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みらはりせん  作者: 勤太朗
4/8

第四撃 バケモノにハリセン

『・・・夢も見ないと思ってたんだけどなぁ・・・・・・』

 気が付けば、また深夜の住宅街にいた。

 今日は何をしていたか明確に覚えている。みら達と別れたあと、晩飯も食べ、部屋でゴロゴロした、風呂に入った、そしてベッドに入ったことも覚えている。

『二度ある事は三度あるって言うけど・・・・・・これもそうなのか?』

 とりあえず、周囲を見回すが・・・・・・誰もいない。だが風景そのものにはなんとなく見覚えがあった。最初に道に迷った時に歩いていくと家まで二十分ぐらいかかる距離。

『しょうがない・・・歩いていくか・・・・・・』

と考えた時、思い出したことがあった

『そういえば・・・・・・』

 そのまま、自分の足元を見てみる。目当てのものはすぐに見つかった。

この前、夢に出てきた女の子に教えてもらった糸。こんな簡単に見つかるとは思わなかった。

『この夢に慣れてきたのか?』

 夢に慣れる、というのも妙な話だけど、人によっては連続ドラマみたいな夢をみ続けることもあるというし、そう考えれば一応の説明はつく。誰に説明するかは知らないけど。

 とりあえず糸を辿ってとぼとぼ歩いていく。そういえば昨日、一昨日は急に引っ張られたような感じだったが、あれはこの糸に引っ張られたのだろうか?

 そんな事を考えながら歩いていくと、少し薄暗い通りに出た。電柱に取り付けられた外套の明かりが数箇所連続で切れているようだった。

 正直暗くて気持ち悪い場所だったが、糸はそのままその通りに続いている。この糸を外れると迷ってしまいそうな気がした。


・・・・・・急いで突っ切ってしまおう。


 そう思って早足で歩き出した瞬間、街頭・・・光が切れかけてチカチカしている電柱の下に誰かいるのを見つけた。

 一昨日出てきた女の子か? と思ったが、どうも違うようだ・・・なぜなら身長が確実に俺より高い。どうやら男のようだが暗がりにいるのでよくわからない。

 とりあえず無視して通り過ぎようとする・・・・・・。

「・・・・・・」

 すれ違っても向こうは何も言ってこない。通り過ぎて歩きながらホッとした瞬間後ろから低い声が聞こえた。

「・・・喰わせろ・・・・・・!」

『な!?』

 その声に後ろを見てしまった。男は襟を立てた薄手の長いコートを着て、口元をマフラーで隠し、ニット帽を深めに被っていた。

 見るからに怪しい・・・・・・昼に不審者の話を聞いたから、それが夢に反映されたのだろうか?

「・・・・・・」

 男は無言で近づいてくる。


・・・・・・何かヤバイ。


直感がそう告げた。夢だから大丈夫とかそういう考えが微塵も浮かばない。とりあえず糸の続くほうへ逃げた!

「逃がさん」

男が追ってくる! 何でこんなベタな展開になったんだ!? とりあえず糸のあるほうへ逃げる! とにかくこの糸を追えば戻れ・・・・・・

「シャアアアッッッ!!!」

『な!?』

男がジャンプした! とんでもない跳躍力!! 逃げる俺を飛び越え、目の前に着地した! いくら夢でも何でも有りすぎだろ!? 着地して振り向いた瞬間、男のマフラーとニット帽が落ちた。

『!?』

 頭はスキンヘッド、そういうのはとりわけ珍しくない。男の顔は顔じゃない顔だった。正確に言えば人のものではなかった。眉は無く、目は吊り上り、口は耳まで裂けたように大きい・・・・・・!?

その男がゆっくりと俺に近づいてくる・・・・・・

「心配するな・・・事件にはならない・・・・・・全部喰っちまうから残骸も残らない・・・・・・」

 そりゃそうだ・・・・・・これは夢なんだから・・・・・・。食われたとしてもそこで目が覚めて終わりのはずだ・・・・・・。

 だけど、どうしても拭えない・・・・・・! 喰われたらおしまいだという感覚が拭えない!

 夢なのに・・・夢のはずなのに!?


・・・タッタッタッタッ・・・・・・・・・

男が口を開けた瞬間、俺の後ろから走ってくる足音が聞こえた。直後!


スパーン!!


 妙に軽い炸裂音が響いた! この炸裂音、どこかで聞いたことがある・・・それもつい最近だ・・・・・・!?

