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六章06 絶望

 【武器・カードの全てを禁じる】


 女皇アルカナシアが持つ「絶対権限」のカード。これにより、ククリもギンドロもあらゆる武装の使用が禁じられた。

「ここまでの長き旅路、ご苦労だった。――では、思い残すことなく死ぬがよい」

 アルカナシアの手にもう一枚、新しいカードが握られる。

 杖を握った老人が描かれたカード。

「神雷――追尾する雷か」

 ギンドロが舌打ちする。ギンドロの知る限り、そのカードの攻撃は避けられるものでは無い。

 カードも銃も、全て捨てた。――――取れる手はもう、一つしかない。

 ……万事休すか。

 ギンドロは苦々しげに顔を歪めた。






 苦々しげな顔をしながら、ククリは内心ほくそ笑む。

 全てのカードが手元にない。もはや、武器はこの身ただ一つ。


 そう、()()()()()


 人間であることを辞めた、この身だけはまだ使える。

 ……それに、相手も万能じゃなさそうだ。

 「絶対権限」とやらが本当に「絶対」なら、わざわざこんな回りくどいことをせずに、「自害しろ」と命じればいい。いちいち武装の使用を制限したり、「神雷」なんて使う必要はない。

 敵にはどこか余裕がある。ふざけているのか? ……そうなのかもしれない。

 だがそうじゃないなら、幾つか制限があるということだ。

 

 一つ、生命に関わるような、本能的に拒否反応が出ることは命令できない。

 二つ、命令を行使するにはRPGのMPのようなものが必要で、【武器・カードの全てを禁じる】といった強力な命令は膨大なMPを必要とする。……だからこそ、MPを使用しない別のカードを使う必要があるのだ。


 それに、「絶対権限」と言う名前からして、このカードを持つのは帝唯一人。……つまり、アルカナシアは「絶対権限」を得てからまだ日が浅い。

 

 ――――付け入る隙は、きっとあるはずだ。




 雷光が奔り、ククリもギンドロも走った。 

 初撃がククリを襲い、二撃目がギンドロを襲う。

 あくまでただの人間であるギンドロが雷を食らい、倒れる。

 ククリは雷を避けると、追尾してくる雷に追われながら、アルカナシアに肉薄する。

「ほう」

 人間の限界を遙かに超えた速度(スピード)。アルカナシアもククリが人でなくなっていることは見て分かっていたが、ここまで人間離れしているとは予想外だった。

「……ちと、面白いかな」


「死ぬッス!」

 今のククリならば、爪の一突きで人間に致命傷与えることなど容易い。

 後にも先にもない、ククリにとって唯一の好機。

 喋る間すら与えない、神速の一撃。

 だが――――アルカナシアは焦ってすらいなかった。


 横から伸びた手が、ククリの手をあっさりと受け止める。

「……っ」

 アルカナシアを殺す必殺の一撃。それを止めたのは、ククリが助けたいとずっと望んでいた相手。

 ――――ナタスタシア皇女だった。



「……面白くはあったぞ? 面白くは……な」

 アルカナシアがぽつりと呟く。その顔からは、何一つ感情が読み取れない。

「どう、して……」

「決まっている。我が予め命令していたのだ。【我を守れ】……とな」

「なん……」


 続きの言葉を、ククリは喋ることができなかった。

 追尾していた雷が、ククリを貫く。

 一瞬、息が止まる。

「ぐっ……」


 ククリが顔をしかめながら、アルカナシアを睨む。……その間に、悲愴な顔でククリを見るナタが立ちはだかった。




「さぁ――我を殺したくば、ナタスタシアを殺せ」











「クソ……」

 どうする。どうすればいい……???

 何か手を。何か……!!!


 ……無理だ。


 どうやって、ナタを傷つけずに近寄る?


 どうやって、「絶対権限」を無効化する?


 どうやって。どうやってどうやってどうやってどうやって……。


 ……どうすれば、いい?


 諦めるのか。諦めてしまうのか。……国を敵に回して、皆と戦って、ようやくここまで来たってのに。

 認めない。

 こんな現実、認められない……!!!!!

 だが、いったいどうすれば……。



「ごめん。……ごめんなさい。私のせいで、あなたまで……」

 目の前で、ナタが泣いている。

 どうにかして、その涙をぬぐってやろうとして、ククリは気づく。

 自分の、鋭い爪が生えた指先。

 こんな、化け物の腕で。……いったいどうやって彼女の涙をぬぐう? どうして、彼女に触れられる?


