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三章12

 ――クエスト一次集合地点 ポイント01


「むぅ……」 

「どうしましたか、レンベルガ様?」

 部下に尋ねられ、報告書を見せる。

「集まりが悪い。百人いたはずの冒険者が、今ここには七十人しかいない。幾らなんでもおかしいだろう、これは」

 報告書を見て部下も驚愕し、目を見開いた。

「これは……確かに。撤退しますか?」

「ダメだ。今回のクエストは、皇子が指揮しておられる。建前だがな。だが、建前であろうと皇子の顔に泥は塗れん」


 覚悟を、決める。


「散開は中止。例年とは異なり、このまま密集して進む。何、所詮死霊共の群れだ、たいした敵ではない」

 レンベルガの頼もしい態度に、部下はほっと胸を撫で下ろした。

「分かりました、指示を出してきます!」

 駆け出した部下の背を見送りながら、レンベルガはぽつりと呟く。

「たいした敵ではない……はずなんだがなぁ」

 正体不明の悪寒が、レンベルガを襲った。



「バロン、来ないッスね」

「うん」

 レンベルガから密集したまま直進する、という命令が来て既に数時間。

 幾度となく周囲を確認したが、ポイント01にいた冒険者の中にバロンはいなかった。

「あの程度の爆発じゃ死んでないと思うンスけどね。どうしてだろう?」

 疑問の答えは、ククリもナタも持たない。


 もやもやとしたものを抱えたままながら、ククリとナタは順調に死霊を討伐し続けていた。

 このクエストのために、ククリが新たに仕入れたカードの一つ。

 丘の上で鷹を肩に乗せた男が描かれたカード。

『遠視』

 文字通り、遠くまで見るためのカードだ。

 これで素早くゾンビの位置を把握し、ナタから借りた雷鳴弾を放つ。

 クエストまでの二週間で遠距離射撃の訓練をしていたククリは、以前より遥かに射撃精度が増していた。  


「外した。……よし、ヒット」

 外れても、慌てず次の弾を撃ち、確実にしとめる。

 ただそれだけだが、かつてはできなかったことだ。

 ゾンビの討伐数が百に迫った辺りで、ククリはほぅ、と息を吐いた。

 額の汗を拭い、「遠視」で周囲にもうゾンビがいないことを確認する。

 そしてうっかり、気を緩めた。

「バロンもどっか行ったし。バロンさえいなけりゃラクッスねぇ……」

「うん。警戒はし続けないとだけど、ゾンビ、弱い」

 ククリとナタは笑い合った。


 ――その笑い声に、ノイズが混じる。

 支給されていたトランシーバーが声を届けた。


『こちらシャーク兄弟。左方向に上級死霊グールが出現した、応援頼む!』

『こちらホロハロとノノン。こっちもだ。右方向にグール出現しました。応援お願いします』

『馬鹿言うな! こちらサンバレロファミリー。後方にもグールが出た!』


 三方向から同時に大型モンスターの出現。

 あきらかに、異常事態だ。

 死霊に知恵などない。だというのに、この戦術的な動き。

 そもそも、今回のクエストは無限湧きする死霊系モンスターの駆除だったはずだ。命の危険は少ないはず。だというのに、こうして次々とこちらは数を減らし、窮地に陥っている。

 何もかもがおかしい。だがそれでもなお、クエストは続行し、冒険者達は前進していた。

 それがリーダーであるジョン皇子と、その補佐であり実質の指揮者、レンベルガの意思だからだ。

 それらの報告を聞いて――――一呼吸置いて、レンベルガの声が届いた。


『…………こちらレンベルガ。状況、把握した。加えてもう一つ、私は諸君らに伝えねばならない』

 そう言ってから、また一呼吸置いて、レンベルガは重い口を開けた。


『前方で冒険者達を率いて下さっていたジョン皇子と護衛達の集団から、連絡が途絶えた。加えて、前方からもグールが迫っているという報告を先程受けた』


 少しでも士気を上げるために最前線に送っていた皇子が、消息を絶った。

 クエストを主催していた皇族が死んだ。それは、つまり……。


『死霊達は例年とは異なり、明らかに統率されている。既に、我々は仲間の半数を失い、包囲されている、というわけだ』

 

 絶望的な報告が、トランシーバーから届いた。

 淡々と言葉が続く。


『私と部下は皇子殿下の救出へ向かう。この状況下で、あえて前進する道を選ぶわけだ。……諸君らに強制はしない。――――唐突だが、ここで此度のクエストは終了だ』


 余りにも唐突な幕引き。これで、クエストは終わった……らしい。


「……ゑ?」

 余りにも絶望的な状況下で、ククリはため息を吐いた。ただ、絶望はしていなかった。いつものことか、などと余裕のある思いだった。


 ククリは実力はともかく。死線を潜り抜けた数だけは既に並みいる冒険者達の中でも群を抜いていた。


 死ぬかもしれない状況だからといって、慌てる愚は犯さない。そしてそれはナタも同様だった。

 ふと、ククリは気付く。思えば、ナタが慌てているところを見た覚えが無い。

 よほどこれまでの半生で、死にそうな目にあってきたのだろうか?


「……どうする、つもり?」

 逃げるか、レンベルガに付いて行くか。

 ククリは迷わず付いていく方を選択した。

「逃げてもいいけど、帰った後がなぁ……」

「うん、問題はそこ」

 皇子が死んだかもしれないというのに何もせずおめおめと逃げ帰った。……下手すると、何か罰が与えられるかもしれない。いや、下るだろう。

「じゃあ、進もうか、前に」

「うん」


 ククリは頭の中で地図を確認する。


 前方にいた皇子が逃げられたとすれば、その場所は……あそこしかないな。


 『吸血鬼城跡地』


 この地に死霊を集める呪いの核であり、死霊も滅多に近寄らない場所。

 

 ――ククリ達は、そこに向かった。

三章、あまりに話が長すぎる気がする。サクサクすすめよっと

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