第十二話 怒る
「彼女をこれ以上傷つけるな!」
第二王子オーギュットがイセリ嬢を庇うように立ち位置を動く。
ユフィエルはますます眉根をしかめた。
オーギュットの後ろで、イセリ嬢が怯えている。
サァっとユフィエルの心が冷めきった。
「・・・オーギュット。それから、イセリ嬢。私は、あなたたちを許さない」
そう言ったのは、第一王子ルドルフだった。
感情をコントロールしようと努めながらも、怒気が漏れていた。
「よくも二人で、この場に現れたものだ」
ユフィエルが聞いたことのない低い凄みのある声だった。
対抗したのはイセリ嬢の方だった。
「あ、あなたこそ! 王子様なら、暴力なんて!」
フっと、ルドルフがその言葉を鼻で笑った。
あまりに嫌な笑い方で、ユフィエルは本当にルドルフ様かと目を疑ったほどだ。
「では聞くが。勝手な振る舞いと言葉の刃でさんざん傷つけた自覚は? よくも二人で出てきたものだ。オーギュット、お前はすっかり昔の事を忘れたのか? あれだけの暴言を吐いておいて、お前は言葉による制止に耳を貸さない。あぁ、確かにカッとなったのは認めよう。ではイセリ嬢、教えてもらいたいが、あの時、オーギュットを殴る以外に、オーギュットの暴言をどうしたら止められたのだろう。私には分からない。次のために是非教えておいてもらいたい」
イセリ嬢は勢いよく何かを言おうとしたが、すぐ言葉が出てこなかったらしい。開いた口をすぐ閉じて、少し考える様子をみせた。
第二王子オーギュットの方は顔を真っ赤にした。怒りによるものだ。
「兄上。彼女への暴言の撤回を」
「どの口がそれを言う、オーギュット」
「もう良い。止めろ」
制止したのは、頭痛を抑えるような面持ちの国王陛下だった。
憮然とした表情で、皇后陛下が、そんな国王陛下の様子を見やる。
国王陛下はため息を静かに吐き、肩を落とした。
どこかうんざりしたように、命じた。
「オーギュット。お前には謹慎を命じよう」
「えっ!? なぜです、父上!?」
「頭を冷やし、謹慎の理由を考えるが良い」
傍で皇后陛下も諦めたようにため息をついた。
「マグニセル、良いだろう?」
と国王陛下が王妃の名を呼び確認する。
王妃はやるせない表情でオーギュットを見やった。
「・・・えぇ。可愛い息子ですけれど・・・仕方ありませんね」
王妃は、それからオーギュットの傍のイセリ嬢を嫌なものを見るような目で見た。そして深くため息をついた。
国王陛下がその様子に、少し憐みの入った眼差しをイセリ嬢に向けた。
「・・・あなたは、親と周囲が認めた、将来を約束した恋人の間を引き裂いたのだよ」
イセリ嬢は勇敢にも答えた。
「でもっ、それは、勝手に決められた結婚です! 結婚は、本人同士が好きあってするものだわ!」
国王陛下は頷いて、続けた。
「それは一理ある。あなたはきっと善良で疑う事を知らないのだ。けれど、私たちは、オーギュットとあなたとの結婚は認めない。・・・理由を教えてあげよう。あなたは、人を深く傷つけた。それを私たちが大変怒っているからだ」
イセリ嬢は目を丸くして驚いた。
それから、身を震わせて、キッとユフィエルを睨んだ。
「酷い! あなただけずるいわ!」
ユフィエルはイライラとした。
まさかこんな人に、婚約者を奪われたとは。オーギュット様も見る目がない。私も、見る目が無かった。
「私が、何かをしましたか?」
ユフィエルの冷たい態度にイセリ嬢が飲まれている。それでも向かう勇気は目を瞠るほどでもある。
「・・・どうして、そんなにオーギュット様を苦しめるのですっ!」
「苦しめる・・・?」
こんな人、話しても仕方がない、と思った。




