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三章11


「――諸君、ついに戦いの時だ!」


 早朝。ラナの森付近の平地。

 クエスト開始の前に、実質的なリーダーを務めるレンベルガから最後の説明があった。

「去年も参加した者は分かっているだろう。今年も作戦に大きな変更は無い。散開、そして各個撃破。それだけだ。おのおの周囲の倒せる死霊を倒し尽くしたら、ポイント01を目指せ」


 今回、クエスト『死霊掃討戦線』に参加するのは冒険者約百名。ジョン皇子が参加するからだろうか、例年より二割ほど多い。それとは別に、ジョン皇子を守るための護衛として雇われた冒険者達もいた。他にも医療スタッフ、コック、荷運び等もいて、総勢百五十名は越えている。

「俺が率いる鬼武者隊は殿として、諸君らの撃ち漏らしを駆逐していく。――全員に配布した二枚のカードの使い方は理解したな?」

 レンベルガの言葉に、「当たり前だ!」「おうさ!」「まかしときな!」と誰かが大声で答える。冒険者らしい気勢の強さだ。


 レンベルガが冒険者に配ったのは、小型の機械とカードがそれぞれ一つづつ。

 機械はただのトランシーバー。カードは「何でも魚拓」という名前で、遭遇し、倒した魔物を記録するカードだ。

 巨大なモノクロの鯉が描かれていて、妙に渋い。

 このカードにどれだけ記録したかによって報酬が違ってくる。


「よし、では往けぇ!」


 レンベルガが怒鳴る。それを合図に、冒険者達は次々とラナの森に進んでいった。

 獲物の数は限られている。それ故に、パーティの動きはそれぞれ異なる。

 ある初心者パーティ達は、上級者が来る前に獲物を狩ろうと競って進む。  ある中級者パーティ達は、万が一を避けるため、ゆっくりと散歩するかのような歩調で進み、体力の温存を第一とした。

