第八撃 ありがとう
結局、みら達の不満は出ていたものの、俺の提案は条件付きで上司さんに承諾された。
条件は2つ。制限時間はあの子と接触してから十分間、それ以上はあの子の力に俺の体・・・幽体というらしいが、それが耐えられなくなるから。
また、俺自身に危険が及びそうだと上司さんが判断した場合は早急に対処する。
あの子を成仏させること以上に俺を守ることが重要だから。と上司さんは説明してくれた。
とりあえず公園の中をゆっくりとあの子を探しながら歩く。
みら達は上司さんを含む4人で離れたところから俺を監視している。
そうやって、少し歩いて公園の中心に差し掛かった辺りで・・・・・・見つけた。
蛍光灯が切れかけているのか点滅している外灯の下。ぱちに当てられた霊離針のせいだろうか、右手を押さえて蹲っていた。
脅かさないようにゆっくりと近づく。
『!?』
俺の気配を感じたのか一瞬ビクッとしてこっちを見てくる。そして近づいたのが俺とわかると少しホッとした表情を見せてくれた。
『や、やあ・・・・・・』
軽く手を上げながらゆっくりと近づく
『なんで・・・いるの・・・・・・?』
女の子はそう言った。この子の声、初めて聞いたような気がする。
それにしても何でとはどういう意味だろう?
『なんでって、どういうこと?』
率直に疑問をぶつける。
『さっき・・・こわいひとがきた・・・あのひと・・・このまえ・・・ほかのひとといっしょに・・・わたしのおともだち・・・・・・みんなつれてちゃった・・・・・・』
あー・・・やっぱりそういう認識か。もっとも、あのデコっぱちが怖い人というのは少々引っかかるが。
なんにせよ。この子にとって、たくさんの浮遊霊は寂しさを紛らわせてくれる友達。
ただ友達はたくさんいても一番会いたいのは家族だったので成仏には至らなかったということだろう。
『おにいちゃん・・・おともだちになってくれない? また、あそんでくれない・・・・・・?』
女の子が純粋な目で俺のことを見上げてくる。
『わたし・・・わかるよ? おにいちゃんも・・・ひとりぼっち・・・さびしい・・・・・・でしょ?』
『・・・・・・』
俺がこの子に引きずられているという影響か、この子には俺の心の中がわかっているようだった。
『いっしょにいれば・・・さびしく・・・ない・・・よ・・・・・・?』
そう言って俺のことをじっと見つめてくる女の子。そこに邪念のようなものは感じられない。
この子は本当に友達が欲しい。それだけなんだ。
そういう趣味は無いがつい『うん』と言ってしまいそうになった。
でも俺はこの子に告げなくてはいけない。
『ゴメン・・・お兄ちゃん、お友達にはなれないんだ』
『・・・・・・!』
俺の言葉に女の子はビクリと体を震わせた。脅かさないように俺は言葉を続ける。
『ねえ、君のお父さんとお母さん、どこにいるか知ってる?』
お父さんとお母さん、その言葉に女の子はまたビクッ体を震わせた。それから少しして目を潤ませながらゆっくりと首を横に振る。
俺は女のこの顔の前で人差し指を上に向けた。
『お父さんとお母さんはお空の上にいるんだって』
『おそらの・・・うえ・・・・・・?』
ゴメンね、よくわからないよね。でもそうとしか言えないんだ。
正直、空の上にお父さんとお母さんがいるのかどうか。それはわからない。
ただこの子がこの世に留まり続ける事は、悪霊と呼ばれたことも含め、この子自身にも何の得にならないのは確かだ。
だからこのまま押し通す。
『君はその気になればお空の上に行けるんだって、でもお兄ちゃんは行くことが出来ないんだ・・・・・・』
女の子にゆっくりと語りかける・・・・・・時間は今、5分経ったぐらいか?
『お父さんとお母さんに会いたい?』
女の子はゆっくりと頷く
『・・・おそらのうえ・・・どうやって・・・いくの・・・・・・?』
女の子はよくわからないと言う表情で首をかしげる。
『さっき、君が怖いって言ってた人達はね? お父さんとお母さんに会わせてあげる為に、君をお空の上に連れて行ってあげようとしてたんだって』
まぁこの表現も間違ってはいないだろう。
『でも、あのひとたち・・・おともだちを・・・・・・』
やっぱりそこが引っかかるか。
『それは・・・お友達を先にお空の上に連れて行ってあげたからなんだ』
『・・・・・・』
何かまだ脅えているみたいだな・・・・・・一週間前にこの子の周りにいた浮遊霊だけは祓ったと言っていたが、どんな祓い方をしたのだろう?
