第2話:銃は魔術よりも強し
「ッ!?」
その亀裂を見た瞬間、少女は即座にバックステップでそこから離れる。その途端、地面の亀裂から何かが飛び出した。地面から唐突に現れた物、それはゴツゴツした石の塊だった。
「さすがは執行者・・・おおよそ元人間とは思えない敏捷さだ」
そんな言葉が、前方から少女へと浴びせられる。少女が声がした方を見ると、そこに余裕の表情で男が立っていた。
「・・・今のをアンタが?」
「私以外に誰がいると?」
ニタリと、男は口端を歪める。
「ホントに―――こいつはとんでもない愚か者ね」
少女はそう吐き捨てると、再びホルスターから銃を抜き取り銃口を男へと向ける。そして、間髪置かずに迷わず発砲した。しかし、それよりも早く路傍の石が飛び上がり、その弾丸の軌道をあらぬ方向へと捻じ曲げた。
「そんな玩具で魔術を相手に勝てるとでも?」
「魔術って・・・やっぱり魔術師の生き残りだったのね・・・」
少女はそう納得したような顔をすると、
「それじゃあ執行許可証に従い、任務を遂行するわ」
そう少女はため息交じりに言うと、キッと冷徹な眼差しで男を睨みつけた。
そんな少女の言葉に、男は動揺したが、
「や・・・・やれるものなら、やってみろ!」
そう声を張り上げると、バッと右腕を振りかざす。
途端、その動作に呼応するかのように、大量の亀裂が、少女の足元へと殺到した。
「くっ!」
少女は間をおかず、恐ろしい速度で生えてきた鋭い石塊を咄嗟に避ける。しかし回避したのもつかの間、少女の足取りをなぞるようにいくつも亀裂が現れる。
「ほらほら、少しでも当たれば串刺しになるぞ?」
そう挑発する中年男。確かに彼の言うとおり、少しでも当たればそれだけで動きが止まり、次の一手で決定的な致命傷を負うことになるだろう。
「全く・・・キリがないわね!」
少女は苦い表情を浮かべつつも、それらをギリギリの所で躱していく。それはもはや、常人が成せる技ではなかった。結局、乱雑に出現した石塊は、一撃も獲物を掠ることなく、虚しく地面に突き立つばかりだ。
「避けるのだけは上手いみたいだな・・・!」
男は未だにニヤニヤしていたが、その表情の奥には明らかな"焦り"があった。対して少女は、再び不敵な笑みを浮かべると、
「あら、そういうアンタは外すのが得意みたいね?」
と、嘲りの言葉を掛ける。途端に 、男の表情が憤怒によって醜く歪んだ。
「こんの・・・小娘風情がぁぁぁッ!」
怒りのままに叫ぶと、男は自分の正面で腕を真横に振った。
すると男の正面に、いくつか石の塊が出現した。
手の平サイズではあるが、先程の棘と違い、それらは地面ではなく空中に浮かぶ。まるで何か見えない物が石塊を持ち上げているかのような光景である。
「死ねぇッ、政府の飼い犬がッ!!」
そんな男の罵声と共に、浮遊していた石の塊は、凄まじい速度で少女へと飛来する。だが、少女はそれよりも先に行動を開始していた。
少女は空いている左手を腰に回すと、何かを取り出した。少女が手にしたのは、銀色の大型拳銃だ。
「無駄よ」
少女は両方の拳銃を構えると、同時に引き金を引いた。刹那、爆音と共に二丁の拳銃達が一斉に火を噴き始めた。その二丁から生み出される弾丸は、真っ直ぐな弾道を描き、飛来する石の塊を正確に、難無く粉砕していく。
「馬鹿なッ!」
男は驚愕の表情を浮かべると、一歩後退りする。
「銃弾はもうないはず・・・・一体どこから・・・!?」
石を正確に打ち抜く腕前だけでも恐ろしいが、何より少女は装填する動作すら見せないまま、銀色の拳銃から弾丸を放ち続ける。
「それにあの小娘・・・・二丁の拳銃に・・・銀の大きな銃―――ッ!?」
何故か少女の容姿に動揺した彼は、焦りに火が付いたらしい。今までよりも、更に多くの石塊を出現させた。
「いや・・・そんなはずはない・・・!」
男はそう叫ぶと、その石塊を少女目がけて飛ばしていった。
「じれったいわね!」
少女はそう吐き捨てると、拳銃を構えたまま走り出した。飛来する石塊を避けながら、両手の拳銃で他の石塊を粉砕する。そんな動作の繰り返しによって、石塊は徐々に減っていった。