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みらはりせん  作者: 勤太朗
3/8

第三撃 ハーレム状態という名の拷問

 妙に眠りが深かったのかイマイチはっきりしない状態で目が覚めた。携帯を確認すると時刻は昼前、メールなどの着信は無し。寝すぎたからか、なんとなく体がだるいような気がする。

とにかく着替えて、食事を取るためにリビングに下りた。親父は仕事でとっくに出社していて、お袋も買い物に行ったのか・・・・・・そうかんがえながら周囲を見回すと、リビングのテーブルに

『買い物に行ってきます。お昼は冷蔵庫に入れているので温めて食べてください』

とメモが残されていた。

冷蔵庫に向かい、扉を開けて昼飯・・・炒飯と牛乳を取り出す。冷たい牛乳を飲めば少しはシャッキリするだろう。

炒飯をレンジに入れて温めボタンを押したあと、グラスに注いだ牛乳を持ってリビングに戻る。途中テーブルにおいてある回覧板が目に入った。

「なんだこれ?」

手にとって内容を確認する。

『最近、新加町で不審者が出没しています』

春になるとよくあるお知らせだった。

「どこにでもこういうヤツはいるんだな・・・・・・」

そんな独り言を言いながら内容を確認する・・・出没時間は深夜2時ぐらい。相当遅い時間だから親父が午前様とかにならない限り、うちの家族が不審者とやらに出くわす可能性はまず無い。

そう思いながら一通り目を通すと、内容の中に気になる部分を見つけた。

と言っても不審者についてではない。回覧板に記載されていた出没地域に心当たりがあったからだ。

とりあえず昼飯を食った俺は確認のため自転車に乗って出かけたのだった。


 * * *


「やっぱり・・・・・・」

 自転車で目的地に到着・・・・・・そこは家の裏手にある神社だった。

「玉捧神社・・・・・・」

 神社の入り口横にある石柱に刻まれた神社の名前は、一昨日の夢に出てきた女の子が言っていた名前と一致していた。

 それだけではない。ここに来るまでに通った道でも何箇所か夢で見たのと同じ景色があった。

ということは一昨日から俺が見ていた夢・・・夜、見慣れない住宅街を歩くというのは、この街に来てからの記憶が元になっていたのだろうか?

 しかし、それなら一つだけ引っかかる。

「俺、この神社の名前・・・見たことあったっけ?」

 自分が覚えている限り、この神社に来た事はない・・・・・・何かで目にしていたのだろうか? じゃあ景色は・・・・・・? 神社の入り口でそんな事を考えていたら・・・・・・

「あれ? つかちゃん?」

「おわ!?」

 急に後ろから声をかけられた。

「び、びっくりした・・・・・・」

「そら、こっちの台詞や・・・急にけったいな声出して」

 声の主はもちろん結城みらである。そういえばこの辺に住んでいるとか言ってたな。

今日はオレンジのパーカーにベージュのキュロット、紺のハイソックスにスニーカーという格好で自転車に乗っていた。もっとも今日も『あの』スポーツバッグを持っていたが。

「・・・神社の前で何してんの?」

「いや、ちょっと用事があってな・・・今から帰るとこ」

 まぁ嘘は言っていない。

「そうなんや・・・・・・それやったらちょうどええわ」

「ちょうどいいって・・・なにが?」

「今、つかちゃんに連絡しようと思っとってんけど・・・つかちゃん、甘いものは好き?」

 唐突に何を言っているんだろう。ちなみに甘いものは嫌いではないのでそう告げた。

「ちなみに持ち合わせは?」

「三千円ぐらいしかないぞ?」

「この後、ご予定は?」

「特に無いけど・・・なんだよ?」

 何かいきなり質問を連発される。意図がわからないので少々苛立ってきた。

「実はな~ちょっと、ウチに付き合ってほしいんよ~?」

と言いつつ、みらが胸ポケットから一枚のチケットを取り出した。

「じゃーん! 駅前ショッピングモール、スイーツバイキングの優待割引券!! 一人八百円で二時間スイーツ食べ放題! なんやけど友達が一人来れへんようになってもてな・・・・・・」

「あ、つまり・・・・・・」

「ここで会うたのも何かの縁! つかちゃん、休んだ子の代わりに一緒に行ってくれへん?」

「いや、誘ってくれた事は嬉しいけど・・・でもな・・・・・・」

 ハリセン持ち歩いているとはいえ相手は女の子である。2人でスイーツ食べに行くというのはいわゆるデートというヤツではないだろうか?

