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四章02 欲望

遅れてすみません。

四章からタイトルをつけることにしました。

 ラナの森を、三人を乗せた馬車が走る。

「一先ず逃げ切ったか」

 ククリがほぅ、と息を吐く。

「……助けに来た援軍に爆裂砲の威嚇射撃、なんて鬼畜な所業、よくできる」

 ジロ、とナタが睨んだ。

「いや、しょうがないッスよね!? 見逃してくれるハズないし」

「然り。むしろ、感情に流されない合理的な判断を評価すべきかと」

「カトラ……」

 カトラのフォローに、感極まってククリは声を震わせる。ククリのことを庇い、フ


ォローしてくれるような人物は久々だ。

 だが、ナタは首を振った。

「ククリの場合、そこまで考えが及んでいたかは疑わしい。目の前に脅威がある、即


排除するに限る。……そんな、短絡的思考だと思う」

「酷いな、ナタは……」

「だけど、事実」

「…………」

 図星だったので、ククリはだんまりを決め込んだ。……いつも通りに。

「ところで……先程は勢いだった故、事情も聞かずに斬りかかったが、あの姫はおぬ


しの姉なのか?」

 カトラが話を変えた。

「そうだ。それを話してもらう約束ッスよ」

 そう言いながらも。ククリはチラ、とカトラを見た。

「……話してもらう前に、カトラに聞いておきたいンスけど……もし、ナタが皇女だ


ったとして、その時は殺すつもりナンスか?」

「保留だ。館で数日話した限り、好感が持てたからな。本性が悪だと悟れば、その時


は斬る」


「……どう思う?」

 カトラに聞こえないように、ククリは耳元でナタに話しかけた。

「ン……たぶん、大丈夫。嘘は言っていないように見える」

「そッスか」

 人を見る目は、ククリよりナタの方がある。その辺、ククリはナタの能力を信用し


ていた。

 ただ、そうは言っても全く不安が解けたわけじゃないらしい。

 珍しいことに、ナタはぎゅっとククリの手を握り、それから話し出した。


「――――確かに、アルカナシアは私の姉。私の名はナタスタシア。ナタスタシア・


ルーイス・ダタン。この国の皇族の血を引く者」

「やはり、そうか」

 カトラの目がスッと細まる。だが、それ以上何も言わなかった。

 ククリは話を続ける。


「私は「王者の風格」という固有スキルカードを持って生まれた。故に、末子だとい


うのに赤子の私は次代の皇帝に担ぎ上げられ、ジョン皇子と次代の帝の座を巡り争う


ことになった。……私が謀殺されて、代わりにその隙を付け入るように勢力を拡大し


たのがアルカナシア」

「……謀殺ッスか?」

 ナタが頷く。

 同時に、馬車が揺れた。



「敵の攻撃か?」

 手綱を握りながら、ククリはさっと後方を確認した。

「…………」

 人影は見えない。まだ日は高く視界は良好だ。森は鬱蒼としていて、遠距離射撃は


難しい。見逃すとは思えない。きっと気のせいだろう。

「たぶん、大きな木の根で車輪が跳ねたのだと思う」

「そうか。……そうだな」

 カトラの言葉に、ククリも納得した。 

「クエストの援軍で来た冒険者と兵士達から逃れるために、あえて古道や獣道同然の


道を通っている以上、こちらの馬の消耗は早い。加えて馬車の轍は追跡が容易だ。…


…早々に馬を捨てて、どこかの町に潜伏したい所だがな。あいにく、小生は地理には


疎い。そこは任せる」

「俺も疎いッスよ」

 二人の死線が、ナタに向いた。

「……それはちゃんと考えてある。大丈夫」

「そうか、ならいいや。話の続きをお願いッス」

「……分かった」

 ナタが頷き、続きを語る。


「あの時のことは、私もよく覚えていない。深夜で眠っていたし、多分、何か毒を盛


られたんだと思う。当時地方の視察に出かけていた私は、賊に襲われた。そして世間


に発表されたように、そこで殺されるはずだったんだと思う。でも、賊は私の固有ス


キルに目を付けた」

「その賊って、「8」ッスよね?」

 ナタは頷いた。

「『8』ってのは、あの悪名高い犯罪組織のことで相違ないか?」

