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Iris GARDEN  作者: 和島純平
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第00-02話 部室にて[01]



『どうしよう……どうやって入ろう……

"貴方達の作品に感動しました! どうか私も一緒に作品を作らせて下さい! "

……ってなんか在り来たりかな…?』



私は今、とある部室の前に居る。

先日見た映画に感銘を受けて入部の為にやって来た。

しかし、なんと言って入部させてもらおうか迷って立ち往生していた。


『ううん! こんなところで迷ってる暇はないわ!

しっかり、私!

こんなのは時の運よ!

なんとかなる! 大丈夫なんだから!』


私は気合いを入るため、頬を軽く叩いて扉を開いた。


「こんにちはぁ……」

「やぁ、いらっしゃい!入部希望者かな?」


チラリと顔を覗かせると、部屋の真ん中に置かれたソファーに座っていた少年がニコリとこちらを見て微笑んだ。


『あ……この前の人だ……!!』


柔和な微笑みを見て私は先日廊下でぶつかってしまった彼であることに気付いた。


「あれ?キミ、あの時の子だね

この前はゴメンね……俺、急いでて前を見てなかったんだ」


優しく女神のように慈愛にみちた顔で微笑む彼の美しい顔に胸がきゅっとなってしまう。


「い……いぇ……私の方こそ前を見てなくて……」


あまりの美しさに私は思わずぼーっとしてしまう。


「あれ?どうかしたかい?」

「あっ! ひゃいっ!」


『あ~~~……

どうしようやってしまった……

緊張のあまり噛んでしまった……』


恥ずかしさで顔がどんどんと赤くなっていくのが自分でもわかった。

思わず私は顔を下に向けた。


「ふふっ、可愛らしい……♪

話を聞きに来たんでしょ?

緊張しなくていいよ、俺は部長じゃないから

カイ! サワノ カイリ部長!」


悪戯っぽく彼は微笑むとくるりと部屋の奥の方に体を向けて声をかける。

私は肩越しにチラリと部室の中を見つめた。


真ん中に置かれたソファーの奥にある長椅子と長机の所に二人の少年がいた。


『あ……奥にいる人たちもカッコいい……』


一人は腕を組んで後ろの棚に寄りかかりながら昼寝をしており、もう一人はパソコンと向き合ってナニかをひたすら進めていた。

どちらも顔立ちがしっかりしていて、髪を結っている彼が歌舞伎の女形と例えるなら、二人は男らしくも雑誌の読者モデルのような綺麗な顔立ちをしているとも取れる。


「さっ、入って」

「お……お邪魔します……」


私は髪を結っている彼に促されるように奥の机の方へ向かった。


「……カイ起きろ。客人だ」

「んぁ……?

あ~……すまないな、俺が部長の 沢野芥璃(さわのかいり)

ようこそ、映画同好会サークル "Iris" へ

今日は……」

「はっはいっ! 入部希望です!」


私は緊張のあまり沢野さんの言葉を遮って返事を返してしまう。

心の中に"やっちゃった……"という後悔の思いが広がっていくのを感じた。


「了解。元気がいいなキミ」


恥ずかしさで少し俯く私を見て沢野さんは楽しそうに笑った。

明るく優しい声がとても心地良い。


「あっと……入部書に記入する前に、幾つかの注意事項を言っておく」

「はい !」

「いいよ、畏まんな

別に難しい話はしねぇさ」


沢野さんはそう言うと、先程とは打って変わった真剣な面持ちになり、一枚のプリントを取り出して説明を始めた。


「まず一つ目、ウチは他の部との掛け持ちはナシだ

他の部と忙しい時期がけっこう重なるからな

こっちとしては映画の製作に集中してほしい」

「は……はい」

「二つ目、毎年冬と夏に慰安旅行と撮影を兼ねて合宿を行う

これは別に強制じゃないが、来たい場合は旅費の何割かは自費になる」

「はい」

「三つ目、毎月部費として1500円を回収する」

「え……?」

「学校からも出てるんだが、何分部員が少なくてあんまり出してもらえてないんだ

まぁさっき言った合宿の前金だと思ってくれて良い」

「は……はぁ……?」

「四つ目、ウチは毎年夏か冬の映画のコンクールのどちらかに出場している

どっちをやるかはその時次第だが……なんにせよ、作品は出す

だから、基本は映像に出ることを意識していてくれ」

「は……はい」

「五つ目、最終的にはどれもやることになるんだが……機材班と裏方班と演劇班の何処に所属するか決めてくれ

以上がウチの注意事項だ

質問はあるか?」

「あ……えっと……ちょっと……」


一通り全ての話を聞き終え、私は少し混乱をした。

プリントを見ながら聞いてはいたが、やはりいっきに言われるとわからなくなってくる。

困惑している私を見て髪を結っている彼が声を掛けてくれた。


「たくさん言われて、何を聞きたいかさえも難しいよね?

