三章14
『どうして生まれて来た?』
『とっとと自害しろ。火薬庫が爆発する前に。それが、皆のためだ』
『貴様が無才であったのなら、せめて違う「才」に愛でられて生まれてきたのなら――……』
首元に迫る、殺意を伴った凶刃。
『面白い。ただ殺すという契約だったが、止めにしよう。その特異な『才』、存分に利用させてもらおう』
『素晴らしい。再現性に課題はあるが、この個体は素晴らしい!』
『鏡が見たいだと? ――……いいだろう、見せてやる。
どうだ?
人でなくなった気分は?』
過去という悪夢が、一切の容赦なくナタを襲う。トラウマを穿り返し、延々と醜悪なムービーが流され続ける。
ナタは、精神を汚染されながらも、現在の状況を冷静に把握した。
敵の放った呪いは、過去のトラウマを呼び起こし、パニック症状を起こすというものだろう。
跳ね返すほどの余裕はナタには無い。けれど、ククリがこの状況を何とかしてくれると信じたい。……いや、信じる。
――ククリには過去が無い。この呪いは、効かない筈。
そう考え、ナタは心を守るべく一切の感情を遮断し、殻に篭った。
「……うん、キミのことは調べてないね。サンバレロファミリーの末端かな? 今回クエストに参加したファミリーの連中は皆殺しにしたはずだけど」
首を傾げながら翼をたたみ地上に降りると、吸血鬼は床に転がっていたトランシーバーをひょい、と掴んだ。
「……ザ…………ザ・ザー…………」
トランシーバーからはノイズが漏れるだけで、今はもう、誰の声も届けない。
「味方は来ないよ。手を煩わせるのも面倒だし、男の血を吸いたくないから、自決をオススメするよ」
「…………」
ククリは銃を取り出し、額に狙いを定める。
「――馬鹿言うなッスよ」
銃口から弾丸が飛び出し、それを吸血鬼がこともなく避ける。
「そうか。残念」
杖を床に突き立て、新たにロングソードを召喚する。
ククリはそのまま二発目、三発目を撃ったが、ロングソードをぶつけられて弾かれる。
「化け物ッスねェ……!」
未だかつて無い強敵の出現に少し焦りながらも、ククリは対象を杖に変更した。
杖の先端が折れる。吸血鬼が舌打ちし、初めて顔を歪めた。
「そっちを狙うのはマナー違反だろう? 止めな」
翼を羽ばたかせ、吸血鬼が飛び上がりながら蹴りを放つ。
――――腹が、ツブレル――――!
咄嗟に銃を構え、防御の姿勢をとる。
鉄の銃身が折れ、ククリの体が軽々と吹き飛ぶ。
このままは、マズイ。
追撃されると、死ぬ。
ククリは爆裂弾と雷鳴弾のカードを取り出し、がむしゃらに乱射する。
この二枚のカード、威力はともかく、弾速は銃弾に劣る。
精々ボウガン程度の速度で、銃弾すら避ける吸血鬼相手には頼りない。だが、銃弾と違い弾けるような物ではない以上、相手も避けるしかない。
戦術も何もあったものではない。
ただ、接近されれば死ぬ、という直感に動かされての行動。
それが、ひとまずククリの命を助けた。
吸血鬼が近寄るのを止める。
その間に、ククリはカードを構えたまま後退し、少しづつエントランスを抜け廊下へ向かう。狭い方が機動力を削げ、こちらに有利だからだ。
そんなククリの小細工を哂いながら、吸血鬼は語りかける。
「全く、もう何十年前になるんだったか……ようやく復讐が叶ったよ。父と母の仇をとれた。まだ、ほんの一部だけどね」
廊下まで、まだ少し距離がある。
時間を稼がなければ……。
「じゃあやっぱりアンタは……」
「そう。悪名高い、吸血鬼と恋仲になった少女カーミラの息子さ。長年死霊を呼び寄せて機を窺っていたけど、ついに皇子が来るとはね。今年は最大戦力を投入したけど、その甲斐はあったかな」
「……皇族はまだまだいる。皆殺しにするまで復讐を止めないつもりッスか?」
「当たり前だよ。おかげで俺の両親は殺されてしまったし、餌場であり、故郷でもあったNo.11は滅んだも同然になった。おまけに住人ともどもあの町周辺から俺は出れない。知ってるか知らないけど、この辺りにはまだ国の監視網がびっしり敷かれていてね。出ようにも出られないのさ」
ロングソードを弄びつつ、吸血鬼は語る。
「月並みな言葉ッスけど、……復讐を遂げたところで、アンタの人生はその先が無い。ドン詰まりッス。それで、いいンスか?」
「……いいんだよ。もう、遊べることは遊び尽くした。他にできることは、この町周辺には残っていない。だから、これでいいんだよ」
それで話は終わりだ、と言うかのように、ステップしながら吸血鬼が斬り込んで来る。
それを紙一重でかわしながら、ククリは雷鳴弾と爆裂弾を連射する。
雷鳴弾が二発。爆裂弾が一発。確実にヒットした。
吸血鬼とククリでは、運動性能が比較にならない。
賭けられる時に命を賭けないと、ただ狩られるだけだ。
――ここで、仕留める!
そう思い賭けに出て、そして賭けに勝ち、ククリは無傷のまま、計三発の攻撃をヒットさせた。
――――だが次の瞬間。ククリの右腕は斬り飛ばされていた。
「……その程度の攻撃じゃ、足らないんだよなぁ」
絶叫を上げるククリを見ながら、憐れむように吸血鬼は言った。