「そう。……私は「8」にとって魅力的な研究素材だった。…………どうにか偶然に


助けられながら脱出した後、「8」の下位組織の長でありながら、「8」に強い恨み


を持つ奴隷商のオーリーに秘密裏に拾われ、奴隷になった。……やがてオーリーは失


脚し、きっと最後に、「8」への復讐を願ったんだと思う。それで、オーリーを破滅


させた要因の一人であるククリを私の元へ送った。いずれ「8」に暴かれる場所から


、私を逃がすために」

「それ以来、二人は一緒にいる、ということか」

 カトラは納得した、という顔をして、立ち上がってひょいとナタのフードを取った


 赤面し、慌ててナタはフードを被り直した。それでも一瞬、ナタの頭に生える角が


しっかりと見えた。


「お前のそれ、ちと気になっていたが、そういうアレか。被検体になったせいだな」

「見えてた……?」

「戦闘中や走っている時に近寄れば分かる。……まぁ、さっきの話を気くまでは、ド


ラゴノイドか何か、そういう亜人種だと思っていたが」

「そう。……これは、理性を失う代わりに、人外の力と姿を得られるアビリティーカ


ードが半端に発動した姿。私の固有スキル「王者の風格」には、どんな目に合っても


理性を失わない強さを与える、リラックス効果がある。単体だと暴走せず、権力に溺


れず、常に冷静に統治できるという能力だけど、それが、アビリティカードの理性を


蒸発させる代償を押し留めている。その反動で、私はある程度人の姿を保っていると


いうわけ」

 理性を失えば化け物になれるカードだから、理性を失っていない以上、化け物にな


れない。そういうことか。


「「8」は私のような人間を量産して兵士にしたかったみたい」

 カトラがため息を吐いた。

「欲深い組織だ。……確かに、それは最強の軍になるだろうが、実現するとは小生に


は思えん。非現実的な夢物語に過ぎぬ。……この国でも盗ろうと思っていたのかもし


れぬな。抗争に勝つ程度ならば、求めるには過ぎた力だ」

「かもしれない」

 誰もが重いため息を吐いた。……それで、一先ずナタの話は終わった。 






 空が暗く澱み、ザァザァと、雨が降り始めた。あっという間に地面が沼のようにぬ


かるんだ。

「これは進めないッスね。馬達が無駄に疲れるだけだ」

「うん。でも、もう少しだけ進んで。今なら轍も目立たない。この間に距離を稼ぎた


い」

「了解」

 それから前世の時間で二時間ほど馬達を走らせた。そこで馬車を林に紛れるように


止めて、馬達を休ませた。


 相変わらず、雨は強い。湿気で重たくなった空気は三人を気落ちさせたが、

この雨は三人にとって天恵でもあった。目的地まではまだ遠く、轍が消えるこの雨は


追跡を警戒しなくてもいい。休むには絶好の機会だ。


「さて……では小生はそこの林で寝る。馬車は二人で使うがいい」

 そう言うと、雨の中あっさりとカトラは馬車から降りてしまった。

「なぜ? 外は冷える。中にいた方がいい」

 そう言って引きとめようとするナタの額を、カトラが突いた。

「痛っ」

「……こんな状況だ、最後の機会になるやもしれぬ。話したいこと、やっておきたい


ことがあるのではないか? 些細な縁と義憤、私怨から味方についたが、元々小生と


汝らは他人だ。小生がいれば気を使おう」

 カトラは硬い表情を和らげると、さっさと雨を避け林に入り、手馴れた手つきでハ


ンモックを設置して寝転んでしまった。




「「…………」」

 そんなこと言われても……、というような、なんとも言えない空気が充満した。ク


クリとナタ、二人して困ったような顔をして見つめあい――結局、互いに何も言わな


かった。


 無言のまま、ククリは小さく息を吐く。そしてさりげなく視線を逸らしながら、こ


っそりナタの方を見ると、同じようにこっちを見ようとしていたナタと目が合った。

「「…………フフッ」」

 数秒の後、二人は笑い合った。なんだか馬鹿馬鹿しくなったのだ。

「ダメ。私まで、ククリみたい」

「どういう意味ッスかね?」

 まぬけみたいだとか、そういう意味か?

