三章07
――チーム戦、二対二の戦い。
ククリとナタにとっては二度目のコンビ戦であり、ククリにとって、あるいはナタにとっても初めての、乱戦ではない、本格的な対人戦だ。
次のクエストに有効な効果を持つカード「救済の光B」の購入権を賭けて、ギルドの模擬戦闘場で戦う。模擬戦というだけあって銃弾、剣は殺傷力が抑えられた物を使い、攻撃系カードも威力を減衰させる結界が張られていて制限されている。とはいえ減衰させすぎると模擬戦闘にならないので、あくまで気持ち程度のもの。ギルドは場所を提供するだけであり、勝敗の行方、流血沙汰、人の生死、その全てに関知しない。ただし、それではあまりに無責任。ということで……勝負の前に、双方で「誓約書」を交わすことを指示し、それを確認してから場所を提供している。
今回交わした「誓約」は三つ。
一つ、二対二で戦い、過剰な殺傷行為は控える。重傷人、死者がでた場合、怪我をさせた者、殺人者が医療費等とギルドの慣例に則った賠償を支払うこと。
二つ、降参はいつでも受け入れること。また意識を失ったもの、拘束されたもの、攻撃が頭部、首等の急所を捉えた場合も降参扱いとする。
三つ、勝者側が、カード「救済の光B」の購入権を得る。
交わされた誓約を確認し合い、ギルドに提出する。誓約は誓っただけで拘束力は皆無だが、誓約書はギルドに展示される。これを破る場合、他の冒険者からの信用はガタ落ちする。まず破られることはない。
「――じゃあ、始めるッスかね」
ククリはそう言うと、武器を構える。ククリの所有する武器は、オーリーの奴隷倉庫からくすねて来た銃と、爆裂弾Eのカード。この二つだ。
「そう、ね」
ナタも頷く。ナタは元々何一つ武器を持っていなかった。元奴隷だからだ。だが、残酷な実験の被検体となったことでその身体は人から遠ざかり、人外の力を得た。目は赤くなり、フードや服で隠しているが小さな角と尾が生え、身体に少し鱗がある。
ナタは人より遥かに身体能力が優れている。今回は特別に、ギルドから剣を借りていた。
「私達相手にやる気みたいね、あの二人」
「所詮、初心者だ。「連魔弾の悪魔」の異名を持つ我らを知らなくても無理はありません」
「そうね」
対戦相手の二人組みは、ノノンとホロハロ。女騎士とガンナー……らしい。
見た目からわかるのはそれくらいだ。
そこからは互いに無言で、一定の距離を取ったまま二人横に並ぶ。
――――ガンッ。
鈍い鐘の音がなり、試合開始のコングが鳴る。
そして双方がとった行動は、全く違った。
ホロハロはバックステップで後方に下がりながら、淀みない動きでホルスターから銃を取り出す。同時に、ノノンはその場から一歩も動かずに剣を構えた。
それに対し、ククリは左へ、ナタは右へと走り、左右に分かれる。ククリよりもナタの方が倍は素早く、ククリが銃を構えたと同時にナタがノノンに剣を振るう。――それを、ノノンが受け止める。
剣と剣がぶつかり、ガキン、と金属同士がぶつかり合う音が二重に響く。
ノノンは、ククリが銃口を向けたことに対し全く感心を向けず、見向きもしていない。
放たれた銃弾はノノンに届かず、彼女から離れた場所……横にした扉一つ分ほどの距離の所で何かにぶつかり、金属音を出しながら弾かれた。
「……バリア系ッスね」
「ご明察。ま、分かるわな」
そう言って、ホロハロが片手で銃を撃つ。
ククリは転がるようにして避けながら……イチかバチか自身のカード「女神の微笑み」を使う。
「女神の微笑み」はククリが異世界転生した時から持っていた「幸運・不運の入れ代わる流れを加速・減速させる」カードだ。
人間、誰しも自分が今本当に幸運か、不運かなんて分からない以上、当てずっぽうで使うしかないのだが……今回、ククリは加速させることにした。こんな負け試合に参加させられていること自体、ある意味「不運」だ。それが素早く去ることを祈り、幸運が巡ってくるように念じる。
