六章02 空中戦
ダタン帝国の首都、No.0は他の都市とはまるで異なる。
No.7のように、摩天楼が並ぶ近代的な景色は無い。また広大な領域を持つ、他のNo.持ちの都市とは異なり規模も小さい。
No.0は中央に座す白亜の巨城を軸に、ひし形に構築された人工的な都市だ。
ダタン帝国という国家の政治的な中心地ではあるが、経済的な中心地では無い。
経済的な中心地はNo.1。世界広しといえど、No.1ほどの巨大都市はそうそう無い。
No.0は、No.1で稼いだ金を積み上げて建築された理想郷だ。
住人は皇族と、巨大企業のトップ達。……この国に君臨する、真の強者のみ。
彼らを守り、少しでも彼らが豊かな暮らしをするために、無数のメイド、執事、コック、兵士達が特別に住むことを許されている。
この国の象徴にして、頂点に在る巨城。
ククリ達を乗せたワイバーンは、玉座を目指し、閃光のように駆けてきた。
そして、ついにその巨城が見える。
ワイバーンに乗る四人の誰もが、思わず言葉を無くす。
――――誰も見たことの無い、巨大過ぎるその城を見て。
出雲間からその姿を見たククリ達は、勘違いをしてしまう。
もう随分と間近に来たんだと思い雲間から飛び出したが、いつまで経っても城にたどり着かない。
ククリ達が巨大すぎる城のサイズに気づくまで、数分かかった。
「いや……デカすぎッスよ」
俺の知ってる城はこんなデカくない……マウスーランドのやつしか見たこと無いけど。
自分でも分からない前世の記憶――謎の言葉と謎の景色を反芻しながら、目の前の城に驚愕する。
「なぜあんなにも大きくしたのだ? やはり金持ちの道楽は、小生には理解できぬ」
「うっかり降りちまったけど、ありゃ山だな、もう」
「……早く雲間に隠れろ」
ギンドロの忠告にグラッチェが溜め息を吐いた。
「悪い。もう、手遅れ」
グラッチェが顎で前を指す。前方には、離陸した無数のワイバーンが城下からこちらに向かって来ていた。
その背には、無数の兵士達が乗っている。
「No.8の時より多いッスね。……カトラ、百雷でどうにかならないッスか?」
「皆殺しでいいなら。あれだけ速いと、牽制として撃つのは厳しいな」
「そうッスか」
「攻撃しないのか?」
ククリの反応を見て、意外そうにギンドロがククリを見た。
「寝覚めが悪いッスからね」
「…………なるほど」
ギンドロはもう、何も言わなかった。
空中戦は地上での戦いに比べ、前後左右に追加し、上下の動きまで加わる。
それは射撃戦においても、格闘戦においても、大きな違いとなる。
「――――!!!」
鬨の声が上がる。
前方のワイバーンに乗った兵士達が隊列を組み、隙の無い高密度の弾雨をしかける。
「クソッ」
グラッチェは舌打ちすると、急速に高度を落とした。
殆ど垂直の、落下に近い移動。
城下街に突風が吹き荒れる。
急速に降りた後は、今度は大地と平行して飛ぶ。
悲鳴が飛び交い、露天の商品や、洗濯物、ゴミ、様々なものが宙を舞う。
兵士達も、城下街に銃撃はできない。
ククリ達を追い、兵士達の一部が隊列を組んだまま城下に降りてくる。
それをギンドロとククリが、射撃系カードで撃ち落としていく。
気絶した兵士達はパラシュートによって、ゆっくりと地面に落ちていった。
「……このままじゃダメだな」
「ッスね」
ギンドロの言葉に、ククリも頷く。
敵の数が多すぎる。
練度も高い。敵は組織的に、効率的に動き、ククリ達を追い詰めていく。
城に向かっていたはずのククリ達は、いつの間にか城から遠ざかり、敵の大隊が待ち構える場所へと誘導されていた。
「確かに数も鬱陶しいが、そっちじゃない。――城を見ろ」
「城?」
「肉眼じゃない。――「遠視」カードは持ってないのか?」
「あ」
そういえば持っていた。……便利なのだが戦闘ではなかなか使う機会に恵まれず、忘れていた。
「……早く使え」
呆れた口調でギンドロが言う。ククリはポケットをまさぐり、しばらく使っていなかった「遠視」のカードを引っ張りした。
すると、肉眼では見えていなかった……巨城を覆うエネルギーの塊が見えた。
「なんだ……アレ? 巨大な……バリア?」
「ご名答。――あれは、巨大な、巨大すぎるバリアだ」
「デカすぎないッスか? それに分厚すぎる」
「まさに。あれをどう乗り越えるか。それが問題だ」
ワイバーンに乗った兵士を撃ち落ちしながら、ギンドロが問う。ククリは悩んだ。
「爆裂砲か……。いや、爆裂砲でも火力不足か? だが連射すれば……隙が大きすぎるか?」
ぶつぶつ、とククリが呟く。横から、カトラが溜め息を吐いてギンドロを見た。
「その口ぶりと余裕から察するに、貴様、手があるのだろう?」
「フッ。よく分かったな」
ニヤリと笑い、ギンドロが懐から一枚のカードを取り出す。
……そのカードを、ククリは、知っている。よく知っていた。
――――青い鳥が撃ち抜かれる絵と共に、「エネルギー弾・タイプX」と書かれたカード。
盗まれた、ククリのカード。
「さぁ――派手にいくぞ?」
視界を埋め尽くす青いエネルギーの塊が、城下をすり抜けバリアのみを貫いた。




