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三章08

 ――――死霊掃討戦線。 


 別名、ダタンの夏締め怪談祭り。

 約百年前、ラナの森の一角を根城にしていた魔族……上位の吸血鬼を討伐して以来、彼の「呪い」で定期的に溢れ出すようになった死霊の大掃除クエストだ。


 国を挙げての一大クエストであり、基本報酬は低いが、討伐ボーナスがかなり弾んでいる。また、レベルが違う冒険者層と知り合いになる絶好の機会でもある。英雄と呼ばれるようなベテラン冒険者もかつてはこのクエストで頭角を表したことが多く、それ故マスコミの注目も高い。


 このクエストで一攫千金……とはいかずとも、大きな実りを狙うククリによって、ナタもまたククリと共にクエストに向けて準備を進めてきた。

 戦闘訓練に参加したり、新しい戦闘用カードを買ったり。

 ノノンとホロハロに敗れてから二週間。何も、寝ていたわけではないのだ。




「……人が多いッスね」

「この町にこんなに人がいる所、見たこと無い」

 クエスト当日の朝。集合場所に来てすぐに、二人は目を瞬かせた。

 タウンNo.7の門前には、見たことも無いほど大勢の人間がいた。

 武器を担いでいたり、あからさまに厳しい空気を放っていたり、怪しげでうさんくさい雰囲気を醸し出していたり。

 この場にいるのは、間違いなく殆どが『冒険者』だ。

 信じられない。そもそも、この町にこれほど多くの冒険者はいないはずだが……。

「おやおや、二人共お久しぶりです」

「久しぶりですね、ナタさん、ククリさん」

 呆けていると、背後から声が掛かった。

 ホロハロとノノンだ。

 後で知ったことだが、二人はこの町きっての名うての冒険者らしい。

 ハイレベルクエストの成功率も水準を上回っていて、優秀な部類に入る。収入も高く、いずれは重い税を納めて特権階級である『市民権』を得て、上位ナンバーの町に住むのではないかと噂されるタッグだ。


 連魔弾の悪魔。


 その異名は伊達じゃない。

「久しぶりッス」「……久しぶり」

 ホロハロとノノンはククリとナタに近寄ると、二人の()()()()()()をチェックする。

「フム。服越しでも分かる。筋力が付いたようですね」

「姿勢も美しいです。重心の動きを意識した、戦士らしい歩き方ですね」

 ホロハロとノノンは、そう言って二人を褒めた。

「基礎は付いてきたみたいですね。後はその発展と、銃や剣のような武器、それにカードの使い方をしっかりと学んでいってください」

 ノノンのアドバイスを受け、ククリとナタは頭を下げた。

「「はい、ありがとうございます」」

 ノノンと、それから顔を背け僅かにではあるがホロハロも、笑った。




 ククリとナタがこの二週間泊り込みでみっちりと受けていた訓練は、ホロハロとノノンの口利きで担当してもらった、ベテランの訓練官によって行われた。

 ノノンの趣味の一つが、有望な新顔の発掘だ。ククリとナタに勝負を仕掛けたのもその一環であり、仮にも一瞬ノノン達を追い詰めたククリとナタを評価し、口利きしてくれたのだ。

 訓練はそれなりに厳しかったが、ククリは確かな手ごたえを感じたし、満足していた。

 クエストは命懸け。知識と能力は命を救うし、不安に駆られることも減る。町の大先輩に気に入られ、こんなチャンスを貰えたことにククリは感謝していた。

 

「それにしても、人が多いッスね」

 呆れたようなククリの言葉に、ホロハロが頷く。

「目的地はラナの森だからな。ダタン各地から一旦ここに冒険者達が集まり、それから馬車でタウンNo.11に移り、ラナの森に入る」

「? それなら何でここに集まるんスか?」

 もっと目的地に近い場所があるならそこで集まればいい。それに、ラナの森はこのNo.7とも隣接している。

「簡単な話だ。……ここからNo.11までの直線上に、ここほど人の集まるのに適した規模の都市はもうない。ラナの森は巨大で、奥地は魔族の領域で危険だ。周囲にはそれほど発展した町がないんだよ」

