三章05
「あら、お久しぶりね。もう来ないかと思ったわ」
久しぶりにギルドに顔を出すと、マレが僅かに目を見開いた。
「……目論見が外れたんスよ。大金が手に入る筈が、手に入ったのはあぶく銭。仕方ないから働きに来たってワケッス」
「それは残念」
「ホントッスよ、こっちは命賭けたってのに……」
はぁ、とこれ見よがしにため息を吐き、ククリはカウンターに座った。
「まだ言ってる」
ククリの隣にいたナタが呆れた。それから、マレに会釈してからおずおずと自分もククリの隣に座った。
「あなたは? ククリの恋人?」
「違う」
「相棒ッスよね?」
「…………まぁ、そんな感じ」
「妙に温度差があるわね」
犯罪行為だけは止めなさい、とククリのことを全く信用していない忠告をして、マレは水の入ったコップを二人の前に置いた。
「一緒にいるなら分かるでしょ? この男……」
マレの言葉の続きを、ナタが引き継ぐ。
「……一見無害だけど、ちょくちょく変態っぽさが出る」
「そう。まさに」
「知人が襲われそうになった。事情がありそうだったけど」
「こっちは嬉々として「おっぱい」を名乗りだしたことは知ってるわ。まぁ、私が騙したんだけど」
「……気のせいッスか? 冤罪ばっかりじゃないッスか、俺?」
「否定はしない。けど、ククリも悪い。過去がない分、目先のこと以外興味なし、行き当たりばったり。……終始そんな感じだから、ハニトラだと分かっていても楽しみを優先しそう」
「そんな馬鹿な」
HAHAHA、と笑いながら、ククリは脂汗を流した。
何故バレたし。
……コイツよく見てる。人を見る目あるな……。
「そうそう。キミも悪い。だからからかって「おっぱい」なんて名前付けたことも許してね?」
「それはいいけど」
「……いいんだ」
「ついでに「ククリ」って名前をつけた件も許して」
「それは許さん」
「……そっちはダメなんだ」
ナタの呟きにククリは頷く。
「ありふれた名前を付けてくれって言ったのに、今まで「変な名前」「変わった名前」としか言われないんスよ? 「おっぱい」は結局名乗らなかったからセーフだけど、「ククリ」はギルティでしょ」
「だから、私のおっぱい触らせてあげたでしょ」
「……おっぱい?」
そう呟いて、ナタはマレのおっぱいを凝視した。
「Yes、おっぱいおっぱい」
マレが自分のおっぱいを持ち上げて揺らす。
デカイ。巨大。so big!
巨大な質量を誇る球体が二つ、ゆっさゆっさと上下に揺れた。
それを半ば呆然と見た後、ナタは自分にそなわっているものを見る。
「……」
貧しい。なんだか寂しい胸部、と我ながら思う。
「最近、また少し大きくなったのよね~♪」
「…………」
ククリは二人の胸を見比べる。
なるほど。
富める者は更に富み、貧するものは貧したまま。
これが――『資本主義』か。
資本主義が何か知らないけど。
ふと、ククリはそう思った。そして、ハッと気付く。
「いや待て待て。俺、揉んでないッスよ?」
「当たり前じゃない。あなたに触らせるわけないわ」
ナタが、え、とマレを見た。
「……ナチュラルに人に冤罪をきせるの止めてくんない?」
「ゴメンゴメン。でも似たようなことはあったでしょ? 名前の件チャラにするから揉ませろって迫ってきたよね?」
「……それも、嘘?」
「あー、嘘嘘」
ナタの質問に、ククリは嘘をついた。
そっちは事実だ。
酒の勢いで言った、否定できない事実である。
「そう、やったのね」
あっさりとナタは看破した。……なぜなのか。
「…………ま、それも結局触らなかったじゃん」
「ジカでは、ね」
「直接は触らなかったってことは、ブラジャー越しに触ったってこと?」
「またマレの嘘だ。この女は口だけ。下品な冗談は言っても、決してそのカラダを安売りしたりはしないッスよ」
「……どうかしら?」
フフフ、と愉快気に、蟲惑的に彼女が笑ってはぐらかす。
――おかげで、ナタはククリが触ったかどうか確信を持てなかった。
「――それで、今日はクエストを探しに来たのね?」
改めて、マレが尋ね、ククリが頷く。
「そうッス。――もう鼠狩りや、薬草取りは勘弁ッスよ」
その言葉を聞いて、へぇ、とマレは感心したような顔をしてククリを見た。
「ククリがいなくなって、ほんの一ヶ月だけど……そんな顔するようになったのね」
「男児三日会わざれば……ってね」
どこか余裕のある態度をしているククリの頬を、ナタが人差し指で突いた。
「……目先の金に目が眩んで、命を張っただけ。何も変わっていないと思う」
そんなナタを見て、マレがクスリと笑う。
「そうなの? でも成長した気がするわ。どんなカタチであれ、自分で決めて死地に自ら足を踏み入れたのなら、生還には成長が付いて来る。そういうものだもの」
マレは微笑みながら、一つのクエストを二人に提示した。
「今のキミなら、このクエストも大丈夫かもしれないわね」
『死霊掃討戦線』
呪われた地、ラナの森「血塗れ吸血鬼城跡地」。
ダタン帝国初秋の風物詩……らしい。
何ともイヤな風物詩があったものだ、とククリは思った。
だが、報酬は悪くない。基本報酬はクエスト難易度からすれば低めだが、討伐の出来高で幾らでも報酬が増える。
それに、この依頼は複数のギルド・パーティ合同の、大規模戦闘だ。ヨソ様の技術・カードを見て学ぶにはちょうどいい。
「「…………」」
ククリがナタの方を見ると、ナタも無言で頷く。
――――ククリとナタは、そのクエストを受けることにした。
「ところで、今晩はどうするの? よければ、いいホテル紹介するけど?」
ニヤニヤと笑うマレに、ククリは首を振った。
「……野宿だよ」
心なしか残念そうに、そう言った。
今日は試しに十九時か、二十時にも上げる予定です。




