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第七話 つかめない心

あの日以来、時折、というよりも頻繁に、第一王子から便りや誘いが届くようになった。

けれど、ユフィエルの立場は第二王子オーギュットの婚約者であるからだろう、あくまで非公式のものばかりだ。


・・・こんな状況だという事を、オーギュット様はご存じなのかしら。ふとそう思って、ユフィエルはまた苦しくなった。

目をつぶって自分に言い聞かせる。

あの人は、私の事など、もう何とも思っていない。・・・いえ、ますます疎んじられるかもしれない。

そう思うと悲しくなる。


・・・私、これで良いのかしら。

ユフィエルは第一王子ルドルフの姿を思い浮かべた。

ルドルフ様を、私は、不幸にしてしまうのではないのかしら・・・。


ユフィエルは、ふと、周囲について思いを巡らせた。

あのオーギュットによる断罪の日以来、ユフィエル自身が周囲との接触を断っている。けれど、ユフィエルのこの状況を誰かが知っていてもおかしくはない。

第二王子オーギュットの婚約者でありながら、第一王子ルドルフと密会している。

自分は、周囲に、何と言われているのだろう・・・。そう思うとユフィエルは怖くなった。


同時に、なぜ、という思いがますます強くなった。


なぜ。

自分は、オーギュット様の婚約者のままでいるのだろう。


あの日、オーギュットには、『お前との婚約は白紙にする!』と罵るままに宣言された。

ユフィエルはあの時絶句するばかりだった。けれど、王家がそう決めたならそれを甘んじて受けるばかりだ。

なのに、今もまだ婚約は解消されていない。


なぜ・・・?

それに、第一王子ルドルフがユフィエルにアプローチする事を、両陛下が認めているなんて。

この状況は両陛下公認なのだ。


ユフィエルは今更ながら困惑した。

ひょっとして、もう、オーギュット様との婚約は解消されているのだろうか。

自分が知らされていないだけだろうか。


***


「・・・いいえ。私たちの可愛いユフィー。婚約は継続中ですよ。安心なさい」

母のこの言葉に、ユフィエルは瞬きをした。

初めの質問は紙に書いて見せたが、口の動きで『どうしてですか』と読み取った母は、真剣な顔をした。

「今すぐにでも縁を切りたいって? 全くその通りよ! でもね、少しお待ちなさい。このあたりはお父様たちに任せなさい」


ユフィエルは尋ねかけて、困った。

今すぐに縁を切りたいと伝えたのでは無かったのに。母は勝手にユフィエルの気持ちを解釈したようだ。


でも・・・。自分はこのまま、オーギュット様の婚約者で居続けたいのだろうか?


・・・分からない。

そう思って、ユフィエルはさらに戸惑った。


分からない。

なぜなら・・・オーギュット様のお心は私には無い。むしろ疎まれている。

望むのは、私も、オーギュット様も、互いを想・・・。

と思ったところで、嫌だと思った。


ユフィエルは動揺した。

そんな未来などもう受け入れられないと思っていると、気が付いたから。


私は・・・?

どうなってしまうの・・・?


「そうそう、今日、別棟でベルベットたちが秘密のお茶会をするっていうの。可愛い猫を見るんですって。ユフィエルも来てほしいって言っていたわ。行くでしょう?」

母の言葉にハッと顔を上げて、茫然としていた事を隠すために急いで頷いた。


***


まぁ。

別棟に赴いたユフィエルは、一番上の姉ベルベットと、その夫ギニアス、加えてなぜか白いフワフワした猫を面白そうに抱いている第一王子ルドルフを見つけた。


くすり、と知らず笑みが浮かんだ。


一昨日もお会いしましたのに、ルドルフ様。

こんなに頻繁に遊んでいらして、宜しいのですか?


ルドルフがユフィエルの到着に気づき、パッと少し顔を赤らめて、眩しそうに笑った。


ユフィエルは、ルドルフのその態度に自分が優越感を持った事に気が付いて驚いた。


「ユフィエル様。こんにちは」

ルドルフの言葉に、未だ声が出せないユフィエルは礼の姿勢を返事にする。

「喉の調子は、どうですか?」


ユフィエルは内心呆れるが、咎めない。

医者に『声が出ないのは、精神的なものからです。あまり声が出ないという事を意識されない方が宜しいでしょう。そうすれば自然に治りましょう』などと言われている。

けれどルドルフは、会うたびに声と喉について意識させる。

とはいえ、純粋に心配しているのだと分かるし、身分もあるから、苦言を申し上げるわけにもいかないのだけれど。


「飴を貰いましたので、あなたにと思って」

ルドルフは照れながら、ユフィエルに歩み寄り、待機させていた使用人から綺麗な包みを受け取り、ユフィエルに手渡すようにみせた。

「・・・どうぞ」


不器用だけれど、優しい人だ。

こんな時、ユフィエルは少し泣きそうになってしまう。


自分の心が、つかめない。

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