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五章06 再会

 ククリにとって、こんな時に頼れるのは、もうキッカ博士くらいしかいなかった。

 彼女が造ったヒューマノイドの参は頼りになるし、キッカにはどうしても頼みたいことがあったのだ。



 繁華街も寝静まる深夜と早朝の中間くらいの時間に、ククリはそっとキッカの研究所に忍び込んだ。

 既に自分は指名手配犯。正面から入れば迷惑だろう。

 広くごちゃごちゃしたキッカの研究所。その隅っこの窓に小さな穴を開け、鍵を開けて中に忍び込んだ。

「すっかり夜盗ッスね。……こりゃ指名手配されるワケだ」

 ククリはそう嘯き、周囲を見渡した。

「……いないな?」

 普段なら、参が駆け寄って来るハズ

 首を傾げながら、ククリは歩き出した。一ヶ月もここで暮らしていたので、どこに何があるかはだいたい把握している。

「留守か?」

 疑問は感じたが、一先ずククリはキッカの私室に行ってみることにした。


 コンコン、と軽くノックし、しばらく待って反応が無かったので、扉を開けて中に入った。

 ――――中にいたのは、ベットの上でごろごろと転がる寝間着姿の少女、キッカただ一人だけだった。


「……おのれ政府め。この大天才キッカ様を馬鹿にして、許さん」


 ごろごろと転がりながら、こちらに気づかず延々と呪詛の念を吐くキッカを見て、ククリはなんとも言えない気分になった。

 漏れ聞こえる「大天才キッカ様」という言葉。相変わらずの自信とイカレ具合らしい。

「マム。お客さんです」

 どこからともなく、参の声が聞こえてきた。

「客ゥ? こんな朝っぱらに? ……ったく、どんなデリカシーの欠片も無い奴なの」

「……今回は流石に、フォローのコメントを控えます」

「待たせといて。間違っても部屋に入れないでよ? いくら人類の至宝たる私でも、プライベートな瞬間はあるから」

「もう入ってきてます、マム」

「――――え?」 

 

「おはよッス」


 ククリがひょい、と手を上げた。

「…………」

 しばし無言でククリを見たキッカは、顔を赤く染め。

「うっきゃーーーーー!!!」

 と叫び、意味も無く胸元を両手で隠した。

 ククリはそれを見て、ゲラゲラ笑った。

「うきゃ、って猿じゃないか。朝なら鶏ッスよ」

「…………死ねぇぇぇぇ!」

 キッカは叫び、枕横に置いていた護身用の銃を手に取った。

「うおっ。や、やめろッス」

「何がよ、このド変態がっ!」

 単発式の銃から飛び出す銃弾が、ククリを襲った。

「この大天才キッカ様の寝所に忍び込んだ罪、万死に値する!」

「脳だけじゃ無く、外見すら自信満々ッスよね、キッカは相変わらず」

「何か文句でも? 私は完璧よ! ……ちょっと政治には疎いけど」

 本気で当てる気は無いらしい。だが怒りは収まらないようで、ククリの頭上を何発もの銃弾が飛んでいった。

「マム、落ち着きましょう。彼がこの時間、ここに来た理由、分かっているはずです」

 参の言葉を聞いて、キッカはようやく銃を撃つのを止めた。

 だが相変わらず、恨みがましい目でククリを睨んでいる。

「……ククリ。前々から思っていましたが、あなたは少々、いやかなりデリカシーに欠けていますね」

「そんなに欠けているッスかね?」

「はい」「そうだよ」

 参もキッカも断言した。

「だけど仕方無いッスよ。昼に行けば研究員がいるじゃないッスか」

「仕方ない、で何でも通ると思っているのが、あなたのデリカシーが欠如していることの源ですね」

 よく分からない。理不尽な気がするが、でも同時に凄く納得がいってる自分もいる。

「そうなんスかね……。ところで、参はどこに?」

「ベット横のテーブルを見てください。それです」

 ククリがベット横を見ると、小さなプラスチックケースが置かれていた。

 それだけだ。

 間違っても、ヒューマノイドがいたりしない。

「私のボディは今、町を周回しています」

「…………どして?」

 その答えは分かっていたが、念のため尋ねた。

「――勿論、あなたを殺すためです」




 参の人工知能から、戦闘データだけ回収して新たに組み直し、完全な戦闘兵器と化した人工知能。それに、より戦闘に特化した装備を追加した新ヒューマノイドが、ククリを殺すために町を闊歩しているらしい。

「あなたが出会わずにここまでこれたのは、運ですね。ツいてますね、相変わらず」

「いやいや。なんでそんなことするッスか? 俺、悪いことしたッスかね?」

「デリカシーの欠如した指名手配犯が何か言ってるな。頭大丈夫か?」

 あくどい笑みを浮かべながら、キッカがトントン、と自身の頭を叩いた。

「……どれだけ大天才だの美女だの言って威張っても、国には逆らえないと?」

「言い方に腹が立つが、ま、そういうことだ。前々から要請を受けて造らされていた戦闘用の人工知能をそのまま積んである。超強いぞ☆」

「それで人が死ぬかもって時に、自信満々で威張るなっ!」

「博士、殺される人の気持ちを考えてください。あなたもあなたで他人を思いやる、という人として初歩的な思考が欠如していますよ」

「うっさい! コイツだけはいいのよ、コイツだけは!」

 キッカは怒鳴ると、改めてククリを見た。そして、急にまじめな顔になって話しだした。仕切り直し、ということだろうか。


「……聞いてはいたけど、腕が千切れてなお戦って、吸血鬼を倒したんだって? それは凄いわ。素直に褒めてあげる。あの子……ナタが皇族だと分かっても放り出さずに、助けようと奮闘しているのも聞いてる。そこも凄いわ。私は大天才だけど、だからこそ、そんな捨て身の生き方はできない。だからあなたのことは()()認めてあげる。……。それで? このキッカに何を頼みに来たのかな?」

 

「仲間が一人いると聞いています。彼女についてでは? ここにいませんし」

 ククリはため息を吐いた。

「それもあるッスけど、流石に博士に尋ねるのはお門違いッスよ。俺の目的は一つ。……グラッチェと連絡を取りたいンスよ」


 かつて妹の治療費のために、ククリの報酬をふんだくった男。

 一度だけ命に代えても助けるとククリに誓った、運び屋のワイバーン乗り。神速のグラッチェ。


「…………あんた、悪魔ね」

「鬼ですね」

 その質問で全てを理解した二人は、呆れて呟いた。ククリは悪人のような、非常にあくどい笑みを浮かべた。

「金の恨みは重い。俺から金を盗ったなら十一(といち)が相場だ。――――アイツには俺達のために、相棒のワイバーンと一緒に、城に突入する足になってもらう」

 デリカシーが無いうえに、人の心が分からないクズ野郎ですね、と参が初めてククリをまっすぐ罵倒した。

久々のギャグ回です。

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