ねぇカイ、少し考える時間をあげても良いんじゃないかな?」

「まぁそうだな

今日はメンバーが全員来てるわけじゃねぇし……

うん。入部するかしないかは三日後の部活がある日までに決めてもらえればかまわない」


髪を結っている彼に言われ、沢野さんは快く数日考える期間をくれる事を承諾した。


「それで良いかい?」

「は……はい! 有り難うございます!」


私は幾分か髪を結っている彼の助け船で救われた気がした。

彼はそう言う気配りみたいなものが得意なのかも知れない。


「君は本当に良い子だね

あ、そうだった自己紹介がまだだったね」


私の返事を聞き、髪を結っている彼は優しく微笑むと自己紹介をした。


「俺の名前は 保住慧琉(ほずみえる) だよ

それであそこでパソコンをしているのが……」

渡草斎(とくさいつき) だ」

「君は?」


保住さんに聞かれ、私は慌てて自己紹介を始めた。


「はっ……はいっ!えっと……鳥居杏子(とりいきょうこ) って言います

二年生です

この春、両親の仕事の関係でこの学校へ転校してきました

よ……宜しくお願いします……!」


慌てながら私がお辞儀をすると保住さんはまた優しく微笑みを見せた。

気を使える上に優しくて礼儀正しいなんて……私は神様を相手に話をしてるのではないかなんて思ってしまう。


「ご丁寧に有り難う

二年生ってことは俺と同じだ

こちらこそ、仲良くしてね」

「は…はい! あ……そちらの御二人も……?」

「カイといっちーは俺らの一年上だよ」

「えっ!?でも……」


私は少し困惑した。

先輩だと言う割に、保住さんは沢野さんや渡草さんと砕けた話し方をしていたからだ。

私が困っているのを見かねたのか先程までパソコンと見つめあっていた渡草さんが口を開いた。


「俺らは中学の頃からの仲なんだ

この学校、中学・高校・大学が併設されてんだよ

大学は違うんだが、中学・高校は部活動を一緒にやるんだ

中学は任意でなんだがな」

「そうなんですか」


だから仲が良かったのか。

私は少し納得した。

もう既に何年間も一緒にいれば、そりゃ砕けた話し方をするだろう。


「他のやつらも同じように中学からの入部だ

まぁだからと言って変に先輩面するやつらじゃねぇから気楽に接してくれ

部活のことを知るにはやっぱそれぞれから話を聞くのもアリだからな」

「な……なるほど」


沢野さんからの提案を聞き、曖昧に相槌を私はうった。

他の部員に会おうにも誰が部員なのかもわからないし、声を自分から掛けられるかも不安だったからだ。



キーーーン、コーーーン、カーーーン、コーーーン………



私たちの会話の終了を告げるようにお昼を知らせる鐘が学校じゅうに広がった。


「っと、昼休みのチャイムか……

俺らは昼飯食いに行くけど、どうする?」


沢野さんは壁に掛けてある時計をチラリと見て私に声を掛けてくれた。


「あ……今日はおいとまさせて頂きます」


折角だがあまり長居しては申し訳ない気がした私は家に帰ることにした。


「おう」

「気をつけて帰ってね」

「はい、有り難う御座います」


私は三人にお礼を言ってから部室を出ようとする。

そんな時、保住さんから声を掛けられた。


「あっ! 明日も暇してたら来なよ

もしかしたら別のみんなが来てるかもしれないから」


きっと先程の沢野さんが言った"部活の事を知るには他の部員からも聞いた方が良い"という話を覚えていたのだろう。

保住さんは明日も来ることを提案してくれた。


「はい、そうさせて頂きます」


私は保住さんの提案に返事をし、三人に別れを告げ家路についた。

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