第一撃 出会い頭に走った衝撃
関西が舞台の作品のためキャラの何人かが関西弁で話しています。
全8話で完結します。
―――府立玉ヶ崎高等学校・・・通称『玉高』
俺・・・三倉司がこの春から通うことになっている高校の名前を携帯のナビアプリに入力し、検索をかけた。
――検索完了。少し道は入り組んでいるが歩いて十五分程の距離である。
玉高には受験などで何度か行っていたのでそれなりに道順は覚えていた。が、それでも俺は道順の確認をさせられたのは理由がある。
・・・親の仕事の都合で中学卒業と同時に関東から関西に引っ越すことになってしまったのだ。
入学式で道に迷って遅刻したなんて恥ずかしいから、ちゃんと確認して来いと言われて外に出されたのだった。
「コレあるから確認しなくてもいいと思うけどな・・・・・・」
そんな事を言いながら取りあえずナビを見ながら歩いていく。
当然の事だが見慣れない風景が続く。これからはこの街に住むことになる。今まで住んでいた街に戻る事は―――まず無い。
「・・・・・・」
気が重い・・・というか陰鬱な気分になる。数ヶ月前までは学校の連中とそれなりに楽しく過ごしてきた。そんな日は中学卒業後もずっと続くと思っていた。
―――だが、それは全部俺が勝手に思っていたことだった。実際は全く知らないところで高校生活を送ることになってしまった。
お袋は『すぐに新しい友達も出来るわよ』と気楽に言っていた・・・・・・。時間が経てばそうなるかもしれない。ただ、今は、そんな風には思えなかった。
・・・・・・そんなことを考えていた俺は周りの景色に全く見覚えが無いことに気が付いた。
「あ、あれ?」
もう一度周りを見回すが今まで見たことの無い景色だった。どうやら色々考え事をしている間に道を外れてしまったらしい。ナビも「ルートを外れています」と表示していた。
「しまったな・・・・・・」
とりあえず現在地から再検索を行うが……なぜかエラーが出る。
電波状況が悪いのか・・・と思ったが、アンテナとGPSの状態は良好。ということは……?
「・・・・・・またか??」
俺が使っている携帯はかなり古いタイプで2年程前に型落ちになっていた品を安く購入した物。そのため最近調子が悪くなるときがある。買い換えようにも先立つものもないのが現状、悲しいかな学生の少ない小遣い。
「・・・どうしようか、な・・・・・・?」
家に連絡して迎えに来てもらうか・・・と思ったが、まず自分がドコにいるのかすらわからない状況だった。それに携帯の調子がいつ良くなるかわからない。ひどい時には電源を切って1時間ぐらい放置しないと調子が戻らないのである。
―――誰かに聞くしかないか・・・そう思って周りを見回すが、誰もいない。どうやら人通りが少なくなる時間帯らしい。よくよく考えてみたら春休みの昼過ぎに人通りが少ないのは当然といえば当然である。
せめて携帯のナビだけでも動けば・・・・・・そう思って、携帯をもう一度操作しようとした時、視界の端に大きなカバンを持った女の子が見えた。年も同じくらい…もしかしたら天高の生徒かもしれない・・・・・・。
・・・・・・このチャンスを逃すわけには行かない。俺はその女の子を追いかけた。
「あ、ちょっと!」
・・・・・・彼女の耳からコードが見えた。どうやら音楽を聴いていて俺の声に気づいてないらしい。―――仕方ない。あの子の肩を叩いて気づいてもらおう。
俺は少し早足で彼女に近づいた。
「あの・・・・・・」
そう言いながら彼女の肩に触れようとしたときだった。
「誰!?」
「!?」
俺の手が彼女の肩に触れる直前、彼女の声がした。彼女が振り向く。一瞬だけ彼女の目が見えた。 ・・・・・・何か怒っているような目だった。しかし悪いことをしようとしているわけではないから話せばわかってくれる・・・・・・そう思った次の瞬間!
スパーン・・・・・・!
