表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みらはりせん  作者: 勤太朗
5/8

第五撃 見える人たちとアイアンクロー

 みらが指定してきた神社・・・・・・ウチの近くにある神社、玉捧神社に行く。

 敷地の中に入ると少し大きめの古い境内があり、それを取り囲むようにたくさんの背の高い木が植えられていた。

住宅地の中にある神社にしては静か。

高い木が境内をぐるりと取り囲んでいるせいか、森の中にあるような錯覚すら覚える。

「アイツにしては似合わない待ち合わせ場所だな・・・・・・」

思わずそんな事を呟いてしまう。

そしてその俺を呼び出した張本人、結城みらは境内の賽銭箱の前に座っていた。

「おーい! こっちこっち!」

「あー! ゴメンな、つかちゃん! 急に呼び出してもて!」

 俺を見つけるなり、みらが俺に相変わらず陽気な口調で声をかけてきた。足元にはあいも変わらずあのスポーツバックが置かれている。

「いや・・・暇だったからいいけど、何でここに呼び出したんだ?」

「んー・・・別にどこでも良かったんやけど、ここが一番わかりやすいし、安全やし」

確かにこの辺りの地理がよくわかっていない俺にとっては唯一わかる集合場所ではあるが・・・

「安全?」

「ま、色々あんねん」

「?? よくわからないな・・・・・・?」

 どうも歯切れの悪いみらに疑問を持っていると・・・・・・

「結城はん・・・挨拶はその辺にして、早よ本題に入らんと・・・・・・」

「え?」

突然、後ろから声をかけられた。その声に思わず振り返ると・・・・・・

「こんにちは、三倉はん」

「天蓮華さん!?」 

 天蓮華さんが後ろに立っていた

「え、でも・・・なんで天蓮華さんが?」

 正直この人がここにいるのは意外だった。

「まぁ色々とありますが・・・・・・」

 と言いながら天蓮華さんがバッグの中をごそごそ漁る。

 ・・・・・・またハリセンか!? 

「とりあえず、コレでも飲みながらゆっくり話しましょ?」

 ペットボトルのお茶を3本取り出した。避ける準備をしていた俺はちょっと肩透かしを食らったのだった。


 * * *


天蓮華さんからもらったお茶を飲みながら、俺たちは3人とも神社の境内にある視線箱の前に座っていた。

相変わらず境内は静かで俺達以外には誰もいない。

住宅街にあるちょっと大きい神社の割にはここにお参りする人はいないのだろうか?

「いやー雨が降らんでよかったなぁ」

「ええ風も吹いてますし・・・すっかり春ですなぁ・・・・・・」

 みらと天蓮華さんがそんな会話を交わしていた。あまりにものんびりした空気、でもいい加減話を先に進めないといけない。

「なぁ・・・そろそろ何で俺を呼び出したか教えてくれないか?」

「と言ってもなぁ・・・何から話したらええんやろ?」

「最初から説明したらええんとちゃいます? 上には許可とっとるんやし」

 また変な事を言い出した二人。

 なんとなく昨日のスイーツバイキングより堅苦しい雰囲気がある。

「とりあえず、つかちゃんに聞きたいんやけど・・・・・・」

「おう」

 ようやく話が進む・・・そう思いながらペットボトルのお茶に口をつけ・・・・・・

「昨日・・・化け物に襲われる夢見たやろ?」

ブーーーーーーッッッ!!!

思わず、口に含んだお茶を噴出してしまった。

「ウェッホエホ! ゲホゲホゲホ・・・・・・!!!」

 おまけに少し器官に入ったらしい。思いっきりむせてしまった。噴出したお茶が2人にかからなかったのは幸いだったが。

「三倉はん? 大丈夫ですか?」

 天蓮華さんが気遣って背中をさすってくれた。ありがたい・・・それに引き換え、

「き、きったないな!!」

 きっかけとなった発言をした張本人は悪態をつくだけだった。こいつは・・・・・・!