御祓い方法に改善の余地アリと上司さんに伝えたほうがいいのかもしれない。
『お父さんとお母さんには会いたいんでしょ?』
コクンと女の子は頷く。
『でもね。お空の上に行かないとお父さんとお母さんはここにいないんだよ?』
『・・・・・・・・・』
女の子は答えない。
・・・まずいな、そろそろ十分経つ頃だ。
それでも女の子からの返事をゆっくりと待つ。
そして、ようやく出てきた言葉は・・・・・・
『・・・・・・いや』
・・・・・・え?
『おとうさんとおかあさんにはあいたい・・・でも、ひとりでおそらのうえにいくのはいや!』
女の子が今までと違ってはっきりと強い口調で俺にそう告げた!
そして女の子が両手で俺の手首を掴む!
『痛っ!?』
ちょっと待て! こんな小さい女の子が何て握力してんだよ!?
『おにいちゃん・・・いっしょにいこ! おそらのうえまでいっしょにいこ!! それでおとうさんとおかあさんと・・・おともだちといっしょにあそぼ!!!』
『だから・・・俺は行けな・・・・・・!』
『いくの!!』
『!?』
そう強く言いながら女の子は俺のことを強く睨んできた。だが強気の表情と違い女の子の目は焦点が定まっていない。
―――悪霊。
今更になってその意味が実感できた。
『さぁいこウ! おとうサんとおかあさんにあイニいコう!』
女の子の声が壊れた音声データみたいになっている。
今まで一人でいた寂しさと家族に会いたいという思いの強さがこの子を悪霊として狂わせてしまっていたんだ・・・・・・。
女の子は抑揚のない声で叫び続けている。
『イクヨ! オニイチャン! オニイチャントイッショニオソラノ・・・・・・』
・・・・・・スパン!
『・・・・・・え?』
切羽詰った状況に似合わないちょっと間抜けな打撃音。その音に驚いたのか女の子は掴んでいた俺の手首を離してしまう。
そして音がした方を見るとそこには予想通り、みらが経束扇を女の子の頭に叩きつけていた。
「だから言うたやん・・・一人で接触は危険やって・・・・・・」
少々呆れた口調でみらが俺に声をかける。
正直。返す言葉が無い。
『・・・うあ・・・う・・・・・・?』
そして女の子は叩かれたショックからかその場にへたり込み急に大人しくなっていた。
よく見れば表情も憑き物が落ちた・・・まぁこの子自身が憑き物みたいなものだが、とにかく穏やかな表情をしている。
「・・・・・・目ぇ覚めたか?」
みらが落ちついた表情で女の子に声をかける
「あんまり駄々こねてお兄ちゃん困らせたらアカンで?」
そう言いながらみらはしゃがんで目線を女の子に合わせ、優しい声で語りかける。
「なぁ、自分・・・もう・・・わかっとるんやろ?」
『・・・・・・』
女の子は答えない。
「このままやったら自分、いつまでたってもお父さんにもお母さんにも会えへんねん・・・・・・」
みらはやさしく諭すように言葉を続ける。
「このお兄ちゃんが言うたやろ? お父さんとお母さんは今お空の上。ほんで、うちらはお嬢ちゃんがお空の上にいけるよう手伝いをするだけや・・・・・・」
そういうとみらは経束扇を女の子に見せた。
「これでポーンとお嬢ちゃんのお尻叩いたら勢いでお空の上まであっという間や! 大丈夫やで? なんも痛い事はあらへんから!」
まぁハリセンだから音は大きいが痛い事は無いだろう。
でも流石にその説明はどうよ?
『・・・やっぱり・・・こわい・・・・・・』
女の子はおどおどした口調でそう答える
・・・・・・・・・ダメ・・・か?
『だから・・・おそらのうえにいくまで・・・おにいちゃん、おみおくりしてくれる?』
女の子がやっと、それだけ答えてくれた。
みらに視線を向けると無言でうなずいてくれた。
『いいよ。じゃあ、立とうか』
女の子の手を取って立ち上がらせてあげる。
『・・・・・・ありがと』
手を離すとき、そう言って女の子はにっこりと笑ってくれた。
最初に会ってから始めて見た子供らしい笑顔だった。
「ほな、つかちゃん、ちょっと離れてくれる?」
みらの言葉に俺は2、3歩後ろに下がった。
女の子はじっと目をつぶってお尻を叩かれるのを待っている。
・・・・・・そうとしか言いようがない。
「はーい、リラックスしてなー」
そんな軽口を叩きつつ、みらは女の子の後ろに回った。
そして女の子の向かって右後ろに立つと経束扇を野球のバットスイングみたいにして構えた。
そしてそのまま・・・・・・
「・・・いってらっしゃい・・・・・・!」
スパァン!