「あ、大丈夫やで! このチケット4名様限定やから! つかちゃん、ウチとのデートやなくてガッカリした?」

「ノーコメント」

 何言っても揚げ足取られそうなんでそう答えておく。これが一番無難な返答だろう。 

 ・・・って、ちょっと待て。

「残りの2人ってもしかして女の子?」

「そやで、メッチャ可愛い子三人とお茶会! つかちゃん、八百円でハーレムやでハーレム!」

 なんてことを言いやがりますかこのハリセン娘は。しかもさり気に自分が可愛いとアピールしている。

「いや、幾らなんでも初対面の人間が混じったら気まずいだろ?」

「前、つかちゃんの写メ見せた時の印象は悪くなかったみたいやけどな? いっぺん会ってみたいって二人とも言うとったで?」

「写メ見せたって・・・お前、いつ俺の写メ撮ったんだ!?」

「つかちゃんの携帯からメアド受け取った時にこっそりと」

 なんつーことをしてくれたんだこのハリセン娘。っていうか全く気づかなかった・・・・・・。

「いや、でもなぁ・・・・・・」

 正直躊躇していた。そりゃ客観的にみたらおいしいシチュエーションではあるのだろう。

「つかちゃーん、おねがーい♪ ここは助けると思って~♪」

 やたら、うるうるした上目遣いでこっちを見てくるみら。なんだろう、コイツがこういうのやると何故か憎ったらしく思えてきた。

 このままこうしても埒が明かない・・・・・・。

「わかったわかった。でも話が続かなくても知らないぞ?」

「その辺は大丈夫やと思うで~? ほな今から2人に連絡するわ」

と言いつつニヤニヤとしながらメールを打っているみら。

そして俺は気づかれないようにふぅと小さくため息をついたのだった。


 * * *


みらの自転車に先導されて数十分。駅前商店街の近くに大きなショッピングモールがあった。

「この中にあるんよ~」

 みらはウキウキした調子で駐輪場に自転車を止める。俺もその隣に自転車を止めた。

「えっと・・・どこにおるんやろ・・・・・・?」

 駐輪場から出たみらはそんな事を言いながら、待ち合わせしている二人を探しているのかキョロキョロと周囲を見回した。

「結城はん・・・こっちです!」

「先輩! 遅いっスよー!」

 直後、みらを呼ぶ声が入り口から聞こえてきた。そっちに移動しつつ二人の姿を確認する。

一人はみらよりも背が低く大きめ・・・というより明らかにブカブカなこげ茶色の帽子。そこから見えるのは栗色のショートカット。短めの春用ベージュ色コートに下は黄緑色ののシャツとデニムのショートパンツ。黒のニーソックスにスニーカーという活動的な格好。この子はこっちに向かって大きく手を振っていた。

もう一人は身長はみらより少し高め。長い黒髪に水色の春用ワンピースで、その上に薄手のセーターとポンチョを羽織り白のパンプスっぽい靴を履いていた。どことなくお嬢様みたいな大人っぽい年上の雰囲気。この子は俺の姿を見ると軽く会釈してくれた。思わず俺も歩きながら会釈する。

「先輩・・・10分の遅刻っスよ?」

 ブカブカ帽子を被った女の子がみらに対して抗議した。先輩という事はこの子は年下なんだろうか? 

「ゴメンぱち! ちょっと信号運が悪くてな」

 確かにここに来るまで幾つか信号があったが、そのほとんどが赤だった。最もそれが遅刻の理由になるかどうかはわからないが。

「結城はん・・・そちらの方がメールで言ってはった『つかちゃん』さん?」

 お嬢様の方が俺を見て、みらにそう尋ねた。間違ってはいないのだが『つかちゃんさん』という呼び方はどうなのだろう?