「今のは結城はんも悪いわ。もうちょっと聞き方とタイミング考えへんと・・・・・・」

 天蓮華さんが俺の気持ちを代弁してくれる。全くその通りだ。

「ほな、他にどう聞けっちゅーねん・・・・・・っていうか、つかちゃん、だいじょーぶ?」

 一応気遣ってくれたのでひとまず不問としよう。咳き込みも収まってきたし、ここは流れに任せてみよう。

「わ、悪い・・・続けてくれるか?」

「はいな」

 こっちの気持ちを知ってか知らずか、みらはのんきな口調で話を続けた。

「えっと、つかちゃんは昨日化け物に教われる夢を見た。ここまではあっとるな?」

 みらの視線に無言でうなづいた。それを見てみらはさらに続ける。

「で、襲われそうになった瞬間、美少女2人に助けられたやろ?」

「助け・・・って、え??」

 顔はよく見えなかったので美少女かどうかはわからないが、確かにあの時、女の子2人に助けられた・・・・・・!!

「ほんで、最後はその助けられた相手にハリセンで空の彼方に飛ばされた・・・・・・違いますか?」

天蓮華さんがみらの言葉に続く。

「違いますかって・・・・・・」

今、2人が言った事は9割以上間違っていない。夜の街を歩き、化け物に襲われ、女の子2人に助けられ、最後はハリセンで夜の空に飛ばされた。

でも・・・・・・それは全部夢の話。それなのにみらと天蓮華さんが話した内容は殆どその夢と一致していた。

「・・・・・・なんで知ってるんだよ?」

 素直に疑問をぶつける。

「今言うたのは、つかちゃんの夢や無いねん。全部昨日の夜に起きた現実や」

 ・・・何言ってんだコイツは?

「ま、待て待て! 俺、昨日夜中に外には出てないぞ!? ずっと家で寝てたんだから!」

 昨日の夜は夕食をとったあと、しばらくゴロゴロして風呂に入って寝た。それは間違っていない。

夜中に一度目を覚ましたがその後もすぐ布団に入った!

「俺・・・知らないうちに寝ぼけて家から出てたか?」

 とりあえず、頭に浮かんだありえる状況を口にする

「まぁ、出てましたわ・・・魂だけが・・・・・・!」

天蓮華さんが少し声を潜め、でも強い口調でそう答えた。

「は?」

その答えはよくわからないものだった

魂だけが抜け出たって何を言っているのだろう? ・・・そう思って天蓮華さんを見るが・・・そこに嘘をついているような雰囲気は無い。天蓮華さんはさらに続ける。

「簡単に言えば三倉はんは幽体離脱してはったんです」

「幽体離脱・・・・・・?」

一気に話が胡散臭くなってしまった。とりあえず一通り話を聞こう。

「あ~幽体離脱って、寝てるときに魂が体から離れてしまうって言う、あれ?」

「その解釈で間違っていません」

「じゃあ、幽体離脱した俺は、そのままふらふら歩いているところをあの化け物に出くわして、そこを助けられたって事?」

「そうそう」

 いや、いくらなんでもそれは無いだろう。

「ちょっと待って!? 今の話がおかしくないか!?」

「・・・・・・何が?」

ホラ来た。みたいな顔してみらがお茶を一口飲んだ。その態度にかなりカチンときた。立ち上がり2人を睨むようにして一気にまくし立てる。

「仮に! 仮にだぞ!? 俺が幽体離脱したとしても、なんでお前ら、それがわかったんだよ!? 何? そういうのが見える人なワケ!?」

 頭に血が上っていた。ワケのわからないこと言う2人に対して、とりあえず怒鳴り散らしてしまった・・・・・・。

 しかし2人は冷静に言ったのだ

「それが・・・見えてまうんですなぁ・・・・・・」

「ウチ等、対魔師やから・・・・・・」

突然出てきた聞きなれない単語。

「た、たいま・・・何??」

 思わず間抜けな声で聞き返してしまう。

「対魔師・・・対決の対に魔法の魔、師匠の師って書くねん」

「この世の闇に潜む存在『あやかし』と対峙する特殊な力を持った存在のことです」

 この二人は何を言っているのだろう?

