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三章02

「銀貨が四十枚……随分増えたな」

 ククリはホクホク顔で財布を見ていた。


 貯金が随分と増えた。


 ダタン帝国内で流通する通貨は、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨三十枚で金貨一枚となる。所得格差の大きいダタン帝国の内情に合わせるため、貨幣同士の価値の差がかなり大きい。

 銅貨は庶民の、金貨は上位層のための通貨と言っても過言ではない。

 ただこれでは流石に使いづらいので、銅貨、銀貨、金貨を「主貨」とし、これをサポートする「副貨」がある。

 青銅貨と第二銀貨だ。

 青銅貨は銅貨よりも価値が低い。銅貨がだいたいパン一つ分くらいの価値なので、それ以下の物の売り買いに使う。

 第二銀貨は銀貨の半分くらいの価値だ。

 順にすると、青銅貨、銅貨、第二銀貨、銀貨、金貨の順に価値が大きくなり、No.7程度の町だと、銀貨までが精々で、金貨の流通は少ない。

 この町の住人だと、全財産をかき集めて金貨一枚、多くて四枚が精々だろう。通貨として使うことはない。


 銀貨四十枚。これはつまり金貨一枚と銀貨十枚。

 この町の基準だとかなりの大金だ。

 「増えていく口座を見るくらいしか趣味が無い」という知り合いが前世にいた気がしたが……。

 これもそういったものか。確かに、増えていく貯金を眺めるのは楽しい。

 かつてはついぞ見ることができなかった光景の気がする。


「――の貯金残高ヤベー(笑)。地を這う蛇みてー」


 だととかつてはボロクソに笑われた気がしたが、今はどうだ。

 グングンと貯金が増える。爽快だ。

「アッハッハ、アッハッハッハッハッハ! ……ゴホゴホ」

 気持ちを持ち上げようと妙な高笑いをしたせいで、喉を痛めた。

 妙なテンションのままキッカの研究所を我が物顔で歩く。

 既に、被検体になって一ヶ月が経過していた。


 被検体としての日々に、然程不満はない。薬を飲まされて健康状態をチェックされたり、眠っている最中に機械を通してスキャンされたり。苦痛のある実験はされていない。

 これほどラクな仕事で日当銀貨一枚、衣食住付き。最高だ。


 鼻歌を歌いながら、ククリは研究所を闊歩する。……そのさまは生まれたての子供か、麻薬中毒者のようだ。

「フン、フンフン~フフフ~フンフ~ン♪」

 野郎の鼻歌に価値があるのか。否、無い。

 ククリの鼻歌を聞いていた周囲の研究者はそう思った。同時に、やはり彼は異世界転生者なのだと実感する。


 ククリが無意識に歌う鼻歌は、この世界のどこにもない曲だった。


「フン、フンフ~フ・フ~ン♪」

 記憶の片隅にある、「ゼ○ダのこもりうた」という曲を歌いながら、ククリは浮かれ気分で間違っていつもより一つ奥の曲がり角を曲がった。

 キッカの研究所はそれなりに広い。というのも、ここは再利用された建物で、賃借料がタダ同然だからだ。

 トワイライトゲートのすぐ近く。

 No.7の中でも市庁舎、警備当局から離れた場所に位置し、市長交代と同時に凍結された工業化計画の遺産が眠る、廃墟が連なるネクロポリス。

 その廃墟を再利用された場所で、建物は無駄に広い。

 当たり前だが、繁華街に近い場所に研究所を建てたい研究者は滅多にいない。キッカはラナの森という資源の宝庫に近く、賃借料が安いという点に目をつけたが、それは彼女が変わり者だからだ。普通は、主要な研究施設から程遠い、市民権すら持たない人間ばかりのこんな所に研究所をかまえない。

 故に、その巨大さからククリは道を間違えたことに気付かず、自分の部屋だと思い込んだまま扉を開けた。

「……アレ?」

 ファンシーな内装を見て、ククリはようやく道を間違えたことを悟った。

「キッカか参の部屋か?」 

 ポツリと呟き、ククリは部屋から引き返そうとしたが……ふと、机の上に置かれた紙束が気になって足を止めた。

 「被検体観察レポート」

 即ち、ククリとナタについて書かれたレポートだ。

 これが気にならない筈が無い。

 ククリは周囲に、部屋の中に誰もいないことを確認すると、

「ちょっとだけ……先っぽだけだから……」

と、意味不明な言い訳をしてレポートを開いた。


「どれどれ……」




説明ばかりな上に長ったらしかったので、分割しました。ネット投稿って随時上げるから、章を通して推敲とかしにくいな、と日々思います。

ネタバレだけど、この前の二章、改めて見ると終わりがしりきれトンボ感あるし、ギンドロ登場の意味薄いな、と感じました。ヤラカシタ……。

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