「そやでー! 土壇場で見つけた期待の新人や!!」

「人のことドラフト指名みたいに言うな」

 みらの発言に思わずそうツッコんでしまった。が、それを聞いて何故か俺を見たまま固まるブカブカ帽子。

「な、何・・・・・・?」

 視線に少々戸惑いながらそう聞くと

「いや、ホントにツッコミスキル高いっスね?」

と、答えた。これは喜ぶべきなんだろうか?

それにしても結城みらはこの2人に俺のことをどう説明したのだろう? 今度詳しく問いただしてやろう。

「ぱち、初対面の方に失礼やろ? すみません、後輩が無礼な物言いをして・・・・・・」

 お嬢様がブカブカを諌めた後、俺の方に向き直る。

「ウチの名前は天蓮華葛葉てんれんげ かつはと申します。三倉はんの事は結城はんから色々と聞いております」

「あ、三倉・・・司です」

・・・・・・変な事言ってないだろうな? そう思いながらも自己紹介する。

「自分、八塚千誉やつか ちよっス!」

今度はブカブカが自分に向いて自己紹介してきた。

「通称『ぱち』や」

「ぱち?」

直後にみらが意味不明の単語を続けた。そういえば、さっきから会話の中にチョコチョコ出てきてたような・・・・・・?

「八塚のあだ名ですわ」

 意味がわかっていない俺に天蓮華さんが答えてくれた。そういやさっきもみらがブカブカ・・・八塚のことをそう言っていたな。

「あ! 自分、八の塚って書いて『やつか』って読むんすよ! その八を可愛く言って、『ぱち』って呼ばれてるんス!」

 慌てて補足する『ぱち』こと八塚。そしてそれをニヤニヤしながら結城みらがゆっくりと背後から八塚に近づき・・・・・・

「まぁそれもあるんやけどな~・・・・・・ていっ!」

と言いながら、みらが八塚の帽子を取った!

それも見て俺もようやく『ぱち』の意味を理解した。

 八塚の髪は真ん中で綺麗に分かれているのと少々生え際が上の方にある。その為、おでこが広く見えていた。

「『デコっぱち』っちゅうヤツやなー」

 みらはニヤニヤしながらそう言った。

 ―――納得。

「せ、先輩! 初めて会う人にこんなこと暴露しなくてもいいじゃないっスか!? ぼ、帽子返してほしいっス!」

「ええんちゃう? どーせ、いつかはばれるんやしー♪」

 取られた帽子を取り返そうとするぱちとその帽子をヒラヒラさせながら逃げるみら。傍から見れば愉快なのだろうが、こちらとしては少々気恥ずかしい。

 って言うか、まだ店にすら入っていないのだが・・・・・・

「ほら2人とも!その辺にしとかんと、時間無くなりますえ?」

天蓮華さんが2人を宥めてようやく店の中に入ることになった。

なお入るまで時間にして数十分かなり疲れた・・・・・・。


 * * *


 ショートケーキやチョコレートケーキ、モンブランにババロア、ゼリーにたこ焼きを模したホットケーキなどたくさんあるスイーツ。その山を前にして


 パクパクパクパク・・・・・・

 パクパクパクパク・・・・・・

 