 またある上級者パーティ達は、ちまちま歩いて向かうことなどせずに、移動系のカードを使い、何の労力も使わずにさっさと行ってしまった。

 そしてククリ達は……。


「――クソ、皆早いッスね」

 悪態をつきながら、ゆっくり進む中級者達の集団に混じって進んでいた。

「……しょうがない。ククリ、貧弱だから」

「別に貧弱じゃあない。……まぁ、冒険者の中じゃ、特別筋力に優れているわけじゃないッスけど」

「それに、あの初心者達と一緒にいるのはダメ。確実に途中でバテる。……クエストは、始まったばかりだもの」

「ま、そうッスね」

 そう呟いて、ふと、ククリはナタに尋ねた。

「――――なぁ、ナタって実は飛べたりしないッスか?」

「…………できるよ。翼を生やせば」

「え、なら……」

「人目があるから無理。それに、半分の確率で理性が蒸発する」

「デスヨネー。……ついでに聞くけど、理性が蒸発するとどうなるッスか?」

 その問いに、ナタはニタリ、と邪悪な笑みを浮かべた。

「このクエストの難易度が鰻登りに上がる。生存者は、……一割いればいいほうになる」

「怖っ」


「――出たぞ、ゾンビだ!」


 ククリが素直にビビっていると、前方から声が聞こえた。

 その声の聞こえる方を辿ると――いた。

 鼻のいいナタが顔をしかめる。

 森の中、腐臭を漂わせ、のろのろとこちらに向かって歩き出すゾンビの群れ。


 ――――まるでB級ホラー映画だ、と咄嗟にククリは思った。それが何なのかは分からないが。

 その内の一匹に、ククリはとりあえず爆裂弾Eを放った。

 ゾンビの体が小さく爆発し、腕が千切れる。

 びちゃ、と音を立てて腕が地面に落ち、指をくねらせた。まだ動くらしい。

 続けてもう二、三発撃った。その度に、ゾンビの体のどこかが千切れ、体に穴が開いた。

 だが、ゾンビはまだ動いた。おおお、と叫ぶと、のそのそとゆっくりしたした動きのまま突進してくる。

「……全然効かないンスけどぉ?」

「代わって」

 ナタがククリに代わってカードを使う。

 白い獣が夜空の下、雷をまとい野を駆ける絵が描かれたカード。

『雷鳴弾C』

 ナタがカードショップで購入した、新しい戦力の一つだ。

 ボウガン程度の速度で雷の塊が飛び、ゾンビに直撃する。ゾンビの体が電撃で包まれる。

「――――っ!」

 初めて、ゾンビが反応した。口の辺りから空気が漏れる。

 続けてもう一度撃つと、ゾンビは動かなくなった。

 ナタはポケットから「何でも魚拓」を取り出し確認する。「ゾンビ・1」とカウントされていた。

「俺の爆裂弾より、そっちの雷鳴弾の方がいいみたいッスね」

「うん。……そうみたい」

 二人の前で、ゾンビはドロドロと溶けて土に還っていった。

「まぁ、思ったより強敵じゃなかったッスね」

 ナタも頷く。

 そして何か言おうとした時――――背後から、ポン、と誰かが肩を叩いた。

「まだまだですねぇぇぇ……!」

 ゾワリ、と背筋を撫でるような恐怖がナタを襲った。ナタの顔の横に、背後から手が伸びる。

 その手は、人のものではない。

 義手だ。

 そしてその義手がドス黒い光に包まれ、変わる。

 黒い皮でできた、かぎ爪のある手。

「悪魔の左腕よ……殺れ」

 ナタの背後の男がそう呟くと、『悪魔の左腕』の掌から、黒いエネルギー弾が飛び出した。

 それが、まだ遠い所にいたゾンビにヒットする。

 ゾンビの全身が黒い光に包まれ……爆発した。

「フン、これで討伐数は25か。まだまだだな」

 そう言うと、男はナタから離れた。

 ククリは警戒しつつ、静かに腰のナイフに手を伸ばした。

「何のようだ……バロン」


 飛車角落ちの流浪者バロン。


 今年の注目株と目される者の一人。

 両腕の無い男。

 ギルドでさえその出生に関して情報を掴んでいない、謎の人物。

「何、連魔弾の悪魔の片割れが、気に入っていると言っていた者の実力を見ようと思ったまでだ。……期待外れだったがな」

 バロンは爆発四散したゾンビの死体を見た。

「ゾンビの討伐方法すら知らんとはな。よほど無知らしい」

 バロンは悪魔の腕と義手を合わせ、ポキリ、と指を鳴らした。

「握っているナイフから手を離せ。先輩に対する礼儀はないのか?」

「その悪魔の左腕、とかいうカードを解除すれば、放すッスよ」

「…………ほう?」

 バロンの瞳に、剣呑な光が灯った。


「ラナの森は、いいところだ。クエストでは幾度と無く辛酸を舐めさせられた腹立たしい場所で、いつかは焼き払いたいと思っているくらい、大好きなところだ」

 唐突に、バロンが語り出す。警戒を強めながらも困惑するククリ達を尻目に、バロンは続ける。