大きな破裂音と共に経束扇を女の子のお尻に叩きつけた! 直後、女の子の体は光に包まれる!
『うわ!?』
女の子の姿はだんだん薄くなっていく。みらの言うことが事実なら、このままお空の上に行ける・・・成仏できるのだろう。
女の子の表情に恐怖は無い様に見えた。そして目を開くと俺のことをじっと見つめる。
『・・・・・・・・・』
俺の目をまっすぐ見て、もう一度にっこり笑って言葉を継げた。残念ながら何を言ったのかはわからない。
そして女の子はそのまま消えてしまった。
『・・・・・・・・・』
俺はさっきまで女の子がいた場所をじっと見ていた
「・・・・・・『ありがとう』やって」
『・・・・・・は?』
そんな俺にみらが声をかけてきた。
「あのちっちゃい子が、つかちゃんに言うたやろ? 聞こえへんかった?」
『・・・・・・いや、残念ながら』
「そっか・・・ま、しゃあないな」
でも言われてみれば口の形がそういっていたような気がする。
あの子は・・・安らかな気持ちで成仏できたのだろうか?
『俺、あの子の力になれたのかな・・・・・・』
つい、そんな思いが口から出てしまう。
結局、俺のやった事はただの自己満足ではなかったのか・・・・・・。
「いや、すごいッスよ!」
『おわ!?』
突然、ぱちが後ろから声をかけてきた。よく見ると天蓮華さんと上司さんもその後ろに続いている。
「八塚の言うとおりです・・・・・・」
天蓮華さんがその後を続ける。
「三倉はんがずっとあの子と向かい合ってくれたから、結城はんがあそこまで近づいても気づかれること無く成仏させることが出来たんです」
喜ぶ二人とは対照的に上司さんは厳しい表情をしていた。
どうかしたのだろうか?
「・・・・・・結城?」
上司さんが俺の言葉を遮って厳しい表情でみらに目を向けていた。
「最初の一撃・・・なぜ力を緩めた?」
確かに・・・元々上司さんが最初に言っていた『作戦』の通りなら、十分経つか俺が危険になったときは隙を突いて一気に仕掛けるという手筈だったが・・・・・・?
みらは少し考えてからゆっくりと口を開く。
「・・・・・・考えてしもうたんです。あのままウチが最初の一撃であの子を成仏させてええんかなって」
みらの言葉に上司さんは無言で続きを促す。
「さっき、つかちゃんは『知らない人間がハリセン振り回して追いかけてきたら逃げて当たり前』って言ってました」
確かにさっきそういうことを言った。あれは皮肉を込めた発言だったのだが・・・・・・
「幾ら悪霊やと言われても、あの子は子供やった・・・寂しくて、家族を探してさ迷ってた子供・・・・・・その子供に不意打ちみたいなやりかたして成仏させても、それでホンマに救われるんかなって思ってもうたんです・・・・・・」
みらの言葉に誰も異を唱えない。
「あの子が狂い始めた時、なんか駄々こねてるようにしか見えへんかったんです。それやったら、まずは一発お仕置きして、それからゆっくり諭してあげた方がええんやないか、話せばわかってくれるんやないかって・・・そう思ったんです・・・・・・」
言われてみればあの子が豹変した時、程度は凄まじかったが駄々をこねているようにも見えたのは確かだ。
最も今、無事だからそういう風に思えるのだろうが・・・・・・。
「・・・・・・確かにお前の言う事はわかる」
みらの言葉を一通り聞いた上司さんはおもむろに口を開く。
「だが今回の件に関して言えば一番優先するべきなのは三倉君の安全。その判断を誤ったのも事実だ・・・それはわかるな?」
「・・・・・・はい」
「今回の件は成功したこともあり不問とするが、次に同じことをしたら始末書を提出してもらう・・・いいな?」
「・・・・・・はい」
上司さんの厳しい指導にみらは意気消沈してしまった。
組織の長としては当然の指導なのだろうが・・・正直、何かスッキリしなかった。
「さて、三倉君・・・今回のご協力、対魔師を代表して深く感謝する。この御礼はいずれ改めて、何らかの形でさせていただきたい」
そんな事を考えていたら、上司さんは俺のほうに向き直って姿勢を正し深く頭を下げてきた
『いや、俺は何も・・・・・・』
慌てて上司さんの褒め言葉を否定しようとするが、
「しているんだよ、君は。その事は胸を張っていい・・・まぁ一般の人に言えることではないけどな」
上司さんは笑いながら俺の言葉を遮った。
俺としてはすごいことをした実感というものが全く無いのだが・・・・・・
『・・・そういうものですか?』
「そういうものだ・・・・・・正直、このまま元に戻すのは惜しいな・・・・・・」
「え?」
「いや、何でもない・・・こちらの事だ」
最後の方が良く聞き取れなかった。何か惜しいとか聞こえてきたんだけど・・・・・・?