「え、何? 妖怪と戦う人ってこと?」

「厳密に言うとちょっと違うんですが・・・とりあえずはその認識で結構です」

 あ、それでいいのね。

「妖っていうんは、昔はようさんおって、人に悪さしたりしとったんやけど・・・人の文化とか知恵が成長するにつれ、段々と数を減らしていったんや・・・・・・」

「人は妖の存在を徐々に忘れていきましたが・・・・・・この世に確かに存在しているんです」

「へー・・・」

 としか言いようが無い。うまい返し方があるなら誰か教えて欲しい。

「じゃあ、二人ともその対魔師とかいうヤツだから幽霊になった俺が見える・・・そういう能力があると言いたいわけ?」

「そういうことです」

 俺の問いに対して天蓮華さんが静かな口調で肯定する。

「つかちゃん、色々納得出来へんと思うけど一通り話聞いてくれへん?」

「いや、急に化け物とか言われてもな・・・・・・」

「言っとくけど、昨日つかちゃんを襲ったんも妖やで?」

「!?」

納得出来ない俺に放たれたみらの一言に体が硬直する。あの事は鮮明に覚えている。

「そして・・・あの妖は三倉はんの魂を食らうつもりやったんです・・・・・・」

「魂を・・・食らう・・・・・・?」

淡々と続けた天蓮華さんの言葉にそれだけを言うのがやっとだった。

普通なら『そんなバカな』と笑って済ませられるような内容。

でも、それが否定できない。

自分が身を持って経験しているから。

化け物に襲われる・・・いや、何かに襲われるというのは悪夢としてはありがちなもの。

今までも何度か見たことのある夢だ。

でも昨日の夢は違った。

あの時の恐怖・・・あれだけは現実感があった。

食われたらそこで終わりという現実感・・・・・・

「・・・・・・」

「つかちゃん、大丈夫か?」

「あ? ああ・・・・・・」

 顔に出ていたのだろうか。みらが心配そうに声をかけてきた。

「・・・・・・少し、休まれますか?」

「いや、いい・・・・・・」

 天蓮華さんも気遣ってくれた。だが、あれはもう済んだことだ・・・・・・そう自分に言い聞かせる。

 口の中がカラカラになっていた。ペットボトルのお茶を口に流し込む。

 その様子を見て天蓮華さんが話を続けた。

「なんでかわかります?」

「いや・・・なんでって言われても・・・・・・」

 人と変わらない生活をしているなら食事もそう変わらないのだろう。それでも魂を食らおうとする理由・・・・・・

 全くわからない。俺の反応は予測済みだったのか、みらが口を開く。

「レベルアップのためや」

「レベルアップ?」

みらの言葉を天蓮華さんが補足した。

「魂は、その人が経験したことすべてが詰まっています・・・それを喰うということは、経験そのものを取り込むということ・・・妖にとってはレベルアップの近道なんですが・・・・・・」

 そこまで言うと天蓮華さんは一呼吸置いた。

「妖が魂を食らうには相手の体を引き裂く必要があるんです。ちょうど果物の皮を向いて中の実を食べるような感じ・・・そして残骸である死体はその場に残る」

ちょっと待て・・・今さらりと物騒なことを口にしませんでしたか?

「死体を残せば、そこから足がついてまう・・・せやから魂だけでウロウロするやつは格好の獲物やねん。痕跡を残さず食べたいところだけがあるんやからな」

みらの目が初めて真面目になった・・・ような気がする。

「妖にもええヤツはたくさんおる・・・というより人と同じ価値観を持って、静かに暮らしとるんがほとんどや・・・せやけど一部のアホはそう考えへん・・・自分一人がレベルアップして、自分が人も妖も支配したろうと考えとんのもおんねん」

「そんなこと出来るわけが・・・・・・」

 無い・・・そう続けようとしたが、考えてしまった。みら達言うことが事実だとすれば、ろ相手にはこっちの常識が一切通用しないようだから。

RPGだってレベルを上げ続ければ一人でラスボスを倒せたり出来る。理屈の上では出来るのだろうか? 