「ぐあ・・・・・・!?」

 大口を開けていた男が顔面を抑えてその場に蹲る。・・・・・・いや、そんな痛がるような音でもなかったけど・・・・・・?

「こっちに!」

 頭のどこかでそんな事を考えていたら、誰かに腕を掴まれ後ろに引っ張られた! 声からして女の子・・・この声もどこかで聞いたような・・・・・・顔を見ようとするが何かぼやけて、よく見えない。

「ま、待て・・・・・・!」

 逃げる俺たちを見て、蹲っていた男が立ち上がろうとしている・・・しかし!

「しつこい男は嫌われますえ・・・・・・!」

 男の背後からもう1人別の女の子の声がした。男の影になってよく見えないが右手に何か持っているのはかろうじて見えた・・・・・・キャップの開いたペットボトル・・・中に入っているのは水だろうか?

「な、なんだ・・・お前・・・・・・?」

「・・・・・・」

もう1人の女の子は男の問いに何も答えなかった。変わりにペットボトルの水を口に含んだと思ったら・・・・・・


プーーーーーーーッッッ!!!


勢いよく怪物に吹き付けた! 何やってんだ!?

「ぐわがあああああっっっ!?!?!?」

 水を吹き付けられた男はさらに苦しみだした! 

いやいやいやいや! 何で水かけられたぐらいでそこまで!?

ありえないだろ!? プロレスの毒霧じゃあるまいし!?!?

『な、何がどうなって・・・・・・?』

「ええから早よ逃げるで!」

『うわっ!?』

 ふわっ・・・と体が浮く感覚。腕掴まれて引っ張られただけなのに!? っていうか、浮いてるし! しかも掴んだのは(恐らく)女の子! その子が俺の腕を掴んだまま、どんどん走っていく!

・・・・・・どんだけ力が強いんだ!?

もう1人の女の子も苦しんでいる男を尻目に走ってこっちに合流してきた。そして走りながら俺の手を掴んでいる女の子に声をかけてきた。

「とりあえず・・・あそこに行きましょか?」

「了解・・・!!」

 こうして俺は夢の中で化け物に襲われ助けられるという、ある意味ベタなシチュエーションを経験したのだったが・・・・・・

『あんまり・・・かっこよくないよな・・・・・・』

 助けてもらってなんだが、思わず本音をつぶやいてしまった・・・・・・


 * * *


「はい・・・とりあえず私が水を吹き付けておきましたので・・・・・・

居場所はすぐにわかるかと・・・・・・」

 夢の中、ドコをどう逃げたかわからないが、とりあえず神社の中に逃げ込み、本堂の裏手に身を隠していた。さっき水を噴いた女の子が言っていた場所とはここだったらしい。 

水を噴いた女の子はどこかに連絡をしているようだった。もう一人・・・俺の手を掴んでいた女の子はゼェゼェと息を切らしながらそのまま座りこんでいた。ちなみに2人の顔は何故かボヤけたままでよく見えない。

そして俺はといえば・・・・・・

『い、いったい何なんだ・・・・・・!?』

 今まで起きていた状況に全く頭の整理がつかず、ただ立ち尽くしているだけだった。

「・・・連絡つきました。後は上が引き継いで探すそうですわ」

「おっけー・・・それにしても疲れたー!」

「行儀悪いですえ? まぁ気持ちはわかりますけど・・・・・・」

安心した女の子が地面にごろんと横になった。それを見て水を噴いた子は呆れたように声をかける。

『あ、あのさ・・・・・・』

「あーごめんごめん! ちょっと放置しとったな!」

「すんませんなぁ・・・色々報告することが有りましたから、後回しになってもて・・・・・・」

『いや、助けてもらったし・・・ありがとう・・・・・・』

「昨日も思ったんやけど、やっぱり律儀やなぁ・・・つかちゃん」

地面に寝っ転がっていた女の子(顔は相変わらずボヤけてはっきりしない)が上半身を起こして俺を見上げる。確かに夢の中でも礼を言う当たり我ながら律儀だと思う・・・・・・って、ちょっと待て。

『つかちゃ・・・え?』

今この子なんて言った!? 『つかちゃん』と言ったか!? 

『・・・まさか・・・・・・!!』

 俺のことを「つかちゃん」と呼ぶのは一人しかいない!? 

