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一章05


 木々が盾になり、弾丸が当たらない。


 背後から仮面集団の苛立った空気が届き、誰もが一つ山場を越えたと勘違いする。

 ククリもまた、眼前を弾丸が通り過ぎる中、少しばかり心の平穏を取り戻していた。

 暗闇。木を背にしていることから来る安心感。

 銃を封じたことは、思った以上に心に余裕を与えていた。

 ――――だがその余裕はすぐさま霧散する。


「ぐぅうぅ!?」

 隣の木に隠れていた男が首から噴水のように血を噴き出し、倒れこむ。

「なんだ、どうした!?」

            「新手か!?」

 再び余裕を失っていく中で、ククリは確かに、暗闇で光る二つの眼を見た。

 咄嗟に、近くの木の枝を引き千切り盾にする。

「グルルルルル……!」

 木の枝を噛み千切らんばかりの勢いで、鋭い牙を持った獣が枝に噛み付いた。

 ……犬だ。

「何スか、この犬っころは!」

 犬を蹴飛ばし、ククリは爆裂弾を放った。

 断末魔の悲鳴をあげ、犬が動かなくなる。

「ヘルドッグ……猟犬だ!」

 偉丈夫が説明しながら、犬を二匹、左右の手で同時に殴り飛ばした。

「……とんでもないパワーッスね」

「怪力Cのカードのおかげだ。確かに、鍛えてもいるけどな」

 偉丈夫は落ち着いた口調で言ったが、その額には脂汗が伝っている。

 

 この犬は人より小さく、何より体毛が黒い。

 この暗闇の中では、どこにいるのかよく分からない。そして一瞬でも反応が遅れれば、致命傷だ。狼や獅子とは比べるべくもない小さな牙だが、人間にとっては致命傷足りえる。

「くそ……、死んで、たまるかっ!」

 ククリは後退しながら、デタラメに爆裂弾を放った。

 そこかしこでささやかな爆音を鳴らして威嚇し、爆裂弾の光が周囲を照らす。これで犬の不意打ちは避けられたが、反面、仮面の集団にこちらの位置が把握されて、銃撃がこちらに集中する。

「! 援護しよう」

 偉丈夫がククリを庇うように、仮面集団を狙って銃を撃つ。


「チッ。しぶとい」

        「放っておけ、向こうはジリ貧だ」


 これまでの逃亡劇で、ククリの体力は限界に近い。また爆裂弾も銃弾も無限ではない。それを威嚇のためだけに使い続ければ、敗北は必定だ。

 こちらのリソースは減る一方だが、相手はノーダメージ。時間が経てば経つほど、こちらは不利になる。

 しかし、この場を逆転するようなカードも知恵も、今のククリは持っていない。

「クソ、クソクソクソ……。死にたくない。まだ、死ねるか……」

「当たり前だ。まだ、俺は死なん」

 気がつけば、周囲にいるのは偉丈夫の男だけになっていた。他の連中が死んだのか、何処かへ逃げ遂せたのかは分からない。

「……っと」

 運悪く、足元がぬかるんでいた。一瞬よろけて、脇下を弾丸が通り過ぎていった。

「クソ、運が悪い……」

 ん? 運が悪い?

 ククリは焼け石に水だろうな、と思ったものの、「女神の微笑み」のカードを使い、ツキの巡りを加速させる。

 不運を短縮し、幸運を掴む。……それぐらいしか、この状況を打開する手立てがない。


 だが、既に遅かったらしい。

 ククリ達の背後には、有刺鉄線が張られていた。

 ルールがないとはいっても、フィールドは限定されていたらしい。そのことを、今までククリは考えてすらいなかった。

「ククク……。運の悪い奴らだ。もっと東の方に逃げていれば、まだまだ逃げれたものを。この辺は上級魔獣の生息地だからな。フィールドも狭い」

 仮面の集団が袋の鼠になった二人を相手に、あくまで距離を取りながら、余裕のある態度で、しかし戦闘体勢は崩さず話しかける。


「木がホントうぜぇな……。どうする? 半円を描くようにして射殺するか?」    

           「馬鹿、こっちも危ないだろ」

     「グレネード投げろよ」

 「まだヘルドッグが何匹かいたろ? そいつらけしかけろ」

            「それがいい」

        「「「「「そうしよう」」」」」     


 今度こそ、終わる……。

「もう、ダメか……」

 ――ククリが死を覚悟し始めた時、偉丈夫の男が鉄線を殴りつけた。 

 ガシャン ガシャン ガッシャン ガッシャン

 何度も何度も、偉丈夫の男は鉄線を殴る。その度に、鉄線が撓む。だが、決して破れない。

「は、馬鹿が」

      「トチ狂ったのか?」

               「見世物としてはぼちぼちだな」

 仮面の集団がめいめい罵声を浴びせたが、偉丈夫の男は止まらない。男は両手に手袋を嵌めていたが、そんなものでは手を保護できない。棘が刺さり、手袋を赤く染めていたが、それでも、偉丈夫の男は殴るのを止めない。