乾いた衝撃音が辺りに響いた。
瞬間、何が起きたのかわからなかった。ただ…その時、自分が後ろに倒れつつあるのは、感覚で理解できた
徐々に自分の顔に痛みが走る…そうか『あれ』で殴られたんだ・・・・・・目に入ったのは空の青。どこまでも澄み切った青が続いている
最後にこの景色を目に焼き付けることが出来た・・・・・・もう思い残す事は何も・・・・・・
「・・・って、そんなわけあるか!?」
「おりょ?」
倒れかけていた体を起こしながら頭に浮かんでいた物語のエンディングナレーションに1人ツッコミをする俺のことを目の前に立っているハリセンを持った少女が不思議そうな顔で俺を見ていた。
* * *
「いやーゴメンなー」
そう言って彼女は自分の顔の前に手を合わせて拝むように謝ってきた。
「でも、自分も悪いんやで? いきなり後ろから女の子の肩掴もうとするんやから・・・・・・」
その後は特に悪びれることも無く、普通にテレビでよく聞くのとは少しイントネーションが違う関西弁で話してきた。まぁ言ってる事はわかるんだが・・・・・・「そりゃ、確かに驚かせたかもしれないけど、いきなりそんなので叩くのはやりすぎじゃないか? っていうか、関西の人って、そんなのカバンに常備してるの!?」
と、その子が持っていた大きい扇・・・・・・ハリセンとか言ったっけ? を指差して抗議する・・・・・・それぐらいは当然だろう。
「あ~これなぁ・・・・・・」
彼女がニヤニヤしながらハリセンをカバンにしまう。
「ま、ウチにとっての大事な道具やからな」
大事な道具ってどういう意味なんだ? 演劇にでも使うのだろうか??
そんな事を考えていると女の子が俺のことをジロジロ見ていることに気が付いた。
ボブより少し短めに切ったショートの髪型、大きくて丸い目、身長も172cmの俺より頭一つ分小さいくらい。
正直、かなり気恥ずかしいのだが、ここは平静を保っておくことにしよう。
「・・・・・・何?」
「って言うか・・・自分、見ぃへん顔やな?」
そんな事を言いながら、彼女はまだ俺の顔をまじまじと見てくる。
「今日引っ越してきたから・・・で、今度新しく通う高校までの道のりを確認してたら道に迷ったんだ」
とりあえず動揺を見せないようにしてそれだけ答えた。
「ふ~ん・・・・・・この辺の高校言うたら・・・・・・玉高?」
彼女の口から希望の言葉が飛び出した。うれしくなって少しテンションが上がってしまった。
「そうそう! 今年から玉ヶ崎高校に入学するんだ」
「あ~そうなんや。ほなウチと同い年やね? 同じクラスになるかも知れへんから自己紹介しとくわ」
そう言う彼女はと1歩下がって少し芝居がかった動作で自分に手を当てた。
「ウチの名前は結城みら! 自分は!?」
「三倉・・・三倉司・・・・・・」
正直、彼女…みらのテンションに押され少し噛んでしまったが、どうやら気にしていないようだ。
「司・・・それやったら、フレンドリーにつかちゃんと呼ぼっか? ウチの事は『みら』って呼び捨てでええし」
「・・・・・・は?」
そう言うとみらはニカっと笑った。正直、初対面でフレンドリーな呼び方をされるとは思わなかった。・・・・・・いやだと言っても止めないような気がするのでここは何も言わないことにしておく。
「で、つかちゃん、どの辺に住んでんの?」
「えっと・・・確か新加町の・・・・・・なんだっけ?」
引っ越したばかりで住所をちゃんと覚えていないのである。ひとまず携帯を取り出す・・・動作は・・・・・・とりあえず正常に動いているようだ。
携帯の住所録に保存しておいた住所を確認して細かい番地まで伝える。
「新加町でその住所やったら…近くに神社無かった?」
「ああ・・・あった。結構でかいヤツ」
確かに引越しの時、家の近くに神社があった。住宅街の中にある神社にしては、かなり大きく森のようになるぐらい木が多かった。
「そこやったら、よう知っとるから案内したるわ」
と言ってきた。
「案内っていいの?」
初対面の子に道案内をしてもらうというのはさすがに気が引けた
「ええってええって、ほな行こか?」
それだけ言って、みらは俺の前を歩き出した。
* * *
「ふ~ん・・・東京から来たんか・・・・・・」
みらに案内してもらう途中、さすがに無言というのは間が持たなかったのでお互いの事をポツリポツリと話しているうちに俺が以前住んでいた東京の話になった。
「なあなあ! 東京って、駅に行ったら必ず芸能人に会うん?」
「いや、俺は見たこと無いけど・・・・・・」
「じゃあ秋葉原ってメイドさんがパフォーマンスしとるってホンマ!?」
「そんなのも聞いたこと無いけどな・・・・・・」
どうもみらの中では東京の色んな情報がかなりごちゃ混ぜになっているらしい。第一俺は東京と言っても中心から少し離れた方に住んでいたので駅で芸能人と会う確率は低いのである。
「メイドさん言うたら、大阪の日本橋ってトコにも、ようさんおるんやで!?