 ……気にしないようにしていた。だけど、今となって後悔の念が押し寄せる。

 化け物にならなくちゃ、ここまで来れなかった。……だけど、化け物になったからこそ、俺はもう彼女に触れてはならない。


 ……俺はもうどうなってもいい。……どうなってもいいから、彼女だけは救おう。


そう思ったが、そもそもククリには彼女を救うことができない。


 もう、一切打つ手がなかった。




「……絶望したか」

 何一つ感情を見せない氷のような顔で、アルカナシアはククリを見つめる。 

 絶望し、力なく膝を落としたククリと、その横で泣き続ける妹を見て。――僅かな躊躇の後、アルカナシアは氷のような顔のまま、カードを握る。

 「神雷」のカードを使おうとした、まさにその時。アルカナシアは違和感に気づく。


 壮絶な笑みと、苛烈な殺意。静謐な諦観と、混沌としたドス黒い熱量。

 溢れんばかりの生への執着。それを勇ましくも諦め遺棄し、苛烈なる殺意へと変える。


 様々な感情が混ざり合った凶悪な空気を放つギンドロは、ポン、と軽くククリの背を叩いた。

「――――カトラに言われたことを忘れたか? もう少し、人を頼るということを覚えろ」

 ギンドロは笑ったままククリにそう言うと、硬直していたアルカナシアに向き直る。

「どうやら、俺はここまでらしいな」

 警戒した目で、アルカナシアがギンドロを睨む。

「……人間でありながら、我が雷を受けて立っているのだ。……じき死ぬ」

「そうだ。……つまり、命を捨てるなら今ってことだな」


 ギンドロが、首元にかけた流星を模したネックレスを掴む。


「お……」

 何か言わないと行けない気がして、ククリは口を開いた。だが、うまい言葉が見つからない。

 ナタに酷いことをした組織の幹部、今まさに命を捨てようとしている男。……ククリにとって、最も古い顔見知りの一人。

 ……そんな男に贈る言葉が、ククリには分からない。

 そんなククリを見て、ギンドロは壮絶な笑みを一瞬だけ引っ込めて、ごく普通に笑った。

「昔言ったろ? お前は面白い奴だと。――あの時のゲームは見事だった。今度は俺が、大逆転劇ってものを見せてやろう。……お前のような、美しいものじゃないがな」

「……何なンスか。そんなの必死だっただけッスよ」

「だろうな。俺も今回必死なだけだ。――せめて、お前だけは生きろよ」


 流星を模したネックレスを引きちぎる。


『――――今、星は落ちる』


 厳かに呟かれた言葉。ギンドロの身体に異変が生じた。

 血だらけになってもなお決して脱がなかったダークスーツが弾け飛ぶ。 

 身体が膨張し、皮膚が硬化する。……やがて、そこには一匹の竜が現れた。


 ――――ギンドロが、本来の姿を取り戻す。


 それを見て、初めてアルカナシアの顔に焦りが生じた。

「ナタスタシアから研究していたという人工アビリティカード『竜人融合』! 竜の力を分散して複数人で使い、非常時だけ融合し巨竜となるカード。……まさか、あの研究は完成していたのか……!!」

 アルカナシアが命じていたのは、カードの「使用」禁止。ククリの吸血鬼化同様に、既に発動している効果には意味を成さない。


「不安定ダガナ。……コレハ、何ダッテ融合スルンダ。何ダッテ」


 ぞくり、と恐怖がアルカナシアの全身を駆け巡り――そして、歓喜した。


「ナタスタシア、【私を守りなさい】!」


 そう言い放ち、アルカナシアは必死に神雷を放つ。

 雷が、ナタスタシアの拳が、竜の身体を打ち砕く。 

 だが。どれだけ致命傷を負おうと、竜は、ギンドロは止まらない。


 ついに、ギンドロの手がアルカナシアの身体を掴んだ。

 その背に、ナタの蹴りが炸裂する。


 口から大量の血を零しながら、竜は笑う。

 自らの終焉を実感し、アルカナシアも笑う。――ようやく、これで終わると。


【『融合』】


 泣きながら拳を振るうナタ。凄絶な笑みを浮かべるアルカナシア。死にゆくギンドロ。


 三人の身体が黄金色の光と共に消え失せる。


 そして現れる、巨大な影。


 巨城が崩れる。


 ――――そこに現れたのは、巨大な、あまりにも巨大な一匹の竜だった。



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