五章02 襲撃Ⅰ(前)
爆音が鳴ったのは、No.7に入ってすぐの頃だった。
No.8の駅が燃えていて止まることができず、その上、指名手配されている賞金首が二人、列車に侵入したという情報が入り、既に混乱していた乗客達の理性は、これで完全に崩壊してしまった。
その侵入した指名手配犯であるククリとナタは、押し入って先客のいた個室を占拠し、潜伏していた。
客は未亡人の老婆が一人。今は、疲れたのかベットの上で横になっていた。
再び爆音が鳴り、列車が大きく揺れた。
「こりゃ不味いッスね」
「乗客を巻き込んでの襲撃とは恐れ入る……政府ではないな?」
「ただの冒険者ッスね。まぁ、No.7ッスから」
「噂は小生も聞いていたが……イカレてるな。汝の故郷、No.7は」
「そうなんスよねぇ……」
ククリは懐から金貨を一枚取り出すと、横になっている老婆に差し出した。
「色々悪かったッスね。コレ、お詫びッス」
老婆はマジマジと金貨を見た。金貨は例え一枚でも庶民にとって大金だ。驚くのも無理はない。
ククリは勝手に使っていたティーカップを流しに持って行ってから部屋を出た。その後をカトラが続く。
「いいのか? というか、よく金貨なんて持っていたな」
「俺の金じゃないッス。さっき駅で逃げていた時、倒れている兵士が懐から零れ落としていた財布を、いただいてきたんスよ。金はいつ必要になるか分からないし」
「…………前々から思っていたが、汝は必要とあらば全く躊躇わないな。No.7の人間らしい」
「? 必要とあれば、躊躇う方が馬鹿じゃないッスか?」
「やはり汝もイカレてるな……」
話している間に、ククリはカトラを見てあることに気がついた。
「カトラ。……刀を忘れているッスよ」
「…………」
カトラは、自分の腰を見た。そこには何もない。
「不覚。剣はこれまで手放すことなど殆ど無かった故、失念していた」
「あんなデカい剣を置くことがないっていうのが、頭おかしいンスけど?」
ここぞとばかりにククリが言い返すと、
「小生達は仲間だったということだな」
と返してきた。
これには返す言葉がない。
ククリとカトラが引き返し、扉を開けるのと同時に、最も近くで爆音が轟いた。
老婆の部屋が吹き飛ぶ。
ククリは吹き飛ばされ、廊下の壁に叩きつけられた。
痛みに顔をしかめつつククリが目を開けると、ひっくり返ったベットの下でもがく腕が見えた。老婆だ。だが一方、カトラの姿が見当たらない。
次の攻撃に備え匍匐前進で進んでいると、煙の向こうでようやくカトラの姿が見えた。
「ぐっ……」
列車の壁に空いた大穴の端で、落ちないように必死に壁を掴んでいる。
「カトラ!」
ククリが立ち上がり、カトラを助けようと手を伸ばす。
「スマン。……頼む」
ククリの手がようやく届く、というところで、また爆発が起こった。
列車が未だに走り続けていたからだろう、敵は容赦が無くなったようだ。
「きゃっ!?」
カトラが珍しく悲鳴を上げる。
衝撃で、壁から手を離してしまう。
「カトラーー!!」
ククリが叫び、身を乗り出して手を伸ばすが、もう遅い。
カトラは眼下のスラム街に落ちていった。
列車は高所に設置された線路の上を走っている。とはいえ、今走っていた所は、それほど高所というわけでもない。
一般人はともかく、冒険者のカトラならあんな風に落ちても、きちんと受け身をとる。骨は折れるかもしれないが、死にはしないだろう。
どうするか。俺も、飛び降りようか……。
そう悩んでいる間も列車は走り続け、風景が次々と走り去っていく。
カトラと違い、射撃戦よりで格闘戦経験も訓練経験も少ないククリは、受け身がきちんとできるか、正直自信が無かった。
合流はできるが、下手すると怪我人が二人か……。
「…………」
悩んでいる数十秒の間に、カトラが落ちたところからかなり離れてしまった。
「タイミングを逃したな……」
結局飛び降りずに老婆を助け出すと、床に転がっていた軍刀を回収した。
部屋を出る。
列車は、まだ止まらない。
爆発は止まず、既に車内は火の手が上がっている。
何かの弾みで線路を外れたら真っ逆さまだ。危険を考えれば、止まるべきだ。
だが、列車は止まっていない。
おそらく逃げ切るつもりなんだろう。
列車は速い。待ち伏せ組がどれだけいようと、射程圏から出れば何も問題ない。
そういう考えに違いなかった。
だが急に、列車は止まった。
「臆したか……?」
何にせよ、ククリにとってはありがたくない状況だ。
爆発も止んだ。敵も大砲を撃つことは止めたらしい。
…………これが最後のチャンスだ。
ククリは乗客が混乱し、我先にと列車から降りている車内をぐんぐんと進み、第一車両に向かった。
第一車両では、乗客と喧嘩している機関士と車掌の姿がった。
話は支離滅裂で、走るべきだ、降伏すべきだ。機関士が悪い、指名手配犯が悪い、No.7の治安がどうだ、というような話を繰り返している。
急に列車が止まったのは、おそらく乗客の指示だろう。
ククリは降りる人の波に紛れて降りると、そっとその場を離れた。
列車と線路、その土台からもうもうと火と煙が立ち上がっていて、視界は悪い。ククリにとっても、敵にとっても。
ククリは火と煙で身を隠しながら逃げ出した。