「・・・・・・はよ、戻したほうが良さそうですなぁ・・・・・・?」

「おっけー・・・説明するのもメンド臭いしな」

 そう言うと寝っ転がっていた女の子が地面から何かを拾い上げた。それは俺もよく知っている物・・・しかも、コレのせいで以前ひどい目にあった物だった。

『ハリセン! やっぱり、お前!?』

「・・・・・・詳しい事は改めてご説明します・・・とりあえず、今日のところは大人しく、どつかれといてください」

 水が吹いたほうが穏やかな口調でそう告げた。この口調も以前聞いたことがあるもの・・・それもつい最近だ!

表情は未だにはっきりと見えないが、微笑んでいるということだけは何となくわかった。そしてもう1人、ハリセンを持った方はといえば・・・・・・

「大丈夫・・・痛みは一瞬やから・・・・・・!」

 どこか楽しそうにやる気満々だった。

『いや、待て待て! いくら夢でも話の展開が急すぎるだろ!? っていうか、夢なら痛みは感じない・・・・・・!?』

 とりあえずツッコんだが、それは無かった事の様に無視。ソイツは巨大ハリセンを振りかぶり・・・・・・!

「・・・・・・おやすみ!」


スパーン!


 そんな言葉を告げつつ、ハリセンはいい音を立てて俺の顔面に命中・・・そのまま俺は1日ぶりの衝撃の余韻とともにホームランボールのごとく空のかなたへ飛ばされたのだった。


 * * *


「!?」

そして、目が覚めた。同時に上半身を起こし周囲を見回す・・・・・・やっぱり自分の部屋だった。時間は午前2時。

 とりあえず・・・口に出来た言葉は一つだけだった。

「ありえねぇ・・・・・・」


 * * *


 朝になった。ここしばらくの夢のせいか、何かすっきりしないまま起きて、朝食を取り、何もすることもなく、ただ暇をつぶしていた。

「・・・・・・退屈だ」

 ベッドに寝っ転がったまま、そう呟いた。学校が始まるまであと1週間ある。それまでは、この退屈と向き合わなければならない・・・・・・。

 ゲームでもしようかと思ったが、どうもそんな気分にならない。そもそも何かをしようという気になれなかった。

「・・・・・・」

 視線を携帯にやった。引越し以来、殆ど使っていない。相変わらず誰からもメールは来ない。向こうの連中は今どうしているのだろう? 向こうからも送ってこないのはこっちに気を使っているのか、それとも・・・・・・。

 

 ―――メールを送ってみるか。


 ふと、そんな事を考えが頭をよぎった。少し前まではメールのやり取りなんて当たり前の事だったし、別にメールを送ること自体何も問題は無い。

 体を起こし携帯から馴染みのアドレスを選ぼうとしたが・・・・・・。


―――何を送ればいいんだ?


何しろ向こうと共通の話題が無い。今こっちはどうしてるとか近況報告を送ろうか、と考えたのだが、それ以上話が広がる気もしない。

「・・・・・・」

 再びベッドに寝っ転り携帯をベッドの枕元に放り投げる。

「一人・・・か・・・・・・」

 ベッドに寝たまま思わずそんな事を呟いてしまった。

 お袋は学校が始まれば新しい友達も出来る。それについては否定しない。ただ、学校が始まるまでは殆ど誰にも会わないのだ。一人でどこかにふらふらと出かけてもよかったのだが、そういう気分にもなれなかった。

 学校が始まるまでの数日間、この退屈と向き合わなければならない・・・そんな事を考えていたら・・・・・・


ピピピピ! ピピピピ!


突然、携帯からメールの着信音が鳴り出した。誰からだろう? と、ちょっとだけ期待しながら携帯を見ると・・・・・・

「・・・結城みら・・・・・・?」

 あのハリセン娘からメールが来た。また何かのお誘いか? と思いつつ、とりあえず内容を確認する。

『やっほー! つかちゃん! いきなりで悪いんやけど、今、暇しとる?』

 メールでも調子は変わらない。とりあえず

『暇だけど?』

 と返信する。すぐに返事が返ってきた。

『それやったら、今すぐ、この前の神社に来てくれへん? ちょっと、大事なお話があるんやけど・・・・・・』

「・・・・・・」

 アイツらしくない、妙に歯切れの悪い文章だった。

まぁ暇だしいいか。

『すぐ行く』

 とりあえず、それだけ打ってメール返信するとすぐに出かける準備をした。

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