六章07 巨大
白亜の巨城が崩れ去る。
哀しき竜の咆哮が轟き、翼が首都に住む万を超えるの民の頭上を覆い尽くす。
その腕一つで部屋が弾け飛び、咆哮は窓を割る。
「…………」
崩れ落ちる巨城の中、揺れる足場に苦労しながら、ククリは地面を駆け、そして気づく。
「……そうだった」
ククリは走るのを止めて翼を生やし、窓から外へ飛び出した。
一瞬。戦場となった玉座の間を振り返る。
手元にはもう何もない。武器はそもそも持ってないし、カードは全て捨ててしまった。
だが幸運なことに――――それとも、そういう運命だったのか――――。
崩れ落ちる玉座の間。たまたま風に乗って舞っていた「女神の微笑み」と「エネルギー弾・タイプX」を見つけ、ククリは掴んだ。
……この世界に転生したときから持っていた、二枚のカード。
この時のために、俺はこのカードを持って転生したのかもしれない。……なんとなく、そんなことを思った。
巨城を脱出すると、身体の極一部しか見えていなかった巨竜の全身を、ようやく見ることができた。
「……オーリーが変じた竜より遙かに巨大ッスね」
山のようだと感じた巨城に、勝るとも劣らない。
だがそれも当然かもしれない。
伝承が本当なら、ナタに使われたアビリティカード「竜化」は、かつて都市国家を一つ滅ぼし、周辺国家にも甚大な被害を及ぼしたという。
その力が解き放たれなかったのは、ナタが「王者の風格」という固有スキルカードを持っていたからに過ぎない。その力で、暴走し理性を崩壊させる竜の力を押し止めていただけ。
融合したことで、たった一人しか持たない「王者の風格」では何も押さえられなくなったのだ。
空を飛びながら、ククリは眼下を見る。見た限り、カトラ、グラッチェと分かれた辺り……玉座の間から離れた場所は被害が少ない。二人は生きている筈だ。
それだけ確認すると、ククリは改めて巨竜と向き直った。
質量が違いすぎる。しかし……逃げるわけにはいかない。
「……ギンドロには悪いッスけど」
ここで逃げたら、No.0は間違いなく滅ぶ。……それは少し、寝覚めが悪い。
それに何より、俺はナタを助けに来たのだ。
このまま帰れるはずがない。
「竜狩りか……前はもっと小型の奴も狩れなかったッスけど」
今回は、こちらもひと味違う。
ククリはエネルギー弾・タイプXを構えた。
本来自分のカードだが、結局一度も使ったことがないカード。
だが使い方は知っている。
ギンドロが一度使ったところを、ククリは既に見ている。
――――ククリの視界に、青緑色の照準器が映し出される。
うろ覚えだが、かつていた世界のFPSゲームに近い、とククリは思う。
膨大な力の本流が流れ込むのを感じる。――――イケる。そう、確信する。
「消えろっ。……ナタを、返せぇ!」
【目標固定。対象のみを殲滅する】
機械的なボイスが脳内に直接届く。――――そして流星のような、青い光線が飛んだ。
巨竜はくぐもった声を上げる。……だが。
鱗を数枚、剥がせただけ。殆ど無傷に近い。ただ、それでも少しは痛かったのか、巨竜は怒りに満ちた視線をククリに向けた。
「…………」
巨竜が咆哮する。それを見ながら、ククリは思った。
――――流石に桁外れすぎるな、と。