 みらとぱちはそんな擬音が音に出そうなほどすばらしい食べっぷりだった。

「2人とも・・・そんなにがっつかんでも時間はまだたっぷりありますえ?」

 そう天蓮華さんが諌めるが

「こんなチャンス滅多に無いっスから!」

「今日は全種類制覇するで!」

 と言いながら2人は食べる手を休めない。気持ちのいい食べっぷりといえば聞こえはいいが、正直、見ているこっちの腹が一杯になりそうだ。

「すいません三倉はん・・・お見苦しいところお見せして・・・・・・」

「あ、いや・・・・・・」

 呆れながらそういう天蓮華さんに対し、俺はホットカフェオレを飲みながら、そう応えるので精一杯だった。

 ついでに言えば天蓮華さんも2人には劣るがしっかりと食べている。多分一番食べていないのは俺だろう。

 ちなみに席順は俺とみらが隣同士で俺の正面に天蓮華さん、みらの正面にぱちが座っていた。

さらに、みらとぱちはすぐにスイーツを取りに行ける様、通路側に座っている。

元々ファミリー向けの店だったようで店内には思っていた以上には男性も多いが・・・みらの言うハーレム状態なのは自分のグループだけだった。

「三倉はん、こういったところは苦手ですか?」

「あ・・・まぁ・・・ねぇ・・・・・・」

「結城はんが無理に連れてきたんやね? ホンマにもう・・・・・・」

「いや、俺が行くって言ったのは事実だから」

 天蓮華さんの言葉に対し一応フォローを入れる。周囲に知った顔がいないのが唯一の幸いだった。東京の連中に見つかったら囃し立てられていたに違いない。

「そやでー! 『メッチャ可愛い子が三人!』って言うたら着いてきたんやから!!」

みらが食べながらそう付け足す。いや間違ってはいないんだが、そこだけ強調しないでほしい。あと可愛いという形容詞にさりげなく自分入れるなって。

「あら、可愛いやなんて東京の方はお上手やわ~」

 片手を頬に当てて照れたような仕草をする天蓮華さん。

 その仕草はすごく優雅で自然だった。もしかしたらこの人は本当にお嬢様かもしれない。そんな事を考えていたら・・・・・・

「もぐもぐ・・・つ~か~ちゃ~ん・・・もぐもぐ・・・天蓮華に・・・もぐもぐ・・・惚れたか~?」

「ばっ・・・・・・!?」

からかうように意地悪そうなハリセン娘の声が聞こえてきた。反射的に否定しようとしたが、

「でも天蓮華先輩は・・・もぐもぐ・・・色々と・・・もぐもぐ・・・大変っスよ・・・・・・」

 今度は正面のぱちが茶々を入れてきた。とりあえず、二人とも口に物が入ったまましゃべるのは止めなさい。

「二人とも大概にしとかんと・・・三倉はん困ってはるやろ? ねぇ?」

 天蓮華さんは特にあわてるでもなく、そんな事を言いながら俺の顔をじっと見てくる。思わずドキッとしてしまう。

「あ・・・う、うん・・・・・・」

 天蓮華さんの問いにはっきりと答えることが出来ず結局・・・・・・

「な、何か取ってくる・・・・・・!」

 隣のみらを押しのけ、その場から一時的に避難するぐらいしか出来ない自分がちょっと情けなかった。


 * * *


「ところで三倉はんは、いつからこちらに?」

 スイーツバイキングで時間もかなり経ったころ、天蓮華さんが俺のことについて話を降ってきた。

「住むようになったのは3日程前だけど、玉高受ける時とか何回かこっちに来てたからなぁ」

「向こうから受験でこっちに来るのは大変だったでしょう?」

「あ~・・・玉高と滑り止めの時と2回、母親と一緒に試験日の3日前にこっち来て、ホテルに缶詰で追い込みやった。合格発表は郵送だったけど、説明会の時は朝早くに新幹線で来てその日のうちに帰ったし」

「うわ・・・めっちゃしんどいなソレ・・・そーいや、何で玉高を選んだん?」

 みらがげんなりとした顔で感想を述べたあと質問を続ける。

「東京で受ける予定だった高校と同じレベルの高校を選んだだけ」

「なんや、つまらん」

「いや、そんなもんだぞ? 確実に受からないといけなかったし」

 というかどんな回答を求めていたんだ、お前は?