「出来へん・・・とは言えへんみたいやけどな? よっぽどの能力があれば、やけど」

 俺の心情を察したのかみらが口を開く。

「せやけどつかちゃんも言うたとおり科学全盛のこの時代やで? 1人の妖がそんなことするなんて無茶というより無謀なんけど・・・それがわからへんねん・・・・・・」

 やれやれといった感じで首を振るみら。一応困っているらしいが、その仕草はコイツの全く似合っていない。そして天蓮華さんが言葉を続ける。

「今の世の中、妖でなくても人を殺せば色々と調べられて捕まるのが当たり前の時代です。ただ、調べた過程から妖の存在がばれるのは非常に危険なのです・・・・・・」

「危険?」

 何が危険のだろうか? 昨日のことから考えても妖? とか言う方が能力的にも危険だと思うけど・・・・・・

「人間って・・・自分らとちゃう『モノ』を排除するからな・・・・・・今、妖は人に比べて数も少ないんやけど・・・・・・」

 と言って大げさに肩をすくめる結城みら。

だから、そういうポーズは似合ってないって。

「もし・・・妖の存在が危険や言うて、軍隊とかが最新の兵器を持って妖殲滅とかやったら。妖はひとたまりも無いわ・・・それに・・・・・・」

「それに?」

「さっきも言うたやろ? 今の妖ってのは人の社会に溶け込んどる・・・・・・で、人と同じ姿をしてる奴もおるんや。排除とかになったら・・・・・・ある意味地獄やで?」

「!?」

 地獄・・・みらの言葉の意味がなんとなくわかった。

妖が人と同じ姿をして生活しているのなら、それを排除しようとする動きが出れば・・・・・・


隣人が信じられない

友人が信じられない

家族すら信じられない


・・・確かに地獄だ。

「まぁ、結城はんが言っているのは最悪の状態の話ですが・・・どっちにしても、今の人間に対して妖の存在を表に出すのは危険なんです」

 天蓮華さんが落ち着いた口調で補足してくれる。

「悪さをしたものが罰を受けるのは当たり前・・・ただ何もしてないモノがとばっちりを食うのだけはいけません・・・・・・ですから、そのようなことが無いように妖の間でも取り決めがあるのです」

「じゃあ、人の魂を喰うのは妖の世界でも犯罪ってこと?」

「まぁ・・・そんなところですわ。そもそも、人を襲うこと自体が今の妖には必要ないですから・・・・・・」

人の世に近いルールで生きているのならそうなるだろう。

「せやけど・・・やはり取り決めを守らないものもおるんです」

「規則は破るためにある~とかいうアホとかな?」

 えっと、結城さん? それは結構君が言いそうなんですが。と思ったが黙っておく。それはそれとして。

「じゃあ、昨日俺を襲ってきたヤツも・・・・・・」

「ええ・・・そういった類のヤツでしょうな・・・・・・」

俺の問いかけに天蓮華さんがうなずく。俺はかろうじて助けられたが、アイツはまた違う人・・・というには少々疑問詞がつくが、とにかく誰かを襲うだろう。

そんな奴を野放しに出来ない。何とかしなくてはいけない。

「ま、アイツは捕まったけどなー」

そうか、捕まったのか。それなら大丈夫・・・・・・

「・・・・・・って、誰が捕まえたんだよ!?」

「ウチ等の上の人達・・・今、余罪について取調中らしいで」

 なんですか、その国家公務員・・・ぶっちゃけ警察みたいな対応は?

