五章10 決闘
ククリがこれまで出会ってきた中で最強と呼べる者の一角が、ヒューマノイドの参だ。
少女の姿からは想像もできない、人を超えた規格外の怪力。
指先から放たれる弾丸と、それを補助する二枚のカード。
「命中率0%」と「命中率100%」。極めて珍しい変化するカードであり、「命中率0%」は狙ったものは必ず当たらないというハズレカードだが、使用して一定時間が経過すれば、狙ったものが必ず当たる「命中率100%」へと変化する。交互に変化するこの二種類のカードを使い、接近戦と中距離戦を繰り返す。
あらゆる距離に対応可能。そしてどの距離でも強い。
……ククリもまた、万能寄りのカード構成・能力を持つ。だが……。
――――基礎スペックにおいて、ククリは参に遠く及ばなかった。
参の指先が赤く光る。粒子が集束し、エネルギー弾が地を這い駆けた。
バリアがエネルギー弾を弾く。……だが、バリアに亀裂が入った。
反撃にククリも雷鳴弾を乱射する。参は華麗に避けたものの、何も無い真っ平らな場所で全段避けるのは難しく、一撃ヒットした。
「やっぱ爆裂弾よりは効果高そうッスね」
バチバチと音を立てて電流が、参の身体を巡っている。こっちの方が効果ありそうだ。
参はククリを見据えながら、指を伸ばした射撃体勢から、手を握り前へ突き出した体勢へ――ファインティングポーズへと切り替えた。
「やはり、データ通りの動きをする方ですね」
「……何のことッスか?」
答えながら、ククリは次の手を考える。
……やはりここは厳しいか。平坦なこの場所では、スペックの差がモロに出る。
どうにか場所を移さないと。
「あなたは機械に近い。私と同じ、ヒューマノイドと似通った思考回路を持っている」
「何を言っているッスか? 俺は人間ッスよ」
「――ですが、記憶の無い転生者です。その行動は合理的で、クセが無い」
参が駆け、ククリに迫る。
ククリは割られる前に慌ててバリアを解除し、突き出された正拳を鬼の右腕で受け止めた。 キュルキュルキュル、と参の身体から音が漏れる。
モーターのような、何かが回転する音だ。
「ぐっ……」
金剛力を与える鬼の右腕をもってしても、参の怪力には及ばない。
そもそも、このカードが力を与えるのはあくまで右腕だけ。
参の正拳を受け止めたことで、ククリは肩が引き千切れるかのような強い痛みを感じた。
「クセが強い相手は読みやすい。ですが同様に、クセが全くない人間もまた、読みやすい。こちらがやられては困る手を淡々と打ってくるだけですから」
「好き放題言うッスねぇ……なら、試してみるッスか?」
空いている左手で軍刀を抜き、参の首筋めがけて一閃する。
直後、ククリは目を見開いた。
参はあっさりと刃を手で掴み、そのまま軍刀を折ってしまった。
「その程度、止まっているようにしか見えませんよ」
参の蹴りが、無防備なククリの腰を打つ。
二メートル近く、ククリの身体が宙を浮き、飛ぶ。
ごろごろとコンクリートの上を転がりながら、ククリは雷鳴弾を構えた。
口から血が零れる。
ククリは確信する。
もう、二度と参を近寄らせてはならない。
甘かった。
鬼の右腕を得たからといって、それだけでは、参に接近戦で対抗できない。
ヒューマノイドと人間。そのスペックの差は、想像以上に大きい。
牽制に雷鳴弾を乱射し、再びバリアを張る。
そしてもう片方の手で、爆裂砲のカードを握った。
「クソ、キッカめ……」
参の運動性能が、以前と比べて格段に向上している。
動体視力と俊敏性が段違いだ。以前は、射撃攻撃を全弾かわすような、超人的な動きはできなかった。……いくら銃弾よりは遅いと言っても、十二分に速いはずなのだが。
それに、あの赤いエネルギー弾。一撃で、バリアに亀裂を入れてきた。
ククリの持つ爆裂砲は、亀裂どころか一撃でバリアを消し飛ばす破壊力を秘めている。……だがその代わり、発射まで隙が大きい。構えてから撃つまでに少し時間がかかり、銃と正面から撃ち合いはできず、使いどころが限定されている。
参の赤いエネルギー弾もまた、発射まで時間がかかり、その上威力は爆裂砲に劣っている。だが問題なのは、それでも十分強力な火力と、参の隙を生まない、いざとなれば高速で動ける機動力と、「命中率100%」のカードの組み合わせだ。
ククリの持つ能力・カードでは、爆裂砲は隙が大きく、裏をかいたり意表を突いたりと考え隙を消し、命中させるために一工夫する必要があるが、参はそんな小細工必要ない。
敵の攻撃は避け、ただ撃てばいい。それだけで、敵は致命傷を負うのだ。