「だったら・・・モグモグ・・・その時に・・・モグモグ・・・誰かと・・・ハグ・・・会ってたかも・・・モグモグ・・・知れないッスね? ・・・ゴクン」

 ぱちがケーキを食べながら口を挟む。

「・・・全く覚えがないな・・・・・・あと、食べながら話すのは止めなさい」

「いや、話しながら食べてるんスけど?」

「一緒だ一緒」

 ぱちの言い訳にツッコミつつケーキを口に運ぼうとしたが・・・・・・

「あれ?」

 直後に何かが引っかかった。

「? どないしたん?」

 黙ってしまった俺にみらが声をかける。

「いや、天蓮華さんとは前に会ったかもしれない・・・・・・」

 そう、天蓮華さんの雰囲気と口調は以前どこかで触れたような気がしたのだが・・・・・・。

「あら? どこかでお会いしましたか?」

 天蓮華さんもちょっと考えているようだったが・・・・・・どこであったかまでは思い出せない。

「・・・やっぱり受験の時っスかね?」

 ぱちがケーキを食べながらそう答えるが・・・・・・

「いや、それは無いだろ?」

「え? 何でっスか??」

「天蓮華さんが受験って去年かおととしだろ?」

 俺がそう言った瞬間会話が途切れた。みらと天蓮華さんの動きが止まり、ぱちに至ってはケーキを食べようとした姿勢のまま固まっている。

 まさに『俺が時を止めた』と言っても通じるような状態だが・・・・・・

「ん?」

 俺は俺で何が起きたのか把握出来なかった。強いて言うならこのテーブルだけ時を止められたような感じだった。それから数秒。みらがようやく口を開いた。

「あー・・・つかちゃん、天蓮華・・・ウチ等と同い年やで?」


 その言葉の後。またもしばしの沈黙、そして・・・・・・


「え!?」

 俺は思わず大声を出して天蓮華さんのほうを見た。

「つかちゃん・・・え!? って、流石に失礼やで?」

思わず驚きの声を上げた俺にみらが冷静にツッコんだ。 ・・・まさかこのハリセン娘にとツッコまれるとは・・・・・・。

だが確かに失礼である。

「ゴメン。落ち着いてるし、てっきり年上だと思ってた・・・・・・」

 ここは素直に理由も述べて謝る。

「いえ、よう言われてますから・・・・・・」

 天蓮華さんは怒るでもなく微笑みながらゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。

 ・・・考えすぎかもしれないが、その微笑みが逆に怖い・・・・・・。

 そして、コーヒーを一口飲んだ天蓮華さんがゆっくりと口を開く。

「やっぱり子供っぽい結城はんと一緒におる事が多いから、それで比べられて年上に見られるんでしょうか?」

「・・・・・・あれ? ウチ、とばっちり??」

 天蓮華さんの発言を聞いた隣のハリセン娘が納得いかない表情でそう答えた。


 * * *


「いやー! 美味しかったなー!」

「あれだけ食べて一人八百円は嬉しいっスね!」

「二人ともはしたない・・・せめて、もう少し声の大きさを落としたらどうです?」

 店を出ると同時に思い思いの言葉を口にする三人。その後を俺はゆっくりと着いていく。

確かにスイーツは美味しかったのだが・・・食べながらの話題が問題だった。天蓮華さんの年齢で沈黙の後、やたらと俺が弄られる展開になったからだ。

例えば、東京の事を聞かれた時は多少こちらも受け答えできていたが、そこから向こうで彼女がいたかどうかの話になり、さらにこっちで彼女を見つける気はあるのか、もしこの三人なら誰を選ぶかという話になっていた。そこで俺が答えあぐねていると隣のハリセン娘が『本気にした~?』とニヤニヤしながら次の話題に切り替える。

今思えば、天蓮華さんと最後にとばっちりを受けたハリセン娘のささやかな仕返しだったのかもしれないが・・・・・・二時間の間に話題は幾つも出たが行き着くところは殆どがそんな感じであり、着いていけない俺は精神的な疲労をたっぷりと感じながら三人と一緒にショッピングモールを歩いていた。

頼むから人に語れるほど恋愛経験が無い俺にガールズトーク? は勘弁してほしい。

「あれ? つかちゃん、どないしたん?」

 そんな俺の様子に気づいたみらが声をかける。

「いや、ちょっと・・・店の雰囲気に呑まれたか、な・・・・・・?」

 流石に弄られ疲れたとは言えないので、とりあえず無難な返答をしておくが・・・・・・

「もう、二人が三倉はん弄り回すから疲れはったんちゃう?」

「じ、自分もっスか!?」

 天蓮華さんが俺の気持ちを代弁してくれた。ぱちが反論するが殆ど当たっている。唯一、間違っているのは『二人』ではなく天蓮華さんを含めた『三人』だと言うことだが、それは口には出さない。