「何・・・今までの流れだと2人があの化け物と闘うって流れになりそうだったんだけど?」

「そらできまへんわ。ウチらまだペーペーやし、出来るのは見回りとか初歩の初歩・・・凶悪な妖退治なんてベテランの管轄やし」

「あー・・・なるほど・・・・・・」

 不意打ちや水吹き付けで目晦まし・・・今思い出してみれば、昨日の2人の行動は『戦う』のではなく『逃げる』事を前提として行動していたような気もする。

「かっこよくないなんて、失礼だったな・・・・・・」

「? ・・・つかちゃん、どないかした?」

「いや、別に・・・なんでもない」

 下手に戦えばと返り討ち・・・それでも2人は助けてくれた。

その時にかっこ悪いなんて思ってしまった事は2人に対して失礼なものだ。

あえて口には出さないが反省する。

「ん? あれ?」

 その時ちょっと引っかかったことがあった。

「どうかされましたか? 疑問があればお答えしますが・・・・・・?」

 天蓮華さんが言葉を続けるよう促してくれる。

「いや、大したことじゃないんだけど・・・あの時、天蓮華さんが水を吹き付けたのは、なんだったのかなと思って・・・・・・」

「あれですか・・・アレにはちょっと色々とありまして・・・・・・」

 と言いつつ何故か口淀む蓮華さん。それを見てみらが言葉を続けた。

「天蓮華はその水神様に仕える巫女さんやねん!」

「水神様?」

巫女さんと言われると確かに天蓮華さんの雰囲気には神秘的なものがあったが水神様とはなんだろう?

「読んで字のごとく水の神様! そんで天蓮華は水神様の血を引いとるんや。その関係で天蓮華の体の水分・・・血とか涙とかには破邪の力・・・悪い妖を祓う力があるから・・・・・・」

 みらの言葉を天蓮華さんが続けてくれた。

「それらを水に混ぜると簡単な破邪の水が出来ると言うわけです」

「あ、じゃあ昨日は・・・・・・?」

「はしたないお話ですが・・・妖にダメージを与えるため、私の唾液を水に混ぜて吹き付けまして・・・・・・あれでも十分に効果は有ります」

 あ、それでさっき顔を伏せたのか。結果として唾を吹きかけたと言うことだから妙齢の女の子にとっては恥ずかしいのだろう。

あの時、プロレスの毒霧みたいだと思ったのは黙っておこう。

「まぁ、そのおかげで助かったんだよな・・・ありがとう、天蓮華さん」

「え?」

 俺の言葉に天蓮華さんが意外そうな表情でこちらを見てきた。

「いえ・・・そのどう致しまして・・・・・・」

 顔を赤くしてちょっと落ち着かない表情でお礼を言う天蓮華さん。

「ちょっとつかちゃん! あの時ウチもつかちゃん助けたんやで!?」

 確かにそうなんだが、コイツの場合、原因でもあるので素直にお礼が言えないのも事実である。

「まぁ・・・お前はこうなった原因でもあるからプラマイ0だな」

「なんやそれ!」

 俺の解答にみらがぶーたれている・・・ただ、こいつのせいで騒動に巻き込まれたのも事実なので気にしない。

 ・・・・・・助けてもらったことに感謝しているのも事実だが。

「大体な天蓮華の力ってぶっちゃけた話、鼻水とかでもええん・・・・・・や!?」

「・・・・・・・・・結城はん?」

収まりのつかないみらの不用意な発言に座ったままの体勢で天蓮華さんが強烈な抗議の視線を向けた。なるほど水神様の血を引いているだけに迫力がある。

「か、葛葉ちゃん、そんな怖い顔せんでもええやんか・・・・・・」

 いや、いくらなんでも鼻水は禁句だろ・・・・・・。

「ま、まぁとにかく! 昨日もな? つかちゃんも探しとったとはいえ、助けられたんは偶然やったし・・・いやホンマ運がよかってんで?」

 さすがにみらも迫力に飲まれたようだ。話を慌てて元に戻す。

 もっとも運が良かったなら、まず幽体離脱するような状況にならないと思うが・・・それは黙っておくべきなんだろうな。

・・・って、ちょっと待て。

「『つかちゃんも』ってなんだよ? 他にも何かしてたのか??」

「さぁ・・・なんでしょね?」

 俺の疑問に対して天蓮華さんがちょっと悪戯っぽい目で話をはぐらかした。

 ・・・・・・秘密組織だし、さすがに任務とやらの内容までは言えないか・・・ってちょっと待て。

「あのさ・・・ここまで聞いといて今更だけど、そんな事一般人の俺にしゃべっていいのか?

