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二丁拳銃の執行者  作者: 柳田 脩
第二章「廃墟の街は眠らない」
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第3話:尋問

稿哉は確かに、彼女から遠ざかるような経路でじぐざぐに走って逃げたというのに、まるで最初からここに来るのを予期していたかのように、その場に佇んでいたのだ。


(何故ここに―――!?)


そんな、呼吸の乱れすらない少女に対し、稿哉は思わず戦慄する。


精悍な顔立ちと、月明かりに照らされた白銀の髪。そこから浮かぶのは、到底殺人犯とは程遠いイメージだ。しかし、彼女の手には凶器の拳銃が握られている。


それを見て、さっき見た光景は見間違いでもなんでもないと稿哉は確信する。こうして彼女が追ってきたという事は、口封じをするためだろう。


そう推測した瞬間、ゾワリと背筋を悪寒が襲った。


(逃げなきゃ―――!)


稿哉はそう一瞬遅れて判断すると、踵を返して逃げようとする。しかし、


「ゴあッ!?」


その瞬間、彼の背中を謎の衝撃が襲った。まるで、丸太か何かで背中を突かれたような感じだろうか、ドス!という鈍い音とともに、彼の体は前に突き飛ばされた。


そしてバランスを崩し、彼は地面へと無様に転がった。


「い・・・・・痛ぃ・・!」


そう呻きながら悲痛な声を上げる稿哉。しかし、それだけでは済まないとでもいうように、


「ぐッ・・・!?」


彼は後ろから近付いてきた少女によって、胸ぐらをつかまれたのだ。そしてそのまま、女の子とは思えないような怪力で強制的に立たされ、激しく壁に叩き付けられた。


叩き付けられた衝撃で、稿哉の全身から力が一気に抜ける。そしてトドメと言わんばかりに、少女は稿哉の顎下へと銃を突きつけた。


こうして完全に、稿哉は抵抗する手段を絶たれてしまった。全力疾走した影響もあるのか、体はまるで鉛のように重かった。


そんな稿哉が今できるのは、ただ茫然と己の運命を見据えるくらいだろう。彼の頭からは、もう先ほどの不可解な出来事全てが消え失せ、いつ殺されるのか分からない恐怖が、彼の思考を支配した。


と、そんな時だった。


「アンタ・・・何者なの?」


突然、少女が口を開いたのだ。


「な・・・・?」


いきなり声を掛けられ、稿哉は一瞬言葉を理解できなかった。そしてようやく彼女が自分に向けて質問してきた事を理解した。


「見たところ、一般人のようだけど・・・・」


少女は訝しげに稿哉の体を見回す。一体どういうつもりなのか、彼女は一向に殺そうとはしない。むしろ何か、情報を引き出そうとしているように見えた。


「顔立ちからして、この国の人間じゃない事は確かね・・・」


そこで稿哉は、彼女の言葉に疑問を抱いた。


(・・・この国の人間じゃない?)


正直意味が分からなかった。ここは日本のはずだ。それに、別に稿哉は外国人と見間違えられるような外見でもない。だが、少女の顔立ちはというとどこか洋風というか、日本人の特徴が見受けられない物だ。