「そーなん? あんなんイジリにも入らへんで?」

 いや、こっちはこの前まで東京にいたんだぞ? 大阪のお笑いに対応できるスキルは無いって・・・・・・。

「でも、今日の結城先輩はちょっとテンション高かったッスからねぇ」

 ぱちが帽子を直しながらそう答える。

「もしかして結城はんのテンションに引かれてたとか?」

「あー・・・それもあるかなー」

 天蓮華さんの指摘は間違っていない。確かに隣のハリセン娘は美味しいものを食べていたからか今まで会った中で一番テンションが高かった。その勢いに飲まれていたのも事実だ。

「ウチはいつも通りやで?」

 当の本人は自覚が無いのかケロリとそんな事を言っている。

 そんな会話をしているうちにショッピングモールの出入り口に着いてしまった。

「えっと、これからどうするの?」

 最初のみらの話ではスイーツバイキングの後の予定は聞いていない。今の流れだと二次会的にどこかへ行きそうな雰囲気だが・・・・・・。

「申し訳ありません。ウチは用事がありまして、本日はここでお暇しないといけないのです・・・」

「自分もっス」

「あ、そうなんだ」

 二人の言葉にホッとする。流石にこの後まで弄られるのは少々キツイ。

「はい・・・ですから、あとはお二人で御緩りと・・・・・・」

「いやいやいやいや! お見合いじゃないんだからさ!」

 続いた天蓮華さんの言葉に思わず否定とツッコミを入れてしまう。どうもこの人はこういう感じで人をからかうのが好きなようだ。

「つかちゃん、ウチの事・・・嫌い?」

「お前も乗らなくていいから」

 胸の前で両手を組み、あざとく上目遣いでわざとらしく目をうるうるさせているハリセン娘を片手であしらう。この二時間で多少はこういう耐性がついたようだ。

「何や、つまらへん・・・まぁウチも用事あるんやけどな~」

「じゃあここで解散か?」

「そうやね」

 そう言いつつ俺とみらは駐輪場へ向かう。俺たちが自転車を止めた近くに天蓮華さんとぱちも自転車を止めていたようだ。

「じゃ、自分はお先に失礼するっス!」

「またよろしくお願いしますね」

「ど、どうも・・・気をつけて・・・・・・」

 自転車で先に帰る二人を愛想無い返事で見送った・・・我ながらもう少し上手い言葉が出てこないのかとは思う。

「ほな・・・ウチも行くわ。あ、つかちゃん帰り道大丈夫?」

「大丈夫、駅からの道は何度か通ってるから」

 こういう心遣いはありがたいのだが、このハリセン娘はそれ以上におちょくりが過ぎる。

「じゃあ悪いんやけどお先に・・・また呼び出すかも知れへんからヨロシクなー!」

そう言いつつバイバーイと手を振りながら自転車でみらも走り去る。

後に残されたのは俺一人だった。


―――もしかして、あいつなりに気を使ってくれたのか?

一人になってから、ふとそんな考えが頭をよぎった。

欠員が出たから四名限定の優待券が使えなくなったのは偶然だろうが、そこで俺を誘ったのは知り合いのいない俺を元気付けようとしてくれたんじゃないか?

そんな風に思えてきた。ただこれを本人に確認するのは野暮だろう。

「まぁ、次はもうちょっとお手柔らかにしてほしいなぁ・・・・・・」

そんな独り言を言いながら俺も帰途に着く。

何しろ弄られ続けて精神的疲労はピークなのである。今夜はグッスリと眠れそうだ・・・・・・。


 * * *


「先ほど目標の確認をしてきました。本人に間違いありません・・・・・・」

「そうか・・・・・・」

夕方、任務から帰還した部下から詳細な報告を自室で受けていた。やはり悪い予感が的中したようだ。

「とりあえず、今夜から目標周辺の見回り強化だな。なにかあったら大問題になる」

 最悪死人が出ることになる。それだけは避けるために今のうちに打てる手を打っておく

「全員揃ったら対策内容を検討しろ。決まったら報告に来い」

 部下にそれだけ伝えると私は各部署に協力を依頼するため自室を後にした。

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