地響きがなったからだろう。
「お前も気になるか、ライ」
キュウイ、と相棒のワイバーンが鳴く。
「……お前が言うなら、戻るか。ククリとマフィアの男はどうだっていいが、あの少女は少し気がかりだ。……ほって帰ったことが知られれば、妹にどやされるし」
グラッチェとライはUターンし、No.0に戻った。
何がどうなっているのか分からない。
唐突に揺れ始めた巨城。聞き覚えのない魔物の咆哮。
「急いだ方がいいかもしれぬな」
刀を振って血を飛ばしてから鞘に収め、カトラは揺れる廊下を駆けた。咆哮の聞こえた方角へ、ひた走る。
――――そしてすぐに、巨城が崩れ始める。
人も瓦礫も、他人も自分も。眼下の街へと落ちていく。
「…………クッ」
身体強化のカードを使い、瓦礫を蹴って僅かに残る城の一部へ舞い戻る。
落ちていく人々を見やり、それから頭上を見た。
上空を、巨大な腕が横切る。
巨城を崩しながら歩く人外の化け物――山のような竜の姿が、カトラにも見えた。
「大きいな……」
カトラはそう呟き、それから目を細めた。
青く輝く光線が、巨竜の身体に命中する。巨竜は鱗が数枚剥がれただけで怪我一つ負っていない。だが――――カトラが気にしたのは、その光線を撃った男の方だった。
「ククリ……!」
あの男、また一人で無茶しているのか。
カトラは、手元にある「百雷」を見る。
「小生も助けてやりたいが……」
吸血鬼と化したククリと違い、カトラはただの人間だ。――助けようがない。あの巨体相手だと、飛ぶ手段がないがないと話にならない。
「おのれ、どこかに……」
カトラが悔しそうに歯を噛む。
――――ワイバーンに乗ってグラッチェが助けに来たのは、その少し後のことだった。
青く輝く光線が何度も空を奔る。
ククリが「エネルギー弾・タイプX」を次々と撃つ。通常の魔物なら、一発でも当たれば十分即死させるだけの威力を持つというのに、既に十発ほど当たっていながら、巨竜は決して倒れない。それどころか、まともな傷一つ負っていない。
「……規格外にも、限度があるッスよ」
今のところ、精々鱗が数枚剥がれただけ。
とてもではないが、このまま戦って勝てるとは思えない。
アルカナシアや参と戦ったときと同じだ。
大きな実力差を感じる。
……それにこのままだと、身体が持たないだろうし。
ククリの身体は、既に五体満足じゃない。巨竜の爪に腕をもぎ取られている。
義手だったのが幸いした。残された片腕も失ってしまっていたら……そう思うと、ククリは少しだけ身震いした。
既に勝ち目がないことは、十二分に理解した。……せざるを得ない。
だが、諦められない。
しかし――――敵だったとはいえ、最後に自分を庇って犠牲になったギンドロのことを思うと、無鉄砲に動くのも躊躇われる。
自分唯一人では、万に一つも勝ち目はない。そう、自分一人なら。
カトラとギンドロが言った言葉を思い出す。
『――――もっと、人を頼れ』
「……だけど実際、助けてくれ、だなんて言えるッスかね? この絶望的な状況で」
やっぱり、カトラとギンドロの言葉は間違っている。そうククリは思ったが――。
「――だから言ったはずだ。汝は一人ではないと」
驚いて、ククリは咄嗟に振り返った。
そこには、カトラと、グラッチェが、ワイバーンに乗って浮かんでいた。
「助けを呼ぶ者が、呼ばれる者のことを考えるな。強要しなければ、各々が判断する。何も気にせず叫べばいい」
「カトラ……」
なぜだか自分でも分からない。だが、ククリは思わず泣きそうになった。
「…………すまない。皆、ありがとう」
カトラがそれに笑い、ライは嬉しそうにピュウイ、と鳴いた。
「……俺は帰りたいがな」
背後でグラッチェが呟いたが、誰も聞いてなかった。




