第00-04話 部活にて[03]
翌日私はこの前同様にIrisの部室を訪れた。
「こんにちは……」
「あれれ? お客さん?
どうぞ入って」
扉から顔を覗かせると、一人の少年がニコリとこちらに微笑んで近づいてきた。
ぱっちりとしていて黒目の大きな瞳。
綺麗な瞳を縁取るようにある長い睫毛。
あまり日に当たっていないのか乳白色で透き通るような白い肌。
耳元から首筋の方へカールしている後ろ髪。
ほっそりと長い指先。
まるでお伽噺に出てくるお姫様や古美術品として博物館とかで保管されている陶器で出来た人形のような見た目をした少年がいた。
『すごく可愛い……アンティークドールみたい……』
私はあまりの可愛さに見とれてしまう。
少年はキャッキャッと笑い声を出すのではないかと思うくらいぴょんぴょんと跳ねるように部室の奥へ進んでいった。
「さ、どうぞ座って☆
カブ、お茶出して!」
「自分で作りなよ
てか、うちにお茶ないし」
きっちり真ん中分けにされた前髪。
癖が少なくまっすぐに整えられた髪。
細く少しタレ目に近い瞳を隠すようにかけられた黄緑色の眼鏡。
細くキリッした眉毛。
男らしいとも女性らしいともとれる、保住さんとはまた違った綺麗さの顔立ち。
"かぶ"と呼ばれた少年は可愛らしい少年の言葉にツッコミを入れた。
「じゃあコーヒー」
「種類の問題じゃないから」
「もぉ~! 役立たずだなぁ~」
「この件に関しては俺でなくひなを罵れよ」
可愛らしい少年に対して呆れた声を出しながらも彼は我妻家くんのことを引き合いに出した。
##
「んぁっびしゅっ!!にゅぁ~……風邪かぁ?」
##
「で、おねぇさんは何しに来たのかな?
俺のファンって訳じゃないでしょ?俺のファンにこんなダサい子いないもん☆」
「だ……ダサい……?!」
ダサいって………確かにお洒落をしてるわけではないが、突然そんなことを言われると傷つくと言うものだ。
私は突然のことに笑顔を引きつらせる。
「こら!この前MINEでカイが言ってた子だろ?
からかうな」
「ちぇ~」
「ごめんね~コイツすぐ人をからかうから……
俺の名前は 曽我部雅人。」
「俺は 篠宮悠希って言うんだ☆
よろしくねぇ☆」
「よ……宜しくお願いします」
なんだ冗談か……と思いながら私は彼らに挨拶をする。
というか凄く話が行き渡ってるみたいだ……。
MINEの力恐るべし。
「それで、ただ自己紹介しに来た訳じゃないでしょ?
聞きたいことがあるなら聞いていいよ
どうせ暇だから」
ニコリと微笑みながら毒を吐く篠宮くんにたじろぎながら私は話を聞くことにした。
「え……えっと……じゃあ……
どうしてここの部活の名前はIrisって言うんでしょうか……?
他の部活にはあまり花の名前が使われている所がないので」
「それはねぇ~………………何でだっけ?」
ガクッ
思わず私は椅子からずり落ちそうになってしまった。
「前に聞いたんだけど忘れちゃった~♪」
「覚えてないんですか?!」
「だってあんま興味ないもん。ねぇ?」
「否定はしない」
「でしょ?」
「でも、たしかあれって花言葉が由来じゃなかったっけ?」
「花言葉……ですか?」
「そ! 何だっけ……"希望"とか"情熱"?」
「たぶんそんなのじゃなかったっけ?
忘れたけど」
「昔に一回聞いただけだからね」
「そうなんですか」
凄く曖昧な答え方をする二人に私は思わず苦笑いをした。
でもまぁ、普通なら名前の由来なんて気にしないのかもしれない。
「でも、花言葉が由来で名前がつくってなんだかロマンチックですね」
「まぁ自分で映画を作ろうって思ってこの部を建てたんだからロマンチスト以外何でもないと思うよ?」
私の言葉に曽我部さんはどこか他人事のような顔をして答える。
「皆さんもですか?」
「俺らは……どうだろう?
入部希望なんて三者三葉だからね
まぁ俺は単純に楽しそうだと思って入ったよ」
「俺は保住さんに着いてきただけ~」
「そういやそう言うこと言ってたね」
「保住さんと知り合いなんですね」
「知り合いって言うかぁ~腐れ縁?
小さい頃から一緒にいるよ」
「小さい頃からなんて仲が良いんですね」
「まぁここまで来たら仲良いもナニもないけどねぇ~」
二人の話を聞いて本当に千差万別なんだなぁと私は思った。
私は映画を作りたくてここに来たが、二人は違う理由だからだ。
きっと他の人達にも聞くと別の答えが返ってくるんだろうなと思う。
いつか機会があったら他の人達にも聞いてみようかな。
「てか、何処まで話したっけ?」
「何処だっけ?
ナニについて話してたかも忘れた☆」
「そこは忘れないでよ!!」
「えっと……どうしてここはIrisって名前なのかなって話をしてました」
「そーそー!!そんな感じのヤツ♪」
「そんな感じじゃなくてそうなの!!
もぉ、ホントに人の話聞いてないんだからぁ」
「てへぺろ☆」
「そんなことしても悠希可愛くないから」
「えぇ~?!こんなに可愛いのに?!?!」
「自分で言わないの!!