「お前たちもそう思うだろう? ここは空気もいいし、景観もいい。化け物共もうじゃうじゃいやがる。最高だ。だが、何より最高なのは――


 ――殺しても、埋めてしまえば分からなくなるところだ!」


 バロンが左腕を上げて、黒いエネルギー弾を撃つ。


 咄嗟にククリはナイフをぶつけ、それから慌てて手を離した。


 バキン。


 ナイフが音をたてて砕け散り、砂になった。

 バロンが舌打ちし、もう一度左手をククリの方に向ける。

「……させない!」

 ナタが近寄り、剣を振るう。それを義手で受け止めたバロンは、驚愕した。

 ナタの金剛力で、バロンの義手がバターのように切り裂かれる。

 すかさず、ナタがバックステップで下がり、ククリが爆裂弾と銃をそれぞれ連射する。ナタもまた、雷鳴弾を撃ちまくる。

「やったか……?」

 一歩下がり、ククリとナタはバロンの様子を窺う。

 爆裂弾の煙が少しづつ晴れていく。そして……そこには誰もいなかった。


「いつまで案山子になっている? こっちだ」

 声のした方へ振り向く前に、強烈なストレートが放たれる。

「! がっ……」

 腰の入ったいいパンチをモロにくらい、ククリはごろごろと地面を転がった。

「ククリ! ……このっ」

 再びナタが剣を振るう。それを、バロンは右手で()()()()

「…………!」

「鬼の右腕、だ。力自慢らしいが、負けはしねぇぞ」

 義手から野太く赤い腕へと変化した右腕で剣を防ぎながら、バロンが左手からエネルギー弾を放つ。

 それを、剣を握ったまま、紙一重でナタは避けた。

「ほう。やるな」

 そう言うとバロンはニタリ、と笑い、倒れたままのククリの方に左手を向けた。

「! ……やめて」

 ナタが止めさせようと声を上げると、バロンは更にげらげらと笑った。

「何を嫌がる。そこの小僧は貴様の足手まといだぞ? 『爆裂弾』……レアリティの低いものでも、それなりに殺傷力があることをありがたがって初心者や貧乏人がよく使うが、煙がよく出るせいで今回のように裏をかかれる。中級者になりたければ、そんな安物を後生大事に使い続けるような男とパーティを組むことは止めることだな。爆裂弾を使うなら、せめてC級は欲しい」

「お願い、止めて」

 ナタが懇願する。

 それに対し、――バロンは哂った。

「馬鹿が。誰が止めるか」

 そして、バロンが左手からエネルギー弾を放った。

 ククリが死に、ナタが泣く姿を想像し、ガハハハハ、とバロンが笑う。

 だが、撃った後でバロンは気付く。

 ククリは気絶していない。

 上半身だけ起こし、ククリもまた爆裂弾Eを放っていた。


 対象を爆発させる黒いエネルギー弾。

 自身が爆弾である爆裂弾。

 

 二つのエネルギーが直撃し――大爆発が起こった。






「げほっげほ」

 吹き飛び、地面を転がるバロンは、確かに見た。

 フードの下から角が生え、首元から鱗が見え隠れする少女……ナタが、爆発をものともせずに吹き飛ぶククリを抱えて逃げ出す所を。

 そして、ククリが―――。


「……チッ。化け物共が」

 ナタの姿を思い出し、バロンは舌打ちする。

 種類までは分からないが、ナタは魔族か、アビリティカード使いだ。

 アビリティカード使いは人であることを止めた代わりに、高い戦闘能力を持つ。()()()があれば、バロンでも敗れていたかもしれない。そして、何より――――。


「……あの小僧を見誤っていたな」

 背負われ逃げながら、隠していた切り札(ジョーカー)を切ってきた。

 爆発の直後、一秒も経っていないというのに。


「クソ……暴騰しているからって、治癒系のカード買うのケチるんじゃなかったぜ」

 ククリの最後の一撃は、たまたま直撃せずに済んだ。だが、どのみち爆発で吹き飛んだせいで体がぼろぼろだ。

 寝転がっていたククリと違い、立っていたバロンは爆発のダメージが相当大きい。

「腹立ってきたぜ。……この爆発だ。誰か来るだろ。そいつの助けを借りてアイツラともう一回あって、この前買ったばかりのコイツを……」

 そう言って、無事な方の義手でポケットからカードを取り出したとき、背後から足音が聞こえた。

「お、誰か来たか、助かっ……」

 思わず、言葉を失った。バロンは、己の不運を呪い――――


「…………昨晩、見逃すのは今宵のみ、と言ったであろう?」 


 ――――己の幸運を、笑った。


明日、本当にちょろっとした三章11の締めというか、バロンの過去偏投稿します。

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