何かボッタクリも多いらしいんやけど」
「あ、そうなの?」
ただ俺自身は秋葉原に行った事はないのでそういうのには疎いのだ。 ・・・・・・やっぱり大阪のメイドさんは関西弁で話すんだろうか? それなら一度見てみたいような気はするが・・・・・・そんな事を考えていると・・・・・・
「お、見えてきた見えてきた・・・・・・」
みらの声に彼女の視線の先をおってみると見覚えのある神社があった。ここまで来ればとりあえず大丈夫だろう。
「ありがとう。ここまで来たらもう道もわかる」
「気にせんでええよ? ウチもこの近くに住んどるし、今度、玉高で会った時にジュースでも奢ってもらえばチャラや?」
「オッケー、了解した」
まぁ世話になったしそのぐらいはするべきだろう。
「それやったら…つかちゃん、携帯貸して!」
「携帯?」
意図がよくわからないがとりあえず言われたままに携帯を出す。
「結構古い携帯やな・・・ちょっと拝借」
と言って、俺の携帯を受け取るとそのまま何か操作していた。
「送信っと」
次の瞬間、みらのカバンから携帯の着信音が鳴った。そのままカバンから自分の携帯を取り出して……
「・・・・・・ホイ登録」
俺の携帯からアドレス入力で自分の携帯にメールを送ったようだった。
「ぬっふっふ~これでメアド登録させてもろたで~? 玉高で会うた時にすっとぼけたら、怒涛のメール攻撃百連発や!」
いや、流石にそれは勘弁してほしい。第一、世話になった相手にそんなことするわけが無い。
「そうだな。会った時にもよるけど約束は必ず守る」
そう言いながら俺もみらのアドレスを登録した。
「ありゃ、結構義理難いんやな? 言うちゃ悪いけど、関東の人間って冷たいって印象があったんよ?」
確かにそういうイメージはあるかもしれないが・・・人によるんじゃないかと思う。
「それは・・・さすがに偏見じゃないか?」
「確かになー? ・・・向こうの人からしたらウチ等関西人は馴れ馴れしい、厚かましいって思われとるみたいやし・・・・・・」
「まぁ、いきなりハリセンでぶん殴る子がいるとは思わないだろうけど」
「うぐ・・・・・・!? 中々のツッコミスキルやな」
俺の何気ない発言はどうやらみらの心に大ダメージを与えたらしい。ただツッコミスキルとやらを褒められた事については喜んでもいいのだろうか?
「ほなウチ帰るわ」
携帯を締まったみらが俺に声をかける。
「ああ、送ってもらってありがとう」
「玉高で会ったらよろしくな~!」
ヒラヒラと手を振りながら、みらは今来た道を戻り始めた。出会いがしらのハリセンには驚いたが…まぁいい子なんだと思う。
道に迷ってしまったので明日もう一度道を確認しに行くことにしよう。携帯をポケットにしまいながらそんな事を考えつつ俺は家に戻ろうとして・・・ふと携帯に目をやった。先ほど登録されたアドレスを確認する。
結城みら。印象は掴みどころの無いハリセン娘。そのハリセン娘は引っ越してから新しく登録されたアドレス第一号だった。
「約束・・・守らないとな・・・・・・」
そんな独り言を言いながら、アドレスに結城みらの名前を入力しつつ家の中に入った。
さっきまで感じていた陰鬱な気分は、ほんのちょっとだけ軽くなったような気がした。
* * *
・・・・・・気が付けば夜の住宅街を歩いていた。
『ここは・・・・・・?』
辺りを見回しても、見覚えの無いところだった。知らない家が立ち並び、それが電柱の光に照らされて青白く浮かんでいた。携帯も持ってないからナビで現在地を調べることもできない。
『・・・・・・・・・?』
とりあえず進んでみた。だが歩いても歩いても、見覚えの有る場所にはたどり着かない。
そもそも歩いている実感が無い。なんだかふわふわした感じでどうもはっきりしない。疲れた感覚も無いのでそれは助かっているが・・・・・・?
・・・・・・確か晩飯を食った後、自分の部屋に戻ってゲームしたあと風呂に入って、寝たはずだけど・・・・・・?
