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二丁拳銃の執行者  作者: 柳田 脩
第一章「ちょっとした寄り道」
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第2話:廃墟の探索

あの騒がしい電話から数分後、稿哉は廃墟の前に立っていた。


廃墟の周りには背の高い雑草や、立入禁止と表記された看板などがあり、"いかにも"といった感じの雰囲気を醸し出している。


例えるなら、夜の学校といった感じが近いかもしれない。


「かなり不気味だな・・・・」


稿哉はまるで、お化け屋敷にでも来たかのような緊張感に、思わず冷や汗をかいていた。オカルト等はあまり信じないタチだが、実際にこんな薄気味悪い所に一人で入るには、相当勇気がいる。


「うぅ・・・マジで入りたくない」


稿哉はそうボソリと弱音を零しながら、廃墟を見上げた。


廃墟は2階建ての小さな事務所のような建物である。長い間放置されていた為なのか、窓は殆ど割れており、所々外装が崩れ落ちて鉄筋が剥き出しになっていた。


よく見ると、近くに『解体中につき立ち入り禁止』と書かれた看板まである。だが看板は錆びついており、随分前の物のようだ。


そんな、いつ崩れてもおかしくない廃墟を稿哉は睨みつけると、


(ちくしょう、これも兄としての威厳のためだッ・・・・!)


そう自分に言い聞かせて、半開きの扉のドアノブに手をかけた。そしてそのドアを思いっ切り開け放った。


ドアは案外簡単に開いたが、途端にモワっとした埃っぽい空気が漂ってくる。


「うぶっ・・・」


稿哉はその空気にしかめっ面になりながらも、思い切ってそのまま足を踏み入れた。裏口だったのか、ドアの先には狭い廊下になっていた。


そして、誰かが最近足を踏み入れたのか、空き缶やパンの袋といったものが、あちこちに散らかっている。それに、天井などから崩れ落ちたコンクリート片が散乱しているせいで、足場はとても悪かった。


「汚いなぁ・・・・」


稿哉は零すように言うと、写真を撮りはじめる。


軽い人工音と共に室内が一瞬だけ明るくなった。稿哉は2、3枚撮影すると、廃墟の奥へと進む。


夜逃げでもしたのか、備品や書類等はそのまま机に放置されたままである。まるでこの空間だけ時が止まっているかのような錯覚すら覚えた。


(怖い、というか虚しいな・・・)


撮影をしつつ、彼はそんな感想を漏らす。室内を見ていく内に、気付いたら当初あった緊張は薄らいでおり、何故だか言いようのない虚しさが胸を満たしていた。


どうせ俊の話していた人影とやらも、自分を怖がらせるための作り話に過ぎなかったに違いない。それで本当に撮ってくるのか他の友人たちと賭けて遊ぶつもりなのだろう。


「昔からそうだが、勝手なヤツだよ全く・・・・」


稿哉は、20枚目の写真を携帯に収めると、半ば溜め息混じりな声でそう呟いた。これで、一階の撮れる場所は全て撮った。因みに一階部分だけで良いと言われているため、あとはこの今にも崩れそうな廃墟を抜け出すだけである。


稿哉はやや達成感に浸りつつ、


「さぁて、倒壊しない内に退散するとしますか」


そう冗談混じりに呟くと、出口へ向かって歩き出そうとした。

だがその時だった。


「―――――」


「ッ!」


ふいに、何やら声のような音が彼の耳を掠めた。それも、幻聴などではなく、中々にはっきりとしたものだ。


「い、今のは・・・!」


稿哉はそれにビクッと肩を震わせながら、咄嗟に辺りを見回す。しかし、周囲には明かりも無ければ人の気配すらない。ただ夜逃げ同然の備品たちが静かに佇んでいるだけだった。


(ま、まさか本当に・・・出たのか?)


はっきりと聞こえない、やや篭った感じの声だったが確かに稿哉には聞こえていた。音の具合からさっするに、どうやら1階ではなく上のほうからだろう。


稿哉は冷や汗を背中に流しながら、俊が電話で話した謎の人影について思い出す。もしかしたら人がここに住んでいるのかもしれないし、もしくは―――


本当にそういう霊的な類のモノがいるのかもしれない。


「じょ、冗談じゃねぇ・・・!」


そこまで考えて、稿哉はそれ以上考えることをやめた。そして一刻もはやく帰って、俊の野郎にドヤ顔で写真を見せつけてやろう、という事を考えながら、稿哉は裏口へ向かうべく部屋から出ようとした。


だが、その時―――


「ぐあっ!?」


突然、グラリと大きな揺れが建物全体を襲った。そして間髪いれず、今度は床や机などが地鳴り音と共にガタガタと揺れ始める。


「な、なんだ!?」


稿哉は一瞬ポカンとしていたが、近くにあった花瓶が粉々に割れた音を聞いて、すぐに我に返った。


(・・・・地震!?)


稿哉の頬に、嫌な汗が伝う。まさかそんな、と思ったが、この建物が揺れるなんて地震か地滑りぐらいしか思いつかない。兎にも角にも非常に危険な状態である事には変わりない。


こんな、入る前から脆そうな外見をしていた建物が、地震を受ければどうなるのかは簡単に予想がつく。当然、すぐに倒壊するはずだ。


「クソッ!!」


そう考えたとき、既に彼は出口に向かって走り出していた。しかし、揺れや足場の悪さが邪魔して上手く走れない。その間にも、壁や天井から破片やカスなどがパラパラと落ちてきていた。


だが、このまま出口へ向かえば、天井に潰されてしまうかもしれない。


(そうだ、机の下に・・・!)


稿哉は、やっとここで地震の時の対応策を思い出す。地震が起きたら机の下へ避難するという知識はあるものの、焦っていたので思い出せなかった。


(あそこに隠れよう!)


稿哉は激しく揺らぐ室内の中、近くの頑丈なオフィス机を目指すことにした。あそこならば、天井が落ちてきても大丈夫なはずだ。仮に崩れて閉じ込められたとしても、携帯を使えばすぐに助けを呼べる。


「ッ!」


稿哉は転びそうになるも、何とかバランスを取って机へと向かう。そして机まで辿り着くと、一気に机の下へと転がり込んだ。その瞬間、轟音と共に今まで稿哉がいた場所へと天井の一部が落下してきた。


落ちてきた2Lのペットボトル程の大きさの石塊を見て、ゴクリと稿哉は生唾をのみこむ。あと一歩でもおそければ、あれが頭に当たり致命傷を負っていたかもしれない。


「あ、危ねぇ・・・!」


死んでいたかもしれない恐怖に戦慄しながら、稿哉は机の脚をしっかりと持ちながら揺れに耐える。こんな地震の揺れなど初めてだった。


(この具合だと明日ニュースになるかもな・・・)


そんな他愛もない事を考えつつ、稿哉はしばらく机の下で揺れが収まるのを待つことにした。

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