 それに、結構大声出してたし」

「別に問題あらへんよ? つかちゃん、もう一般人ちゃうし」

 何さらりと口にしてますかお前は。とりあえず視線で天蓮華さんに解説を求める。

「一度妖の存在に気づいた人はウチ等対魔師にとって観察者という扱いになるんです。」

「一般人にペラペラ妖の存在を喋らん様にな~」

 みらが意地悪な笑みでこっちをみてくる。こっちとしては信じてもらえないだろうし喋る気は全く無いんだが・・・・・・。

「先ほども言いましたが、妖の存在は現代社会においては秘密・・・・・・。三倉はんが妖の存在に気づいているということは結構重要なんです」

 とりあえず黙って続きを聞く。

「例えば・・・この辺りで急に善良な妖が襲われたとして・・・そうなれば対魔師が犯人を捜すことになるのですが・・・その中に観察者が含まれるのです」

 善良な妖を言うのも俺としてはピンと来ないんだが・・・・・・なるほど、人に知られていない妖が襲われたのなら、犯人は他の妖かその存在を知っている人間・・・観察者ということになるのか。

「つまり・・・容疑者?」

「そこまでは行きませんが・・・今日みたいにちょっとお話を聞かせてもらうぐらいはあると思います。」

 参考人みたいなものかと認識しておく。

「ちなみにこの玉笹神社・・・実は対魔師の拠点の一つでして・・・色々と仕掛けがしてありますので、今までの会話が外に漏れる事はありません。」

「つかちゃん以外の人が来んように人払いの術もしてあるしなー」

 都合がいいね? 色々と・・・・・・。

「さて、三倉はんが幽体離脱するようになった原因ですが・・・三倉はん、今まで幽体離脱した経験はあります?」

「いや・・・それがこっちに来てから、と言っていいのかな・・・・・・? 自分でもわかんないな」

続いての天蓮華さんの問いにははっきりと答えることが出来なかった。何しろ自覚が無い。もしかしたら今までにもあったのかもしれない。

「・・・・・・やっぱり」

天蓮華さんが半ばあきれたような声でそれだけ言った

「やっぱり?」

 やっぱりとはどういうことだろう? 何か思い当たることがあるのだろうか?

チラリとみらを見たが、みらは何故かそっぽを向いた。

 ひとまず視線を天蓮華さんに戻す。

「ほな・・・先に三倉はんが幽体離脱した原因を簡潔に言いましょうか?」

「え? ・・・原因わかってるの?」

 天蓮華さんの言葉に思わず身を乗り出した。

「はい・・・三倉はんが今まで幽体離脱していないのなら・・・一つしかありません」

そこまで言うと天蓮華さんがみらに視線を移した。釣られた俺もみらの方を見る

「!?」

 俺と天蓮華さんの視線に気づいたみらが何故か妙に落ち着きがなくなってきた。

 ・・・・・・どういうことだ?

「何? お前・・・何か関係あるの?」

「・・・・・・えっと・・・まぁ・・・その・・・なんて言うか・・・・・・」

俺の質問に対して、どうもみらは歯切れが悪い。

「結城はん・・・もう観念しなさい・・・・・・」

「・・・・・・わかっとるって・・・・・・」

天蓮華さんの言葉に何か諦めたのか、みらがようやくこっちを見た。

「あの・・・実はな・・・・・・?」

 そう言いながらみらはバックをゴソゴソし始めた。まぁ何を取り出そうとしているのかは何となくわかるが・・・・・・。

「つかちゃんがこの3日間、幽体離脱してるんは・・・・・・最初に会った時、ウチがこれで叩いたからやねん・・・・・・」

 みらはカバンから・・・予想通りハリセンを取り出しながらそう呟いた

って・・・・・・今、こいつは何を言いやがりましたか?

「ちょっと待て、そんなハリセンで殴られたぐらいで幽体離脱するわけ・・・・・・」

「これ、ハリセンちゃうねん。『経束扇きょうそくせん』言うて、ありがたーいお経を束ねた扇!」

ないだろう? と言いたかったが、その言葉を遮って、みらがハリセンを俺の目の前に突き出す。

よく見ると確かにハリセンに何かミミズが這ったような文字が縦にびっしりと書き込まれていた。

 そしてハリセンを上に構えてエヘン! と擬音が出そうな勢いで胸を張っているみら。傍から見れば滑稽な事だろう。いや、関西なら日常の風景なのだろうか?