 しかし、ナタはいつものように、それには答えなかった。

「……まぁいいッスよ。それより、もう寝ないッスか? こんな事態だし、体力は温


存したいし」

 ククリがそう言うと、ナタは申し訳なさそうな顔になった。

「ごめんなさい。こんな事態に巻き込んでしまった……」

 ククリは己の失言に気付く。

「いや、いいッスよ別に。このクエストを受けたのは俺だし、まぁ、生きていたら色


々あるッスよ」

「記憶喪失なのに、そんなこと言う?」

「…………痛いところを突くッスね」

 やはり、どうにも口では勝てなさそうだ。

「――えいっと」

 ククリはさっさと灯を消して横になった。勝てないなら逃げればいい。逃げるが勝


ち、ということだ。……少し違うか。

「あ」

 ナタがまだ何か言いたそうなのが気配で分かったが、ククリは無視した。

「……今日のククリは、ずるい」

 ぽつりとそう呟くと、もぞもぞと人の動く音がして、ククリの後ろでナタも横にな


った。

 馬車は狭い。すぐ近くでナタが息を吐く音が、ククリの耳にも届いた。




「…………思えば、」

 これが、俺の今の日常なのだ。仕組まれて出会った少女と、四六時中共に暮らして


いる。

 男であろうと、女であろうと。四六時中二人でいて、不愉快にならない奴はそうと


う貴重だ。

 俺は幸運だ。恵まれている。記憶のないククリでも、それくらいは分かる。


 彼女との関係、彼女への思いを、何と名付ければいいのかククリには分からない。

 

 だがカトラの言うとおり。すぐにでもこの幸せな時間は失われるかもしれない。

「…………」

 ククリは無言で右腕を見た。そこにあるはずの生身の腕は無く、義手が嵌められて


いる。


 既に、ククリにとって大事なものは一つ、失われたのだ。

 ククリはぎゅっと拳を握り締めた。


 ――――失ってはならない。これ以上、何一つ失いたくは無い。


 明日からのことに覚悟を決めていると、背中に、何か柔らかいものがぶつかった。

「ンな――」

 背後から、おんぶするかのようにナタがククリに抱きついた。

「そう張り詰めない。大丈夫、大丈夫だから」

 甘い息が、ククリの耳に当たる。

 強引に振り向いて見たナタの顔は、暗闇なのでうっすらとしか分からないが、普段


より湿っぽい気がした。

 今度は、正面からナタが飛びついてくる。――ククリは咄嗟に、ナタを抱きとめた


 ククリの眠気が吹き飛ぶ。

 混乱し、理性も殆ど吹き飛んだ。 

 

 自然と、ククリの手がナタの背に回った。

 ナタの手も、ククリの背に回る。


「――――愛してる。愛してるよ、ナタ」


 その言葉が。ククリがナタに感じていた感情に、名付けるべき名前なのか。

 激情が志向性の無いカタチとなって、漏れただけのものなのか。


 それは、誰にも分からなかった。





















 そして、ククリには聞こえない。


「――――決して。私のことを忘れないで」


 ナタの言葉も覚悟も、今は誰にも届かない。

 決別の涙は既に、ククリを抱きしめる前に床に染み込んでしまった。

 暗い闇が全てを溶かし、雨が全てを覆い尽くす。


 ――――刻一刻と、別れの時は近付いていた。

改めて遅れてすみません。

病院行ったらやたらと混んでて。買い物して帰ったら八時半でした……。

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