「さて、現状を説明すると君の魂を引っ張っていた悪・・・いや、女の子の霊は成仏した。経束扇の影響でもうしばらく幽体離脱は起きると思うが、今までのようにどこか知らない場所にいるということは無いと思う。幽体離脱が起きたときは自分の体に重なれば元に戻るので、面倒とは思うがしばらくはそのようにして欲しい。そのうち徐々に幽体離脱をしなくなってくるはずだ」
『えっと俺、記憶を消されるんですよね?』
以前、天蓮華さんに聞いたことを確認する。
「その通りだ。ただ今日の一件で審議するべきことが増えたので、当初の予定より時間がかかる。その間は我々や妖の事は内密に頼む。また何かあったときは結城に連絡してくれれば早急に対処させてもらう」
『・・・・・・わかりました』
正直、この数日の記憶を消されるのは少々寂しいと思ったが・・・それは俺のわがままなのだろうか?
「では結城・・・三倉君を送ってくれないか」
「はい!」
上司さんの言葉にみらが経束扇を持ってこっちに近づいてきた。
あー・・・やっぱり俺の締めもそれなのね。
「ほな・・・三倉はん、お体にお気をつけて・・・・・・」
「また一緒に遊びに行きたいっス!」
天蓮華さんとぱちがお別れの言葉をかけてくれた。
無言で軽く右手を上げてそれに応える。
・・・・・・数日後には、この夜のことは全部忘れてしまうのか・・・・・・
そんな事を考えていたので、みらが俺の正面に立ち、経束扇を思いっきり振りかぶっていることに気が付かなかった。
「ほな、つかちゃん・・・おやすみ!」
スパーン!
俺の顔面に思いっきり叩き付けた!
くそ! 人の感傷を邪魔しやがって!!
俺はホームランボールのように空の彼方へ飛んでいって・・・・・・
そのまま意識を失った。
* * *
「!?」
そして目が覚めた。
もちろん場所は俺の部屋。
時計を見ると時間は午前3時を指していた。
「夢・・・・・・?」
ここ数日俺が経験していたのは夢だった・・・・・・
そう言っても誰も反論しないだろう。
ゆっくりと左手を開いたり閉じたりしてみる。
まだ手を繋いだ感触が残っているような気がする。
今度は顔の中心・・・鼻の辺りを触ってみる。
先ほどハリセンで殴られた感触が残っているような気がした・・・・・・。
「やっぱ、ありえないわ」
そう呟くと俺は布団に入って寝なおすことにした。
寝入る瞬間、あの女の子の声で『ありがとう』と聞こえたような気がした。
* * *
そして、それから数日が過ぎ今日の入学式を無事に迎えられた。
まだ幽体離脱はチョコチョコ起きていたが、上司さんの指示通りにすることで特に問題は起きなかった。
あの日以来、みらからの連絡は一切無い。
現状がどうなっているのか、メールで聞いてみようとも思ったが内容が内容なので止めることにした。
まぁ、俺の処遇について時間がかかると言っていたし、まだきちんとした事は決まっていないのだろう・・・・・・
玉ヶ崎高等学校へ向かう途中そんな事を考えて・・・・・・
「あ、つかちゃん。おはよー」
「おわ!?」
当の本人・・・結城みらから、いきなり後ろから声をかけられた。
「なんやねん・・・豆が鳩鉄砲食らったような顔して」
「いや、鳩が豆鉄砲だろ? ソレ」
「わかっとるって・・・軽くボケただけやん」
着ているのは当たり前だが玉高の制服・・・紺を基調とした黄色のラインとスカーフのセーラー服、それでも全くこいつの調子は変わらないのである。
・・・・・・そして今日もあのハリセン・・・経束扇が入っているスポーツバックを持っていた。
校則とか問題ないのだろうか?