「すまん。言っている意味がよくわからないんだが・・・・・・?」

「まぁ、そうでしょうなぁ」

 天蓮華さんの同意がありがたい。

「とりあえず経束扇は魔除けの一種やと思ってください」

「魔除け・・・お札みたいなものか?」

「考え方としては・・・それでええと思います」

「お札なんかより何倍も効果あるけどな!」

 俺と天蓮華さんのやり取りを聞きつつ、何故か得意げにぶんぶんと経束扇? を振り回すみら。何をそこまで得意になっているのだろう?

 みらの様子を気にした風も無く天蓮華さんが話を続けてくれる。

「普通の人やったら、経束扇で叩かれても何もおきへんのですけど・・・・・・三倉はんの場合はちょっと事情が違うんです」

「事情?」

「ええ、霊的過剰反応といいまして・・・何人かに1人は疲れが出たり、寝込んだりする人もいるんです」

 ・・・何かアレルギーみたいだ。

「そして・・・三倉はんは、そのお経に反応してまうタイプやったらしくて・・・・・・どつかれた影響で、幽体離脱するようになってしもたんです」

 にわかには信じがたい話だが、一応の辻褄は合っている。まぁ最初から突拍子も無い内容ではあるのだが・・・・・・。

「えっと・・・待て待て待てよ?」

 今まで聞いた話を頭の中で整理する。幸いさっきに比べて頭が回るようになってきた。いや、諦めに似た感情で受け入れるようになっただけなのか?

 今まで天蓮華さんが話してくれたことをまとめると、ひとまず一つの結論を導くことが出来た。

「つまり・・・今までの話をまとめると・・・・・・俺が幽体離脱して、化け物に襲われたのは・・・・・・」

 もう一度頭の中で整理する・・・やっぱり、と言うかどう考えても結論は一つしかない。

「あの経束扇で殴られたから・・・・・・?」

「ええ」

 俺の問いかけに天蓮華さんが同意してくれた。

「ということは・・・・・・責任はその持ち主にあるということでいいのかな?」

「そうなりますなぁ・・・・・・」

 もう一度、俺と天蓮華さんの視線が同じ方を向いた。この場所にいる普段からハリセンを持ち歩いているヤツの方へ・・・・・・

「あの~・・・お2人とも、その冷たい視線はなんでしょうか?」

 視線に気づいたみらがひくついた顔をしながらこっちを見てくる。それを見て俺は大きく息を吸い込んだ。天蓮華さんは俺の様子を見て察したように自分の耳を塞いでくれた。

ありがとう。準備は整った。そして・・・・・・俺はみらに向かって大きく声を張り上げた!