『あ、もしかして・・・・・・』
―――これは夢? と考えた。夢ならふわふわした感覚もなんとなく説明が付く。
ありきたりというなら納得のいく説明がほしい。
『さて、どうしようか・・・・・・?』
夢ならこのまま歩いていても休んでいてもいつかは目が覚める。それならもう少し歩いてみようと思った。夢なら思いがけないところにたどり着けるかもしれない。自分が全く知らない場所。それとも懐かしい場所へ戻れるかも・・・・・・。
そんな事を考えていたら向こうから誰か歩いてきた。
『・・・・・・?』
子供・・・女の子だった。4~5歳ぐらいの女の子。気になったのは、まだ夜が肌寒い季節だというのに薄手のワンピースにサンダル。何かをキョロキョロ探しているように見える。まぁ夢だし、放っておいても大丈夫だろう・・・・・・そう思ったのだが、やはり気になる。
『なぁ・・・そこの君?』
すれ違う直前女の子に声をかけてみた。女の子は俺の顔をじっと見てくる。
『どうしたの? お父さんかお母さんは?』
『・・・・・・』
俺の問いかけに無言で首を左右に振って答える女の子。
『そっか・・・一緒に探してあげようか?』
『・・・・・・』
夢だから放っておいてもいいとわかっているのだが、そう言ってしまった。
『・・・・・・』
だが、女の子はまたも首を左右に振った。そしてそのまま女の子は立ち去ってしまう。
『あ・・・・・・』
追いかけるべきか…そう思った時・・・・・・
「あの・・・そこのお方?」
後ろから声をかけられた。振り返ると女の子がいる。もちろんさっきまで一緒に遊んでいた子ではない。
年は俺と同じくらい。長い黒髪を眉の上でまっすぐに切りそろえている。雰囲気はドコと無く年上っぽく、ハリセンのみらとは違うタイプの子だ。
ただ、鼻から下はストールのようなものを巻いているためよくわからない。
「迷いはりましたか? この辺は物騒なのもおりますから、ポケっとしてると食べられてしまいますえ?」
物騒なものってなんだろう? そう口にしようとした時・・・・・・
「よろしければ・・・・・・うちが送ってさしあげましょか?」
その子がこっちに近づいてきた。
『送る・・・・・・? 送るって、俺はここがどこかすらわかんないんだけど?』
「そういうことではありません・・・ウチの言う送るというのは・・・・・・あら?」
言葉の途中で女の子が何かに気がついたようだ。俺の目の前まで歩いてきた女の子は俺の頬に手を当てた。
「・・・ちょっと失礼します」
夢の中なのに手の温もりが感じられる・・・・・・そのまま俺の顔・・・というより目をじっと見つめている。
「・・・・・・まだ生きてはるみたいやね? 何かの拍子で出てもたんやろか?」
『出てもた?』
意味がよくわからない・・・・・・「まだ日が浅いみたいやし・・・これなら癖にはならへんかな」
こちらの混乱は知らず彼女は言葉を続けた。どうやら彼女は俺の考えていることとは別のことを考えているらしい。
『あのさ、ちょっと聞きたいんだけど?』
「はい?」
どうやらこちらの言葉は聞いてくれるようだ。とりあえず今の疑問を聞いてみることにした。
『・・・ここはどこなの?』
「ここですか・・・・・・?」
彼女は少し困った表情をした。
「あの・・・新加町って言うてわかります?」
予想外の答えを返してきた。夢の中だから聞いたことの無い地名を即答してくるかと思ったが……
『新加町って・・・ここ新加町なの? …それなら新加町にある神社ってドコにあるか知ってる?』
「新加町の神社・・・・・・なら玉捧神社やね」
女の子は公園の入り口に視線を向けた
「玉捧神社なら道を戻って、最初の交差点を右にしばらく行った所です。新加町の神社は一つしか有りませんから間違いないと思いますわ」
予想外にあっさり明確に答えてもらえた。昨日のみらとの出会いが少しは夢の内容に反映されているのだろう。登場人物は全く反映されていないのは・・・まぁいいか。
『待てよ…神社がそっちの方にあるという事は・・・・・・』
彼女の言葉を聞いて自分の現在地におおよその見当がついた。
『そうか・・・・・・家の裏側にいるのか』
どうやら俺の夢は今住んでいる住所が基点になっているらしい。そう考えればドコとなく見た風景なのも納得できる。引越しの時に周辺を歩いた記憶が残っているのだろう。
「どうかされました?」
つい黙って考え事をしていた俺に目の前にいる女の子が再び声をかけてきた。
今見ている夢が俺の経験を基にしているというのなら、この子もどこかで会った事があるのだろうか?