なんとも凶悪極まりないコンボだった。
参は近づくのを諦め丁寧に全弾かわすと、案の定、再び指先から赤いエネルギー弾を撃った。
エネルギー弾は雷鳴弾の嵐をすり抜け、バリアの亀裂の中央に直撃する。
バリアが消滅する。再使用できるようになるには、時間がかかりすぎる。……もうこの戦闘では使えないだろう。
ククリはばらまくように連射した雷鳴弾の最後に、爆裂砲を放った。
雷鳴弾を避けるだけでも難しいのに、トドメに爆裂砲まで撃ったのだ。
バリアを破られた以上、これを食らってくれないと困る。
轟音が轟く。
ただしそれは前方では無く――――ククリの後方からだった。
「やはりあなたは…………私に近い」
ククリは、痛みと、本能的な恐怖を感じた。
気がつくと背後にいた参が、ククリの首を絞めているのだ。
参の背後には、足の形に砕けたコンクリートが見える。
おそらく、待っていたのだ。ククリが、爆裂砲を撃つ瞬間を。
空中数メートルの高さまで跳躍してかわし、爆発で視界を失ったククリの背後に立つ。
それだけで、勝負は決まった。
スペックだけでなく……読み合いでもククリは負けたのだ。
「あなたは私に近い。合理的に勝ち筋を見いだし、実行に移す行動力は良いです。……ですが、だからこそ私相手にはジャイアントキリングができない。視座が同じなら、後はスペック勝負になる。あなたの性能は、私より遙かに劣っています」
参の瞳が、興味深そうにククリの瞳を覗き込む。
「大変興味深いです。……私は、オリジナルの『参』を同胞だと思ったことはありません。あちらの『参』には確固たる自我が芽生え、意思があります。戦闘だけに特化した私とは根っこから既に違う。……私には従順であることと、戦闘能力以外求められたことは無い。意思のない、人形のようなもの。ですが、あなたには仲間意識を感じます」
息が詰まり、苦悶の表情を浮かべるククリを、じっと参は観察し続ける。
「あなたもまた中身が乏しい、人として、どこか欠落している。……それなのに、こうして国に逆らい、死にそうになっているのはなぜです? 人のいう、『愛』というやつですか? 人として不完全なあなたは、ソレを持っているのですか? それとも、求めているのですか?」
参が、じっと瞳を見つめる。
参の言葉に、ククリは何も返さない。何も、返せない。
朦朧とした意識の中、ククリは、まだ、諦めていなかった。
全てのカードが、戦術が無意味だった。
それでも、諦めない。諦めきれない。
きっと、まだ手はあるはず。
その言葉が何度も心に浮かび、薄れていく。そして――ついには消えてしまった。
どうして俺がこんなめに?
……やめよう。無意味な考えだ。
もう、痛みも薄れてきた。…………これは流石に俺、死ぬッスね。
……ナタはどうしているだろうか。
会いたい。
ナタ。竜化しかけている、この国の皇族。俺の冒険の連れ合い。
……やっぱ、まだ死にたくないッスね……。
ナタのことを考えていると、ふと、ククリはあることを思い出した。
――――最後に一つ、まだ手が残されていることを。
「…………っ」
ククリの手が、ポケットに向かう。
……キッカに渡し忘れていたッスけど、最後の最後で運がいいッスね、俺。
そのカードを使えば、おそらく、この状況を打開できるだろう。
だが、それは同時に、重い代償を払う必要がある。
しかし、それはククリにとっては、些細なものだ。
払う代償は「人間を辞めること」。
記憶の無い転生者ククリにとって、人間であった時間は半年も満たない。
なら、何も問題ない。
そんなものは、代償に入らない。
首を掴んでいた参の手を、ククリの両手が掴む。
そしてそれを、ゆっくりと剥がした。
「…………! あなたは」
参が驚き手を離し、距離を取る。
ククリの外見が、少し、変化していた。
瞳は紅色になり、髪は鮮やかな銀髪に変わっている。
肌は病的に白い。口元からは八重歯が覗き、そして体つきは変わらないというのに、参に負けない怪力を得ていた。
かつてククリがカトラの助力を得て討伐した、吸血鬼の力が内包されたアビリティカード。 「吸血鬼化」のカードは、絶大な力を得られる反面、一度使えば、二度と人間には戻れない。
人を辞めた男と、最初から人では無い女が、改めて対峙する。
「なるほど。……人を辞めた程度で、私に対抗できると?」
「さぁ? こっちも始めてッスからね。――でも、勝負はまだこれからッス」
俺は人間をやめるぞ、J○JOーーー!!! って感じ?




