四章01 邂逅
「――――その者たちを、捕えろ」
褒美を与えると呼ばれ、付け焼刃の作法で頭を垂れて待っていると、館に入ってきた麗人がそう言った。
……ンナ馬鹿な。こっちは腕を失いながらも敵の首魁を倒し、皇子の仇を討ったンスけどぉ?
理不尽な上に、意味不明だ。だが頭を上げると、麗人の部下である兵士達が銃を構え、こちらに向かって来ていた。
「んなっ、何で――」
「それはこちらのセリフ。――なぜそちの横にいる娘が、我が妹、ナタスタシアの姿をしておる?」
「…………妹?」
「いかにも。ナタスタシア・ルーイス・ダタン。謀殺されたはずの我が妹だ。なぜ……全く同じ顔の娘が、そちの隣にいる? 偽者であれ、本物であれ。皇族を連れているやもしれぬ以上、そちは裁かれるべき者だ」
凛とした声が、館のエントランスに響き渡る。
ククリは、ナタを見た。いつもと変わらぬ横顔。だが、何かが違う。何かが……。
「……久しぶり。アルカナシア姉さん」
その言い方に、その態度に、その雰囲気に。
飲まれかける。その場にいる、誰もが。
「……我はまだそちを妹とは認めておらぬ」
ナタが何も無い空中に手をかざす。――掌に白く淡い光が集束し、一枚のカードが現れる。
俗に、「固有スキルカード」と呼ばれる、自身の努力や才覚が結晶化したカード。
それには、玉座に座る女の姿が描かれていた。
「王者の風格S。……なるほど。その逸話を知っておるか。確かに、ナタスタシアはそのカードを持って生まれたが故に、末子でありながら玉座に座るべき者になった」
「……これを見ても、私を妹と認める気は無い?」
「我ら皇族を嵌めようとした者だとすれば、ナタスタシアのその逸話、知らぬはずがあるまい。何かしらの偽装工作を施していたとしても、ありえぬ話ではない。……全ては、連れて帰ってから調べよう」
ナタスタシアは近付く兵士達を一睨みすると、改めてアルカナシアに問うた。
「――――その帰る間に、私、『事故』に合うんじゃない?」
アルカナシアが、僅かな逡巡の後に、それを否定する。
「何を言うか。我を侮辱すると、妹だろうとそうでなかろうと許さぬぞ」
ナタは首を振った。もういい、と言うように。
「玉座如きに、私は興味ない。……下らない政戦に巻き込まないで」
ため息を吐き、アルカナシアは即座に首を振る、
「そうもいかぬのだ、……ナタスタシア」
そしてアルカナシアはもう一度、兵士達に告げた。捕縛せよ、と。
「……どいて」
ナタがぽつりと呟く。それだけで兵士達はビクッと身体をすくめたが――アルカナシアの命令は絶対だ。
銃とナイフを構えながら、兵士達は少しづつ、ナタに近付いた。
……どういうことッスかね、本当に。
大金星を上げたというのに、報酬が無いどころか、捕縛されそうになっているし。会話の端々から物騒な言葉が漏れ聞こえるし。
全く、酷い話だ。
いつもこうだ。俺が命を賭けて高い代償を払った結果、得られるものはごく僅か。それどころか、今回にいたっては新しいトラブル付きだ。
「……ま、いいか」
もう慣れた。
ククリはポケットを確認する。カードは全て入っている。問題ない。
だが、ククリが動く前に動く影があった。
「――小生、少し気にいらぬな」
そう言ったのは、巨大な魔物の骨を加工した大剣を背に担ぎ、褐色の肌に、真っ白な髪がきれいな少女。
「……そちは、誰だ?」
「タウンNo.13出身。這い出る亡霊 カトラ・スーだ」
「そぅか。……もう興味はない。失せよ」
アルカナシアの態度に、カトラは舌打ちする。
「これだから高貴な者という奴は……。やはり小生、微力ながらもククリ達に加勢しよう。報酬一つ払わぬ外道、殺した方が世のためだ」
「そうか。――悪いが我は貴様の生き死にには興味がない」
その言葉を聞き、兵士達が発砲する。
だが、やはりというべきかその弾丸は届かない。
カトラの周囲にバリアが展開し、弾丸を弾く。……そのまま、カトラはアルカナシアに特攻する。
――それを、同じ冒険者である女騎士ノノンが受け止める。
「落ち着きましょう? 皇族を殺すつもり?」
「無論。命の価値は皆平等。皇族も、小生達有害都市の者も。……いつか奴らを殺したいと、故郷でドロを啜りながらよく思っていものだ」
剣戟が舞う。カトラが力任せに大振りの剣を振るい、ノノンがそれを丁寧かつ慎重な剣技で受け止め、弾く。
戦いは膠着しているかのように見えた。が、そもそも二人に流れる時間は対等ではない。
混沌とした状況。周囲の者には現状がまだイマイチ理解できていない。……だが、一つだけ確かなことがある。
――――皇族にして、次に帝として君臨する者――――アルカナシアの命令は絶対だということだ。
我も我もと、次々に冒険者達がノノンに加勢する。
ククリはそんな彼らを一瞥し、
「カトラ、下がれ!」
一声かけると、爆裂砲のカードを取り出し、天井を撃った。
吸血鬼が死に、この屋敷を守っていた保護の魔術は最早無い。
あっさりと天井に穴が開き、瓦礫が次々と落ちてくる。
カトラに集中し、ククリへの警戒が疎かになっていたアルカナシアと兵士達
は、瓦礫の山に飲まれた。
「……後でしっかり説明してもらうッスよ」
ナタの手を握り、ククリは窓を破り館に背を向けて走り出す。
「…………うん」
ククリに手を引かれて、ナタも駆け出した。
二度と、アルカナシアを振り返りはしなかった。
背後からアルカナシアの怒声が届く。
ククリ達は馬車を一つ奪うと、カトラと共に森を走った。
束の間の、平和な一時。
だが三人が森を駆ける間に、緊急クエストが国中に発令される。
皇族を騙る逆賊三名の捕獲クエスト、現帝による最後の勅令。
『末葉の選定』
――――吸血鬼を倒し、英雄になるはずだった男は、国家と相対することになった。
本編とは無関係なことだけども。
今、左腕の肘にヒビ入って療養してるんだけど、おんなじアパートのばあさんがしょっちゅう尋ねて来てくれる件。すごいありがたいんだけど、ちょくちょくウチの中覗くのは勘弁してくれ……。何か色々くれるし、孫感覚なのかな……