「へぇ……No.11ってどんなところなんスか?」

「――期待はするな。素通りするだけで、馬車から降りることすら無い町だ」

 ホロハロはそれだけ言って、口を閉ざした。


『さぁいよいよ初秋の風物詩クエスト、死霊掃討戦線が始まりまーす!』

 

 機械を通したノイズ混じりの声が近くで聞こえる。

 周囲を見渡すと、近くに設置されたスピーカーから流れてきていることが分かった。

 どこかで撮っている生放送をそのまま流しているらしい。

 

『死霊掃討戦線と言えば、皆さんが気になるのは勿論、新たなる超新星の方々でしょう! 新人、ベテラン、その両方がこれほど集まるクエストはそうそうありません。これまでも、このクエストで後に『英雄』と呼ばれることになる傑物が数多く、頭角を現してきました。――――今年の注目株は、こちら!

 

 No.9出身 スラムの英雄 シャーク兄弟!

 No.7出身 連魔弾の悪魔 ホロハロ&ノノン!

 No.3出身 飛車角落ちの流浪者 バロン!

 No.2出身 英雄の末裔 サンバレロファミリー!

 

 そしてそして――――我らが帝様が一子、ジョン・ルーイス・ダタン皇子殿下だ――!!!』


 放送と共に歓声が上がり、促されるように周囲の人間が少しづつ一つの方向を向く。

 数人の護衛に守られた豪奢な馬車。その中に、おそらく王子がいるのだろう。

「皇子自ら参加するンスね」

 そういうものなのか?

「…………皇位継承権を得るための、ポイント稼ぎだと思う。こうしたイベントで、少しづつ民衆の支持を得る作戦」

「へぇ、そういうことッスか」

「……ダタン帝国の帝は、もう、何年も前から病で公に顔を出していない。皇位継承権争いは、それ以来、いやその前から、ずっと行われている」

「皇子っていうのも、大変ッスね」

 そんなことを話していると、スピーカーから、わざとらしい驚いた声が聞こえてきた。


『ああっとぉ! 忘れていました。最後に一人、超新星と呼ばれる少女。その名は――! 這い出る亡霊 カトラ! タウンNo.1()3()出身の少女です!』


 その声に、皇子とは別に意味で、周囲がざわつく。

 困惑、そして嫌悪感。皇子の時とは違い、そこに好意的な雰囲気は一切無い。

 

「二桁ナンバーが英雄候補だと? 何かの冗談だろ……」

「ありえない、何を考えてやがる……」

「信用できんぞ、あんな掃き溜めのゴミ共……」 


 そして皇子の時と同様に、集団は少しづつ波のように、同じ向きに身体を向ける。

 そこには、今まさにインタビューを受けている一人の少女がいた。

 巨大な魔物の骨を加工した大剣を背に担ぎ、褐色の肌に、真っ白な髪をしている。


『No.13での暮らしはどうですか?』

『あなたは町の誇りですね!』


 注目を浴びて少女は恥ずかしくなったのだろうか。それとも腹が立ったからか。軽く頭を下げると、どこかに走り去ってしまった。


「……何だったんだ今の? 『二桁ナンバー』ってどういうことッスか?」

「それは……」

 ナタが言いにくそうに答えようとした時。タイミングよく笛が鳴った。

 出発の時間だ。急いで場所を確保しに行かなければ、荷馬車に詰められることになる。

「急ぎなさい、二人とも。……また後で会おう」

 VIP待遇のホロハロとノノンはそう言って去って行った。

「俺達も急ごう。……その話は、後でゆっくり聞かせてもらってもいいッスか?」

「……うん」

 ククリとナタも急いで馬車に向かう。

 他の冒険者に蹴飛ばされないように気をつけながら、押され押しながら馬車に乗り込む。




 そして何はともあれ――馬車は動き出した。

 ククリにとっては初めての遠方への冒険。

 日々暮らす町から離れ、未だ見たことの無い大地へ。

 


 ――――いよいよ、新しい冒険が始まった。


説明回。

現時点でストックゼロだけど、毎日……は無理でも二日に一度は投稿したいな、と思ってはいます。

後、朝投稿はやめて、夜日七時から九時くらいに投稿しようかと考えています。

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