幸か不幸か、あるいは実力か。ククリは銃弾を無事かわし、転がりながら負けじと弾を撃つ。
ホロハロは舌打ちすると、反撃にもう一発弾丸を撃ちながら、ノノンの背後に移動する。
――弾丸は、ククリの頬をかすめた。
ククリはほっとしつつ、ノノンを挟んでホロハロの真正面に移動する。
弾丸を通さないバリアを張るノノンは、役割としては弾除けに近い。
だが、いつもバリアを張っているとは限らない。念のため彼女自身を盾にした方がいい。
「判断は悪くないですが……やはり、素人ですね。特に、女の方は」
ホロハロがそう呟く。
実際、ナタはノノンにいいように翻弄されていた。剣を振り回すが、全て弾かれている。
「初手で決められなかったッスか……」
痛恨の極みだ。ククリは顔をしかめた。
ノノンとホロハロの戦術は、女騎士ノノンが攻撃を受けるタンク役をこなし、ガンナーホロハロが銃で攻撃するというもの。……戦う前から予想していた通りだ。
一方、ククリとナタの戦術は各個撃破を狙ったもの。まずノノンを挟撃し、その次にホロハロを仕留めるというもの。
ノノンとホロハロは互いの欠点を補い、長所を活かす戦術。
ククリとナタはそれを読み、「役割分担で前衛後衛一人ずつしかいない」という弱点を突くと同時に、自身の欠点を補う戦術を取った。
ククリとナタは防御的なカードを持たないし、経験が浅く総合力で二人に劣るだろうと踏んでいた。なので、地力の差が出る前に短期決戦で攻め立てる。
悪くない戦術とは言えた。……付け焼刃であり、消去法でそれ以外に勝ち筋を見出せなかった、というのが致命的なネックだが。
初手で勝ちにまで持ち込めなかった。既に、敗色が濃厚だ。
ナタが弾き飛ばされ地面を転がる。
追撃を避けるためにククリは闇雲に銃を撃ったが、所詮、焼け石に水だ。
「もう十分でしょう。降参を認めますよ?」
ノノンの言葉に、ククリは無言を貫く。相手が油断している今、少しでも時間を稼ぐためだ。
「……ククリ」
ナタが一瞬だけこちらを見た。
「………」
何を言いたいのか、ククリにはまるで分からなかった。が、その目にはまだ仄かに力が篭っていた。少なくとも「降参しよう」ということではない。
「降参してください。……これ以上は時間の」
そこから先を、ノノンは言うことができなかった。
――――ナタが横薙ぎの一撃を叩き込む。
先程同様に、ノノンはそれを受け止めた。だが、今度は一味違う。
ナタは、腕に力を込めてセーブしていた金剛力を解き放った。
ノノンの体が宙に浮き、そのまま背後にいたホロハロを巻き込んでボールのように飛び、模擬戦闘上場の壁に叩きつけられる。
「相変わらずトンデモないッスね……」
余りの怪力に一瞬呆けたククリは、慌てて銃を撃った。
銃弾はやはり、バリアによって阻まれる。だがそれも永遠ではないはずだ。
撃って撃って、撃ちまくる。
そしてククリの横で――ナタが剣を捨てた。代わりに、カードを取り出す。
「爆裂弾E」
ククリ達が持つ、唯一のまともな攻撃系カードだ。
いつもはククリが持っていたが、今回はあえてナタに持たせていた。
二人の集中攻撃を受け、ついにバリアが砕ける。
バキ、とガラスにヒビの入ったような音がした時、ククリは大金星する自分の姿を夢想したが――。
夢は、あっさりと潰れ砕け散った。
爆裂弾によって生じた煙の向こうから、同時に二発の弾丸が放たれる。
正確無比な弾丸は、煙で状況の読めないククリとナタの額に直撃した。
模擬戦用の弾丸だったため死にはしなかったが、あまりの激痛に頭を抑えて蹲る二人を見て、煙の中から悠然と現れた二人は微笑んだ。
ホロハロは銃を両手に握っている……二丁使いだったのだ。
「私達の勝ちです」
ノノンがそう勝利宣言した。
ククリ達は敗北し、カード購入権を失った。
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