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第十三話 誓う

「国王陛下。混乱を収めたく、発言許可を」

「許可する」

「感謝いたします」

宰相パスゼナが声を上げた。必要だと思ったのだろう、用意された書面を、皆に存在を知らせるよう掲げてみせた。

「過日の第二王子オーギュット様の発言やユフィエル様のご様子。これはその場にいた可能な限り多くの第三者の証言による記録です。証言者には教師も含まれます。そして、事実の確認も」


「先に、オーギュット様。イセリ嬢。あなた方は、人を病にするほどに中傷した。その事実が書かれた報告書だ。本来なら、この場の後に、あなた方に知らせる予定でした。だが、今、聞きたいですか?」

「・・・え・・・」

「はい、お願いします」

第二王子オーギュットが宰相パスゼナの様子に戸惑う。

イセリ嬢はそれでも自分たちの正義を信じた様子で受け入れようとした。


宰相パスゼナが再度確認した。

「事実は知った方が良い。けれど、知る時と場所は選ぶことができる。それでも今を選びますか?」

イセリ嬢が、その様子に目を見張った。

オーギュットはすでに顔色を失っていた。

イセリ嬢は、オーギュットの勢いの喪失を見て、宰相パスゼナを信頼するような表情をして、宰相に向かって首を横に振った。


***


婚約解消と、婚約発表の時間が、終わった。

呼ばれて別室に移動したユフィエルは、部屋にまだ誰もいないことを確認して、やっと緊張を解いてホゥっと息を吐いた。

疲れた。まさかあんな時間になるなんて。

発表後の喧噪は、宰相パスゼナのお陰で、やっと収束し、やっと解散になったのだ。


少し待っていると、バタバタ、と急いだ足音がして、バタン、と扉が開けられた。

第一王子ルドルフが焦ったようにやってきた。

ユフィエルに目を留め、悔しそうに口を引き締めている。

その様子に、ユフィエルは少し首を傾げてみせた。


「・・・申し訳ありません、不快な思いを、されたでしょう」

「・・・大丈夫ですわ、ルドルフ様」

ユフィエルは微笑んで見せたが、ルドルフはなおも悔しそうにしている。


「・・・私が、幸せにすると、誓わせてください、ユフィエル様」

聞いた瞬間、ユフィエルの胸がときめいた。

だが、そんな言葉であるにも関わらず、ルドルフはあまりにも思いつめたような表情をしている。


ユフィエルは、ルドルフの頬にそっと手を伸ばした。

ルドルフが驚いたように目を見張り、それから恐る恐るといったように、ユフィエルの手に己の手を重ねた。

そして、嬉しそうに表情を和らげる。


その様子に、ユフィエルはふと、ルドルフの悔しそうな表情の理由に思い当たった。

ルドルフ様は、勘違いされたままかもしれない、と。

少し遠慮するように、頬に沿えた手にすり寄るルドルフを見つめながら、ユフィエルは恥ずかしさを感じながら、自ら告げる事にした。

「ルドルフ様。私は、あなた様を、誰よりもお慕いしております」

ルドルフが、身体を揺らすほどに驚いた顔をした。


ユフィエルも驚いた。

まさか。私はなんて愚かなのかしら。

ルドルフ様は、私がまだオーギュット様に心を多く残していると思っておられたなんて。

私は、きちんとお伝えしていなかったのだわ。分かって下さっていると思っていたのに。

これでは、オーギュット様たちを馬鹿にできない。私も、思い込んでいたのだわ。


ルドルフの様子を目の当たりにし、改めて言葉を紡ごうとユフィエルは思った。

しかし、口を開いた途端、ユフィエルはパァっと赤面した。

ユフィエルは泣きそうになった。しがみついてしまいたい。

「私の心は、生涯あなたのものです。ルドルフ様。あなたが誓ってくださる全てにお誓いいたします」


ルドルフが泣きそうになって、顔を赤くして笑んだ。

「私を、一番に、思ってくださっているの、ですか」

「はい」

ルドルフは幸せそうに満足そうに、頬に沿えていたユフィエルの手のひらに口づけた。

「・・・嬉しい」

そう呟いた。嬉しい、嬉しい。言葉を噛みしめるようだった。


だか、ふとルドルフの表情がゆがんだ。

「ただ・・・今日、あの二人を見て、あなたはまた傷ついたはずです。・・・それが、悔しい・・・申し訳ありません」

ユフィエルは驚いた。

ルドルフ様のせいなどでは全く無いのに。


「ルドルフ様。私、もう、あのお二人については・・・あの・・・なんと申し上げましょうか。あの・・・もう、どうでも良いのです」

ルドルフがじっと見つめている。


言うべきだ。恥ずかしさを耐えて、ユフィエルは続けた。

「それよりも、私は・・・謁見の間で、ルドルフ様は怒ってくださった。どれだけ安心できましたことか。今も、心配して怒って下さって。私、本当にー・・・」


あなたがいて下さるから。

私は今こんな風にいる。笑み笑い、安心感と幸福感に包まれる。


「お慕いしています。心から、大好きです。どうかずっとお側にいさせてください」


言いきって、恥ずかしさの限界が来たユフィエルはぎゅっと目をつぶった。

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