「まだだ、俺は、死ねない、死んでたまるかっ。俺は、俺は――」

 背後から笑い声が聞こえてくる。だが、それがどうした。

 ククリは、負けられない、この男に負けてなるものかと思った。

 腹の底がカッと熱くなる。

「俺だって……俺だって、こんなところで終われるかっ……!」

 有刺鉄線に向けて、爆裂弾を放つ。

 当然のように、鉄線はびくともしない。だが、構わない。

 これが最後のチャンスだ。鉄線が破れれば最高だが、そうでなくてもいい。

 もう一つの可能性に、ククリは賭けた。

 ポケットにしまわれている、「女神の微笑み」のカードを使い続ける。 

 不運を加速させ、呼ぶべき奇跡をこの手に掴む。


 ――――ゾワリ。


 唐突に、寒気が奔る。

 かん高い叫び声のようなものが、耳に粘つくように残る。

 ……そして眼前に「死」そのものが迫り、ククリは脂汗を流しながら手をぎゅっと握りしめる。

 ()()()()

 俺はこの手に、奇跡を掴んだんだ。






 笛の音に近いかん高い声と共に、()()は現れた。

 成人男性を縦に二人は並べたかのような巨大な体躯。表情の読めないぎょろりとした眼に、力強さに満ち満ちた巨大な翼。


 ――大怪鳥。


 まさにそう呼ぶに相応しい巨獣がこの騒ぎを聞きつけ、有刺鉄線の向こうから舞い降りた。 

「――――!」

 威嚇するように大きく鳴くと、大怪鳥は足を振るいあっさりとククリ達が隠れていた木を破壊した。


「な――」

     「クソ、撃てぇ!」

              「馬鹿、刺激するな!」


「こうなりゃ……突撃だな!」

 偉丈夫の男が、猛々しい笑みを浮かべる。

 ククリと偉丈夫の男は互いに一瞬笑い合うと、仮面の集団に向かって走った。

「クソ、来るんじゃねぇ、撃ち殺すぞ!」

「やってみろ。そうなったら、お前はアレに踏み潰されてお陀仏だ」

 その言葉に、仮面集団が躊躇する。だが、迫り来る二人を見て、幾人かは銃を構え、撃った。

 咄嗟に、二人が横に飛ぶ。

 ククリと偉丈夫の男を追っていた大怪鳥に、仮面の男が放った弾丸が当たった。大怪鳥が、ギョロリと視線をそちらに向ける。

 ――次の瞬間、その男は挽き肉(ミンチ)になった。

「ふざけろよ……。どうなってんだぁ!」

 グレネードが飛び、無数の弾丸が放たれる。その度に大怪鳥は足と翼を振り回し、周囲に血と肉をばら撒く。


「さすが鳥頭。もう俺達のこと忘れてやがるぜ」

 偉丈夫の男が安堵した顔になってそう言うが、それも次の瞬間までだった。

「……さすがの鳥頭も、消去法はできるらしいな」

 周囲の生存者がククリ達二人だけになり、大怪鳥がこちらを見る。

《…………》

 無言で、こちらを見つめる。その感情はやはり読めない。

「気味が悪いッスね……」

「全くだ」

 全身に火傷を負っていたが、重傷だとしても致命傷ではない。

 大怪鳥は、そのまま突進してきた。

 木々をなぎ倒し、その足がククリをボールのように蹴り飛ばそうとする。

「クッ……スピードもパワーも体躯も、桁違いだ。さすがに、避けれ――」


「――……」


 ククリが蹴飛ばされる間際、銃声が鳴った。

 大怪鳥は小さく叫ぶと、全身の力が抜け崩れ落ちながらそのままの勢いで地面を転がり、何本か木を倒した後、止まった。……もう、ピクリとも動かない。

 銃声のした方を向くと、ローブで全身を隠した女がこちらを見ていた。


「ヘッドショット成功。……博士の命です。あなたを死なせるわけにはいきませんので……」

 女がローブを脱ぐ。

 

 ……そこにいたのは、キッカ博士に造られた命の恩人、ヒューマノイドの人・(サン)だった。

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