まったくもぉ……」
「あ、そう言えば……」
「ナニナニ?スリーサイズの話?」
また変なところに話が流れそうになっている……
「なんでそんなことになるのさぁ
違うでしょぉ?」
曽我部さんに嗜められて、篠宮くんはつまらなそうに"ちぇー……"と呟いた。
空気を切り替える為にも私は質問をすることにした。
「えっと、合宿があるって聞いたんですけど、どんなことするのかなぁって思って……」
「あぁその事ね
まぁ大体は撮影をしたり、後は好きなように過ごしたりな感じかな」
「去年の写真あったっけ?」
「あ、俺のケータイにあるよ~
ほら、ひな枕」
そう言うと篠宮くんは携帯に保存してある写真を見せてくれた。
寝そべりながら眉間にシワが寄りながらも呆れた顔をして見返っている我妻家くんとそんな彼を枕代わりにしながら自撮りしている篠宮くんの写真だ。
「凄く我妻家くん複雑そうな顔してますね……」
写真を見て私の顔は思わず引きつる。
なんというか…………うん。
「意外と寝心地良いよね~
夏場は嫌だけど」
「体温が熱いもんね~」
「というか枕として扱うのは可哀想では……?」
「大丈夫、大丈夫、ひなだから」
「大丈夫なんですかそれ……」
どうやら我妻家くんはなんというか……弄られやすい(?)体質なんだろうなぁと思った。
「他には~……これ!!
少しケータイの動画でとったやつ
みんなで雪遊びしたときの♪」
そう言うと今度は篠宮くんは動画を見せてくれた。
みんな楽しそうな笑い声をあげながら雪玉を投げ合っている。
「懐かしいね
いっちーがかなり硬めの雪玉を作って地面に叩きつけてたね」
「あと雪だるま作ってるひなに雪降らせたよね」
「やったやった!!
そのあとひなが怒って雪玉を投げようとしたけどノーコンだから全部外れてたよね~」
「なんか我妻家くん可哀想過ぎではないですか?!」
「そーでもないよ
いつものことだし、ひなも何だかんだで楽しんでるし」
「そ……そうなんですか……?」
「そーそー」
なんだかここまで来ると可哀想に思えてきてしまうのは私だけなのだろうか……。
「あ!!これPたちがソリ遊びしてるやつだ!!
そーいや撮ってたんだった」
「去年の時にスキーで痛い思いしたから今年はソリにする!!ってそう言えば騒いでたね」
「結構楽しそうだったよ
俺はやんないけど」
「まぁこの年でソリ遊びなんてね」
「まぁ心がまだまだ子供だからね
ひなとPは」
「でも本当に楽しそうですね」
写真や動画に写るその姿はまるで幼稚園くらいの子供たちのように楽しげであった。
なんだか思わずその楽しげな空気に私も一緒に混ざりたくなってしまう。
「まぁね
ご飯美味しいし、夜中までドンチャン騒ぎするから楽しいよ」
「騒ぎすぎてお酒飲んでないのに場酔い状態になってたりしたよね」
「それな~」
「まぁその分すっごい楽しんだけどね~」
「今年はいつだっけ?」
「さぁ?まだきまってなかったんじゃなかったっけ?」
「でもま早く行きたいよね~」
話や写真を見ているだけで本当にみんな楽しんでいるのがわかる。
会話をしているだけでこんなにも楽しいのだからきっと一緒に過ごすだけでも楽しいはずだ。
私は彼らとの楽しい未来を心に思い描いた。
「あー!!!やっぱりここに居たわね?!」
のんびりと続く楽しい時間を引き裂くように甲高い女性の声が響いた。
「今日は補習があるからちゃんと来なさいっていったでしょ?!」
「げっ見つかった……」
「数学の補習~?かぶやっちゃったねぇ~」
「ナニ言ってんのよ
アンタも補習でしょうが!!」
「ちぇ~……せっかくはぐらかそうと思ったのに……」
「はぐらかせるワケないでしょ?!
まったく……
あら?あなた見ない顔ね」
「えっあっに……2年C組の鳥居杏子です」
急に声をかけられ私は思わずオロオロしながら答えた。
「あぁ転校生の子ね
私は教師兼ここの副顧問をやってる桜川美緒よ
ミオちゃんって呼んでね♪」
「は……はぁ………」
桜川先生のウィンクにどう答えるべきかと考えるあまり曖昧な返事をした。
そんな微妙な空気を変えるように篠宮くんが口を開く。
「誰もその呼び方で呼ばないけどね~」
「あら、ギキョクはミオちゃん先生って呼んでくれてるわよ?」
「それはアレだからでしょうよ」
「ギキョク………
あぁ!! 我妻家くんのことですね」
一瞬誰の事だかわからなかったが、シェークスピアと言えば戯曲と言うことが頭に浮かんで理解できた。
「そ!! あのおバカ代表のね」
「おバカかは私にはわからないですが……」
桜川先生の発言に私は苦笑いをした。
「というか、アンタたちさっさと行くわよ!!
私そんなに暇じゃ無いんだから」
「「へーい……」」
先生に連れられるまま二人は気だるそうに入り口へ向かって歩いていく。
私はそんな姿をただ茫然と見つめることしかできなかった。
「あなたも今日は帰りなさい
本来非番の日だからこれ以上誰かを待っても来ないわよ
用事があるなら明日の部活の時にでも聞いてもらった方が早いわ」
入り口で先生は振り返ると私にそう告げた。
「えっあ、はい」
「鍵そのまま開けっぱなしで大丈夫だから」
「あっ、わかりました」
「そんじゃね~」
「あっコラ!!ユーキ!!
別のところに行こうとしない!!」
「ちぇ~……」
三人の足音が遠ざかり私は部屋に一人になる。
………明日か……。
明日で調度沢野さんが言っていた三日目だ……。
私は一度部室の中を見回した。
さっきまでの楽しいかった感覚が私の中にまだ残ってる。
私は考えを纏めるようにゆっくりと呼吸をしてから部室を出た。