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三章13

遅れてすみません。寝落ちしてました……。

 前方に現れたというグールは、既に死んでいた。

 成人男性二人分ほどの背丈を持つ巨体が、腹に大穴を開けて立ち往生している。

「これやったのレンベルガッスかね?」

「たぶん」

 周囲には大砲でも撃ったかのような大穴が幾つもあった。見境無しに連射したらしい。

 ……気になるのは、グールの後方にある血の池だ。


 そこに、馬と人の死体が山となってあった。


 グールに踏み潰され、喰われ、ぐちゃぐちゃになった見るもおぞましい死体達。

「「…………」」

 一抹の不安を抱えながら、二人は前に進む。暫く行くと地図通り、朽ちつつある館があった。

 吸血鬼城跡地。約百年前悲劇が起こり、後の惨劇へと繋がっていく始まりの場所。

 ここは死霊を呼び寄せる呪いの中心地にあるというのに、不思議と死霊が滅多に近寄らない。

 この状況下で逃げ込める場所は、ここしかなかった。






 雷鳴弾を乱射しながら突撃し、ククリとナタは無事、屋敷に逃げ込めた。

 力いっぱい扉を閉めて、息を荒上げながら周囲を見渡す。

 館の中にいたのは十五名ほど。知り合いのノノンとホロハロの他、クエストを指揮していたレンベルガがいた。

 二人の顔を見つけ、ククリの顔は綻んだ。

「お二人とも、無事だったンスね!」

 ノノンとホロハロは疲れ切った顔で、よろよろと顔を上げる。

「ええ。……二人も、無事でよかった」

「新人なのに対したものだ」

 二人もまた、ククリとナタが生きていたことを喜んでくれた。だが、それにしては顔が暗いままだ。

「……? 何か、あったンスか? 二人とも無事に見えるッスけど」

「…………我々は、な」

 ホロハロは流し目で背後を見た。

 そこにいたのは、肩を落としたレンベルガ唯一人。……生きているのは、彼一人だ。

 彼の膝の上で、一人の男が死んでいた。


 冒険者ではない。儀礼用の鎧を着込み、割れた仮面の下からは白い肌と整った顔が覗いている。生前は美男子だったのだろう。ククリはマスク越しの姿しか見たことが無かったから、この時、初めて素顔を知った。

 ――死んでいるのは、ジョン皇子殿下だった。


「……」

 あいにく、ククリは特に感傷を抱かなかった。ククリからすれば顔も知らばければ、話した事も無い、このクエストを受けるまで存在すら知らなかった皇子だからだ。

 だが、ナタはショックを受けていた。生まれ育った国の皇子が死んだのだ、何か思うところがあるのかもしれない。


 彼がどんな怪我を負って死んだのかは分からない。レンベルガが上から幾重にも服を着せ、血を覆い隠そうとしていたからだ。

 やがてそれが終わると、開いたままだった眼を閉じ死に顔を整え、割れた仮面を丁寧に額に置き直した。

 黙祷。


 その場にいた全員で一度皇子に頭を下げ、それから今回のクエストで亡くなった冒険者達のことを想った。

 黙祷が終わると、レンベルガは煙草に火をつけ、顎に手を当てた。


 クエストは既に終わっている。誰もがレンベルガ同様、思慮に耽っていた。


 ――――これから、どうするのか。


 周囲には死霊の群れ。おそらくアレを生き残ったここにいる猛者達が一丸となれば、一点突破で脱出できるだろう。

 ……本当にそうだろうか? 今回のクエストは予想外のことばかりだ。もしグールが集団で現れたらどうだ? ……勝ち目は、あるのか?

 何より問題なのは、命懸けでここを脱出したとして……俺達に、未来はあるのだろうか?


 ククリは一瞬だけ、レンベルガのほうを向いた。

 彼からは、クエスト前に感じられた自信や覇気が全く見えない。

 当然だ。


 レンベルガは皇子を()()()()()


 皇子の護衛に失敗したのだ。その罪は、重い。例え生還したとしても、彼を待つのは暗い未来しかない。

 ……いっそここで死んだ方が、幸せかもしれない。


 そしてククリ達の未来もまた、明るくは無い。皇子が死んだのだ。報酬は無いとして、最悪何らかのペナルティがつく可能性もある。

 ククリは今回のクエストのために新しいカードを買った。クエストに勝つために。そして、その報酬をあてにしていた。報酬がないとなれば、貯金はかなり厳しいものとなる。

 他のパーティも今回、多くの金や仲間の命を喪っただろう。だが、それを何一つ取り返せない。……これは結構痛い。


 誰もが今後訪れる暗い未来のことを考えていると――静寂の中、突然パチパチパチ、と拍手する音が響いた。

「アレを生き残るとは、皆さん、それなりに優秀なようですね」

 館の奥の扉が開き、青白い肌の男が現れた。

 一見病人だが、違う。燕尾服を着込み、ゆったりと闊歩する姿に弱々しいものはなく、むしろ逆に力強さを感じる。

 青白い肌、真っ黒な服のせいで、血のように明るい髪と瞳、唇が非常に目立っていた。


「……その姿――吸血鬼っ!」

 憎悪に瞳を燃やし、レンベルガが突進しながら太刀を召喚し横薙ぎに振るう。

 それを吸血鬼は宙返りしながら避けて、空中で蝙蝠のような翼を生やした。

「おお、怖い怖い。……無駄だよ、キミの事はよく知っている。キチンと調べたからね。武器召喚・太刀S、武器召喚・大砲A、聖域結界C、これがキミの愛用するカードだろう? 知りさえすれば、恐るるに足らないよ」

「なんだと? ――キサマッ」

「分からないのかい? キミたちは誘い込まれたんだよ」


 パチン、と吸血鬼が指を鳴らす。すると、館の出入り口の扉に鍵が掛かった。ありとあらゆる窓も閉まり、ククリ達冒険者は完全に閉じ込められた。

「何!? クソッ!」

 いつになく慌てた様子でホロハロが銃を乱射し、ノノンが扉を斬りつける。だが、扉はびくともしなかった。

 そうこうしているうちに、吸血鬼はカードを取り出した。

 真っ赤な瞳を持つ黒い怪物が描かれたカード。

 それを見た瞬間、ククリの背筋に悪寒が走った。


 ――――アレは、よくないカードだ。


 そう直感する。

「スキルカード。……全く便利なものだね。キミたち人には過ぎた代物だよ」

 カードが黒く光り、吸血鬼の手の中に一本の杖が現れた。

「武器召喚・呪いの杖Bさ」

 杖が黒く禍々しい光を放つ。 

 それを見て、レンベルガが聖域結界Cのカードを起動する。だが……。

「弱いね。もう一段階上のレベルのカードがないと」

 

 そう言って、吸血鬼は哂った。


 ――――ナタ達の意識は、深い闇に包まれた。










「……なんでお前だけ効いてないんだい?」

 不思議そうに尋ねる吸血鬼。

「…………」

 急に床に倒れた皆を見て、吸血鬼を呆然と見上げるククリ。


 二人だけが、残された。

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