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序章3

「ここはダタン帝国タウンNo.7。一応この国の主要都市の一つで、国内有数の歓楽街で有名だ」

 リールズはククリにそう説明した。

「…………そうみたいッスね」

 頷きながら、ククリはそっとリールズを見た。


 まだ若い……とはいえ、ククリよりは年上のエルフの男。屈強とまではいかないが、手足には程よく筋肉がつき、歩く足取りは軽やかで、どこか豹を思わせる佇まいをしている。

 そして腰にはナイフと、不思議な紋章の書かれたライフルが収められていた。

 武器を所持した人間が、堂々と市街地を闊歩していることに、ククリは強い違和感を感じた。だがそんな物騒な人間をしばしば見かけるので、この世界では当然のことなのだと、無理にでも飲み込まざるをえなかった。


 リールズが短刀を一閃すれば、俺は…………。そんな想像が頭を過ぎる。

 そしてその考えを、ククリは否定した。さすがにそんなことは起こらないだろうと。

 ……そう思いながらも、ククリの額を脂汗がつたった。



「ギルドって、どんなクエストがあるんスか?」 

「? どんなって……フツーだ。フツーの依頼だな。討伐とか、要人警護とか」

 どうやらイメージしていたものとそう差は無いらしい。そう思い、ククリはほっと息を吐いた。 


「ほら奢りだ。食え」

 リールズがククリに食べ物を渡す。渡されたのは、露店で売っていたブニブニした赤い肉を挟んだ「リザードサンド」という食べ物だった。

「ありがとう」

 お礼を言って、ククリは肉が不気味に震えるリザードサンドを凝視した。

 どう食べるべきか悩んでいるとリールズが笑い、

「不気味だけど旨いぞ。気にせず食えばいい」

 そう言って、まるで気にせずパクリとリザードサンドに噛み付いた。

「…………よし」

 それを見て、ククリもどうにか心を静めるように努めて、思い切って噛み付いた。

 ぐにゃり、と口の中で肉が動く。噛みにくいが、味は悪くない。

「けっこう、うまいッスね」

「ま、朝食の定番の一つだからな」

 無感動にリールズはそう言った。

「……この町って治安悪い方なんスか?」

 口を動かしながら、食べる合間にククリは質問する。

「良くないな。この町は、政府と癒着した一部の巨大犯罪組織達が牛耳っている。……奴らに目をつけられたら終わりだ」

「例えば?」

「そうだな……。俺が咄嗟に思いつくのは「8」ってのと、「光電一番」って組織だな。もし耳にする機会があったら、命が惜しいならとにかく関わらないようにしたほうがいい」

「じゃあ、そうします」 

 ククリが頷く。

 食べ終わった包み紙を路上に放り投げ、リールズは前方にある建物を指した。

 

 赤く光るライトで照らされた、ピエロの人形が入り口に立っている、小さな、少し薄汚れた建物。

 看板もまた薄汚れていたが「賭博場」と書かれていることだけはしっかりと読めた。

「せっかくだ、この町名物の一つ、賭博を楽しんでいこうじゃないか」

 リールズがそう言って、爽やかで、心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 ……その笑顔に、なぜかククリは薄ら寒いものを感じた。



 浮ついた音楽が鳴る薄暗い部屋に、カウンターが一つと、四人座りのテーブルが六つばかり。カウンターには店主らしい老人と、珍しい置物が一つ。テーブルの一つに、迷わずリールズは案内した。


「新しいヤツだ」

 そう言ってポン、とリールズがククリの肩を叩き、笑顔でありながら、有無を言わさぬ様子でククリを椅子に座らせる。


「お、次はコイツか」「よろしく」「楽しいゲームにしようぜ?」


 周囲の顔を見てすぐに、ようやくククリは「嵌められた」と悟った。

 もはや隠そうともしない。そのテーブルを囲っている人間は、見下し嘲笑っているような、「カモを見る」目でククリを見ていた。

 周囲に助けを求めようと、ククリは近くのテーブルを見渡すが、誰も無関心を装い、見向きもしない。おそらく、リールズが「新しいヤツ」と言ったように、自分のような人間を、幾度と無く同じ手段でカモにしているんだろう。そうなれば当然、今更周囲は見向きもしない。第一、声をかけようにも、周囲にはどう見てもゴロツキにしか見えないような人間や、ダークスーツにサングラスという、()()()()な格好の人間しかおらず、この場は自力でどうにかするしかないな、とククリは人に頼ることを諦めた。

 

 明らかにリールズの方が、ククリに比べて体格がいい。カードの力は未知数で簡単には使えないということも考慮すれば、トラブルになった場合痛い目に遭うのはこちらで、ククリはこの場に留まるしかなかった。


「で、何にする?」

「コイツはギャンブル初心者だ。分かりやすいヤツがイイ」

「じゃ、あれだな」

 そう言って、テーブルに座っていた内の一人がククリにルールを説明する。

 ルールは極めてシンプル。

 二つのダイスを振って、その合計が偶数か奇数かを当てる。

 ただそれだけ。

 ククリはこのゲームに既視感を覚えた。おそらく、前世で似たようなものをしたに違いない。


「ほら。初回だし、先輩がちょっと奢ってやる」

 そう言って、リールズがククリに硬貨を数枚、放り投げた。

 銅貨が十枚。

「これで支払いが足らなくなること、あるッスか?」

「……まぁ、ゲームの進行次第だな。いざとなりゃ、そこで持ち物やカードの買取もやってるぜ? ま、それもこの町に来たら、誰もが受ける洗礼みたいなもんだ。男の勲章ってヤツだな」

 何が男の勲章だ、とククリは思ったが、さすがに言いはしなかった。

 そして、今の一言で向こうの狙いも読めた。


 ――――彼らは、俺が持つ「カード」が欲しいんスね。


 ククリは理解した。

 逃げられない。そう思ったものの、一応、ククリは足掻いてみることにした。

「あいにく、売れるような持ち物は無いスから、今日は止めとくッス」

 ククリがそう言って立ち上がろうとすると、リールズが上から力ずくで押さえつけて、ククリを再び座らせる。

「――――あるだろ? 転生者の名に恥じない、最高クラスの『カード』が」

 リールズがそう言い笑う。ヒュウ、と周囲が口笛を吹く。それに紛れて、ククリは確かに「今回のカモは上玉だ」と誰かが呟くのを聞いた。


「じゃ、ゲームスタート」

 リールズがパン、と手を叩き、ゲーム開始を宣言する。

 

 ――――それが、この世界に来たククリが受けた洗礼。イカサマ上等、最低最悪ワンサイドゲーム開始の合図だった。

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