「全部・・・お前のせいじゃないかあああぁぁぁっっっ!!!!」

「みゃああああああっっっ!!!」

俺の怒号に対して、奇妙な悲鳴を上げてみらが境内の隅に飛んでいった。お前は猫か? いやそんなことはどうでもいい。

「お前がハリセンでぶん殴らなきゃ、こんなことにはならなかったんじゃないか!」

「しゃあないやん! 自分がいきなり後ろから声かけてきたから・・・つい!」

「つい、の代償がでかすぎるだろ!? 大体なんでそんなもの持ち歩いてんだよ!?」

「備えあれば嬉しいなっていうやろ!?」

「それを言うなら『憂い無し』だ!」

「軽いボケにマジツッコミすんな!!」

「お前こそ逆切れすんな! それより、元の体質に戻るんだろうな!?」

 俺もみらも立ち上がり顔を突き出して睨みあう。

「2人とも・・・少し落ち着いたらどうです?」

「!?」

俺とみらとの口げんかに天蓮華さんが冷静に入ってくれた。それで少し落ち着くことも出来た。

「まぁ・・・三倉はんが幽体離脱するようになったんは一時的なこと・・・戻す方法も算段はつけてあります」

「・・・・・・それならいいんだけど」

「よかったー」

 俺と同時に安堵するみら。

いや、何で持ち主のお前がよかったなんて言葉を吐くんだ? そんな、みらのことを覚めた目で見ながら天蓮華さんがつぶやいた。

「まぁ、今回の件が結城はんのうっかりが原因なんは明白やし・・・・・・このままやったら三倉はんもおさまらへんと思いますし・・・・・・」

 天蓮華さんが何か考えるように目を閉じた・・・

「三倉はん? ここは一発、結城はんを小突いとったらどうです?」

「へ!?」

天蓮華さんが妙な提案をしてきた。思わず固まる俺とみら。

「天蓮華・・・アンタ何言って・・・・・・!?」

「粗相したらお仕置きされるのは当たり前やし・・・小突かれるぐらい、しゃあないんちゃいます? 三倉もっともはんがそれで許してくれたらですけど・・・・・・」

 表情を崩さずに天蓮華さんは続ける。俺とみらは急な提案にポカーンとしていた。

「大体、道聞こうとして後ろから声かけた三倉はんを経束扇でどついたんやろ? 敵意のあるなしなんてわかりそうなもんですけどな?」

 深く考えるように天蓮華さんは言葉を続けながらみらを見つめる、その視線に思わず目を逸らしたみらは・・・・・・

「それは・・・防衛本能が働いて・・・・・・」

 というのがやっとだった。

いや、その言い訳はさすがに通用しない。

「今後同じようなことがあっても困るし、ここは戒めの意味も含めて、大人しく小突かれときなさい」

 天蓮華さんはどこか楽しそうだった。が、当のみらは気が気じゃないらしい

「人事やと思って・・・・・・」

 とか何とかブツクサ言っていた。

「三倉はんも遠慮せんとゴツーンと一発、グーで」

「ぐ、グーって!? せめてチョキにしてくれへん!!?」

 いや、チョキで人は殴れない。

「じゃあ、お尻ペンペンで・・・・・・」

「いや、それもアカンやろ!?」

 どことなく楽しそうな天蓮華さんとその発言に食って掛かるみらを傍目に俺は少し考えてしまった。

確かに女の子をグーで殴るのは気が引ける。それはビンタでも同じことだし、お尻ペンペンはこちらも勘弁して欲しい。かと言ってデコピンやしっぺではお仕置きとして弱すぎる・・・どうしたものか・・・・・・

お仕置きとして殴らずにある程度、強い痛みで思い知らせる方法・・・・・・

どうしたものかと、チラリとみらに目をやる。その視線に気づいたみらが2、3歩ちょっと芝居がかった感じで後ろに下がり・・・・・・

「あ、ホンマに殴るん!? か弱い女の子を殴るなんてひどい!!」

 と、演技かかった脅え口調でまくし立てやがった。

 ありがとう、おかげで罪悪感がすっ飛んだ。

その時、昔のことを思い出した。じいちゃんが好きでよく見ていた格闘技・・・・・・その影響で自分もレンタルでDVDを借りているが最近は滅多に見ないあの技・・・・・・。

 ―――『アレ』なら殴ることにはならないし痛みも結構あるだろう。

ニヤリ、と心の中でほくそ笑む。そして、それを悟られないように静かにみらに近づいた。

「わかった。殴らない・・・・・・」

そう言って俺はみらの頭に手を置いた。

「そーそー暴力では何も解決なんか・・・・・・」

頭を撫でられると思ったのか、安心した顔で得意げに何か言っている。それに何も答えず俺はみらの頭に置いた手を開き・・・鷲掴み! そして指全てに力を込める!

「あだだだだだだだだだだっっっ!?!?!?」

 頭を握られたみらが悶絶する! 俺がみらに取った復讐・・・それは・・・・・・!

「音も無く握り潰す・・・・・・!!」

じいちゃんが好きなプロレス技でお気に入りの一つ! 

アイアンクローをみらに仕掛けたのだ! ちなみに今も元気なじいちゃんは力道山の時代からのプロレスファンである。

「痛い痛い痛い痛い!!!」

「・・・・・・」

無言でみらの頭を握る俺、悲鳴を上げるみら、そしてそれを静かに見つめている天蓮華さん・・・・・・ハリセン娘が泣いて謝るまで数分その状態は続いたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