そんな混乱する稿哉を置いていくかのように、少女はさらに続ける。


「もしかして、あの男の手下の生き残りかしら?」


稿哉はそんな少女の言葉に対し、無言で首を激しく横に振った。


「そう・・・じゃあ、アンタはどこから来たのかしら? ここはとっくの昔に捨てられた廃都だけど、何故こんなとこにいるの?」


「は、廃都・・・・?」


やっとまともに思考が戻ってきた稿哉は、そう震えながら聞き返した。


稿哉は何を言われているのか分からなかった。確か自分がいたのは、廃都というより、ただの田舎だ。それとも、やはり自分はどこか遠くに運ばれてきたのだろうか。


「えぇ。人が住んでいない場所に、こんな時間に出入りするなんて随分怪しいことしてるじゃない。説明してもらえるかしら?」


少女はそういうと、稿哉の顎に突きつけた銃口を、より力を込めた。


「ぐッ・・・お、俺は・・・ただ、助けを呼ぼうとして・・・・!」


「助け? 援軍ってこと?」


「ち、違う! 俺は、きゅ、救急車を・・・呼びたくて・・・!」


だから彼は、声を強めてそれを否定した。しかし、


「は? キュウキュウシャ・・・?」


少女はそこで更に眉をひそめる。聞き取りづらかったのだろうか。


「お、大怪我したんだ・・・だから!」


「あぁ、確かにこれは酷いわね。でもここには治療院なんてないわよ?」


治療院とは病院のことだろうか。兎にも角にも、あの男の仲間でないことを必死に説明しなければならない。恐らく仲間だと判断されれば、すぐにでも引き金を引かれてあの世行きかもしれない。


「で、電話で助けを・・救急車を、呼ぼうとしてただけだ・・・!」


そう必死に言う稿哉。しかし、


「あぁもう!さっきから聞いていれば、キュウキュウシャだとか何とか、本当にワケわかんないことばっかり言って・・・!」


少女はそう怒ったように言うと、


「あんた、密入国者でしょ?」


そう決めつけるように言い放った。


「はぁ!?」


突然の言葉に、稿哉は衝撃を受ける。ここは日本のはずだ、密入国も何も、稿哉は未だかつて日本から出たことがない。


仮にここが日本じゃないとしても、たった2時間程度で生ける場所なんて限られているし、そんな事をされる理由なんて見当もつかない。


なにより、この少女が話している言葉は日本語じゃないのだろうか。


(意味、わかんねぇ・・・・!)


そんな矛盾に頭がこんがらがりそうになる稿哉だったが、少女はそこに更に拍車をかけていく。


「どうりで顔立ちも違うし、こんな場所にいたってわけね」


少女はそう一人でに話をすすめていくと、


「言葉が違うという事は・・・放浪族かしら。どうせ、その傷も衛兵のヤツらにもらったんでしょ?」


そう、半ば呆れたような顔で稿哉のことを見てきた。


「ち、違う・・・だから俺は地震で・・・!」


「はいはい、言い訳はいいわ。別に私は兵士でもなんでもないから何もしないわよ。追い掛け回して悪かったわね」


少女はそう言うと、胸ぐらを掴んでいた手と突きつけていた銃を離した。


突然解放された稿哉は、そのままストンと地面に尻もちを着いた。


何やら勘違いされてはいるものの、殺されずに済むようだ。だとすれば、ここは助けを求める唯一のチャンスではないのだろうか。


(思い切って頼むしかない―――!)


人殺し相手に物を頼むなんて考えられない事だが、ここが無人の地であるのなら、助けを求めるチャンスは今しかない。


しかし、


「さて、と・・・仕事は一通り終わったし、あの死体をさっさと回収させますか」


少女はそう物騒な事を口にしながら、銃を仕舞い、


「ま、せいぜい目を付けられないように生活することね」


そう残して、立ち去ろうとした。


「ま、待ってくれ、救急車を!」


「知らないわよ、そんな物。傷を治したいなら、治療院に行くことね」


間髪入れずに助けを求める稿哉だったが、彼女は知らんとばかりに背を向け、無慈悲にもそのまま歩き出す。


「なぁ、おい!」


稿哉はそう懇願するように言うと、思わず立ち上がる。そしてハッと気が付いたときには、去りゆく彼女の手を強引に掴んでいた。


「あ、ごめ――」


すぐさま謝ろうと、力強く掴んでいた手を離した稿哉。だが、そこで妙な事が起こった。


「ん・・・?」


てっきり銃でも向けられるかと思ったのだが、何故か少女は振り返ろうともしてこないのだ。それどころか、まるで少女は時間が止まったかのように、足を踏み出す体勢のまま、その場に固まっていた。


(あ、あれ・・・・?)


そんな光景に不思議がっていた稿哉だったが、その矢先―――


「あ、あんた・・・・私に、な、何、した―――?」


そんな言葉と共に、彼女がそのままの姿勢で、顔だけをこちらに向けてきたのだ。そして彼女のその眼は、先ほどと違って明らかに敵意を持ったような、鋭い眼差しになっていた。

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