『いや、ここでハリセンで殴られたらって思っただけ』
「ハリセン?」
とりあえず発した答えに彼女が変な顔をした。そりゃそうだろう。この状況で全く関係の無いハリセンなんていわれたら誰だって理解に苦しむ。
『なんでもない。こっちの話。まぁ夢だし何でもいいんだけどね』
「夢・・・・・・ですか? まぁそう思っているほうがええかもしれませんなぁ」
彼女の言葉の意味がよくわからない。まぁあまり気にしなくてもいいだろう
そういって立ち去ろうとすると
「あ、ちょっと待ってください」
背を向けた俺を女の子が呼び止めた。そして俺の正面に来る。
・・・・・・距離が近いんですけど。
『え、何?』
「ちゃんと戻れるようおまじないをかけてあげます」
にっこり笑うと女の子は目を閉じ、自分の顔の前に人差し指と中指を立てて何かブツブツとつぶやく。
『!?』
・・・・・・彼女の指先が鈍く光った。
『指が光・・・・・・!?』
「もう少しだけじっとしてて・・・・・・!」
驚いた俺の言葉を彼女が静かだが強い口調で遮った。よく考えれば夢だから何でも有りといえばなんでも有りだ。
そんな事を考えていたら、彼女は光る指を俺の額に当てた。その状態でまだ何かブツブツ言っている。
そして、彼女の指先の光が瞬間、強く光ったと思ったら、その光が俺の中に入った気がした。
『あ、あれ?』
「終わりました」
彼女は目を開くとやさしく微笑んだ。
「これできっちり戻れますし、もう出てきたりしません…後ろを見ていただけます?」
そう言われて後ろを向いた。よく見たら地面に糸が落ちている。糸の先は見えない。
『あれ? なんだこの糸・・・・・・?』
「その糸は道案内。体に繋がってますから、それをたどれば戻れますえ? まぁ上手くいけば途中で勝手に戻れるとは思いますけど・・・・・・」
体に繋がっている? 勝手に戻れる?
言っている意味がよくわからないけど・・・・・・よくわかんないけど戻れるなら何でもいいや…夢だし深く考えなくてもいいだろう。
『あ、ありがとう』
「どういたしまして。帰り道、気を付けておくれやす」
それだけ言うと彼女は背を向けて歩いていった。そのまま消えてしまった。
ぽつんと一人取り残された俺。
『・・・・・・』
とりあえず糸を辿っていこうとしたが…が、体が上手く動かない・・・・・・?
『あ、あれ?』
足を動かそうとしても前に進まない。というより体が上手く動かせない。なんだか宙吊りにされているような感覚・・・じたばたしてもその場から一向に動けない。そして・・・・・・『う、うわ!?』
体が徐々に後ろへ引っ張られ始めた。最初はゆっくり動いていたのだが、段々スピードが速くなっていく。もちろん女の子からも離れていく。スピードが速くなるにつれて体が風を切る感覚を味わっていた…妙にリアルだ。
・・・・・・不思議なことに何故か周りにある壁には一切ぶつからず道なりで引っ張られていく。夢だからそういうところは都合がいいのだろうか?
スピードはどんどん速くなり周囲の景色もよくわからなくなってきた。
『うわあああぁぁぁっっっ!?!?!?』
あまりのスピードに意識が朦朧としてきた。あ、これは気絶する。というのはなんとなくわかった。
夢の中に気絶するなんて器用だなと思いながら俺の意識は無くなった。
* * *
「!?」
―――そして目が覚めた。最初に目に入ったのは見慣れない天井―――新しい自分の部屋の天井だ。ゆっくりと起き上がる。
息も乱れていないし、寝汗もかいていない・・・・・・
「それにしても・・・・・・」
あまりにもリアルだった。あの体を引っ張られる感覚、そして体で風を切る感覚は夢で感じるようなものではなかった
「・・・・・・疲れてるのかな」
引越し作業が終わって気が抜けたのかもしれない。明日はゆっくりしよう・・・・・・そう思って俺はもう一度ベッドに入りなおした。
* * *
「あ~もう!!」
今日の報告から戻った自分は自分以外、誰もいない更衣室でついそう言ってしまった。そのまま更衣室に設置してある長椅子に座り一息つく
目標の捜索と捕獲・・・自分たちに与えられた任務は本来、至極簡単なもの・・・・・・のはずだった。
だが、捕獲対象は自分達の想定以上に手ごわかった。1週間前、みんなでもう少しで捕まえられるというところまで追い詰めたにもかかわらず、目標は逃亡。その後、手がかりすらない状態が続いている。
「だいぶ時間も経ってるし・・・ヤバイっスねぇ・・・・・・」
このままだと上司の大目玉は確実。考えただけでも恐ろしい。
先輩たちが帰ってきたら、今後の活動について話し合う必要があるかな・・・なんて考えながら、自分は着替えを始めた。