「お前、今日も経束扇持ってるのか?」
と、軽い感じで聞いてみた。
「もちろんやん! 何があるかわからへんからな!」
・・・・・・ここまで来るとそのポリシーには感心してしまう。
「あら? 結城はん、そちらの方は・・・もしかして三倉はん?」
そんな話をしていたら、さらに聞き覚えのある声がした。
思わずそっちの方を見ると・・・・・・
「て、天蓮華さん!?」
玉高の制服を着た天蓮華さんが立っていた。
「三倉はん、どうされたんですか・・・・・・?」
俺の様子を見て不思議がる天蓮華さん。
「いや、後、ごめんちょっと驚いただけ・・・・・・」
正直、玉高の制服を着ている天蓮華さんのイメージが全く無かった。黒髪の少女にセーラー服だと前に再放送で見たドラマに出てくるヨーヨーを武器にしたセーラー服の女刑事を思い出す。
そのついでにもう一人思い出した。
「あ、そーいやぱちは?」
「もちろん学校行っとるよ? 玉ヶ崎中学校2年やから・・・今日始業式やったかな?」
あー、あいつは中学生だったか・・・まぁセンパイって言ってたしなぁ・・・・・・。
でも中学生を深夜まで働かせていいのだろうか?
「あ、三倉はん。ちょっとええですか?」
「え?」
いきなり俺の耳に口を寄せる天蓮華さん
思わずドキドキとしてしまう。
天蓮華さんは俺に耳打ちしてくる。
「三倉はんの処遇についてはもう少しかかると上司からの伝言です・・・」
「処遇って記憶消すとかその辺の事!?」
思わず小声で聞き返してしまう。
「はい、この前の悪霊の件も含めて再審議となったそうです。悪いようにはならへんと思いますけど・・・・・・」
いや、これ以上悪くなったら流石に控訴させていただくぞ俺は・・・・・・
「せやからそれまで、対魔師や妖の事はくれぐれも口外されないよう、お願いいたします・・・もし口外されたときは・・・・・・!!」
小声でそれだけ言うと天蓮華さんはゆっくり離れていった。
その口調は真剣そのもの・・・・・・。
別の意味でドキドキしてしまった。
「あー何か怪しい雰囲気やなー」
そんな俺たちを見て茶々を入れるみら。
いや、たった今かなりキツイ警告を受けたばっかりなんですけど・・・・・・。
「さ、はよ行かんと入学式に遅れますえ?」
天蓮華さんは天蓮華さんで何事も無かったように歩いていく。
「ちょ、天蓮華!」
俺とみらも急いでその後を追う。
春。心機一転にふさわしい季節。だが今までの場所へも未練はある。
しかし自分が動けば今までの繋がりを保つ事は出来る。いつかは帰る事も出来る。
俺の前にいるハリセン娘はそう言った。その通りだ。
ただ、俺がその考えに至らなかったのだ。
そんな事を考えながら携帯を取り出す。先日、機種交換した新しい携帯。流石に最新機種は無理だったが、型落ち品を安く購入したのだ。
新しい生活を始める区切りとして、古いメールデータは携帯内のフォルダーに一括して保管した。
あの子はお空の上で両親に会えたのだろうか? もう寂しくないだろうか。 時々そんな事を考えてしまう。
いつまでも寂しがっていたら、あの子に笑われるよな。そんな事を思いつつ空を見上げた。
「つかちゃん、何してんの!? 早よせんと遅れるで!!」
中々来ない俺に気づいたのかみらが大声で呼んできた。お前、ホント人の感傷ちょいちょい邪魔してくれるなぁ・・・・・・。
「・・・・・・わかってる。すぐ行くよ」
そう言って少々急ぎ足で校門へ向かいそのままハリセン娘を追い越した。
「・・・・・・ありがとな」
すれ違いざま聞こえないように礼を言う。
「ん? つかちゃん、何か言った?」
「さあ?」
不思議そうに尋ねてくる結城みらに背を向けたまま学校に向かう。
これからは色々と騒がしくなるのだろうな。
・・・・・・そんな予感がした。
こうして俺の新天地での高校生活は幕を開けたのだった。
了
今回でこのお話はとりあえず最終回となります。
読んで頂きましてありがとうございました。




