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第十一話 イセリ嬢

飛び出してきたイセリ嬢は、まだしりもちをついたままのオーギュットの元に駆け寄った。

オーギュットは頬を痛そうにしながらも表情を和らげて、

「大丈夫、心配しないで」

とイセリ嬢に声をかけた。


国王陛下がじっと彼らの様子を見つめた。王妃もじぃっと見ていた。

ルドルフはどこかあっけに取られている。

ユフィエルも目を疑った。


この場に、こんな風に、飛び出してくるなんて。

畏れ多くも、両陛下の御前なのに。


あれは誰だ。覚えがない。まさかあれが噂の。

さすがに集まった面々がざわついている。


そんな中、イセリ嬢はキッとルドルフを見上げた。立ち上がったオーギュットを支えながら。

「話し合いに暴力を振るうなんて酷すぎます!」

「・・・あなたは、どなたですか」

驚きながら、ルドルフが尋ねている。


「私は、オーギュットの、お、お友達で、イセリと言います!」

「イセリ。兄上、彼女がイセリ嬢だ。婚約したいと思っている」

「・・・」

ルドルフは勢いに飲まれるように無言だった。


イセリ嬢が訴えた。

「あの! ご兄弟なのでしょう、突然殴るなんて酷すぎます! 彼に謝ってください!」

視線を動かしたイセリ嬢は、ユフィエルに気づいてビクっと身体を震わせた。

ユフィエルはそんな反応をされて驚いた。

オーギュットがイセリ嬢を庇う。

「大丈夫だ、私がいる。あなたは安心していて」

「ご、ごめんね、大丈夫、うん。それより、酷い、すぐ冷やさないと・・・!」


第一王子ルドルフがふとユフィエルを見てきたので、ユフィエルも見つめ返し、ついでに少し首を傾げてみせた。そういう気分だったのだ。

ルドルフは、軽くユフィエルに頷き返してきた。


それを咎めたのはイセリ嬢だった。

「・・・彼に謝ってください! お兄さんとはいえ、許される事じゃないわ!」

「・・・あなたに尋ねたいのだが、イセリ嬢」

ルドルフの声は、様子を伺うものだった。

「あなたは、どうしてこの部屋にいたのです。あなたはこの部屋に来てはいけない人のはず」


「話を取り換えないでください、ルドルフ様!」

とイセリ嬢は勇気を出すようにして言った。

「それに、国民がいてこそ、皆、暮らしていけるのに! だから、来てはいけないなんておかしいです。それに、大切な話になるからと、オーギュットが呼んでくれたのです! まさかこんな事になるなんて思わなかったけれど」

スゥ、とイセリ嬢は息を吸って、ユフィエルを見た。

ユフィエルは瞬いた。今のタイミングで自分を見るのはどうしてだか分からない。


「ユ、ユフィエル様。私は、あなたが私にした事を、ゆ、許します! でも、だから、あなたもどうか、人の幸せを願ってください! オーギュット様たちを縛るのは止めて! 私、酷い事をいっぱいされたけど、でも大丈夫だから・・・! 一緒に幸せになりましょう!」


ユフィエルは首を傾げた。一体何を言っているのか、理解が及ばなかった。

「国王陛下。僭越せんえつながら、私に発言を許可していただけますでしょうか・・・?」

まずは国王陛下に申し出た。

「許可する」

「深いお心に感謝いたします」

ユフィエルは礼を国王陛下に返し、そしてイセリ嬢に向き合った。


「・・・私、あなたに許してもらうようなことを、いたしましたでしょうか?」

「・・・え?」


部屋は静まり、二人の会話の行方に耳を澄ませている。


「私は何も、致しませんでした」

ユフィエルは告白した。

「・・・本来なら、私は、自ら行動を起こすべきでした。皆が行ってくれたことを、私自らが行うべきでした。けれど、私は逃げたのです。自分の部屋に閉じこもった。・・・婚約していた方のお心が離れていくのを知りながら、私は、何もしなかった・・・。それを恥じるべきだと思っています。・・・ただ、情けない事ですけれど、とても・・・お慕いしておりましたから、心が離れていく様子を見るのが、とても耐えられなかったのです。それで、私・・・」

話しながら目を伏せていくユフィエルの傍に、人が来た。見上げるとやはりルドルフだった。ユフィエルを心配して、心を痛めている。


あのままなら、私はどうなっていたでしょう。でも、ルドルフ様がいてくださったから。

ルドルフの視線を、ユフィエルは見つめ返す。


「・・・嘘です!」

上げられた声に驚いて、ユフィエルはイセリ嬢を見た。彼女は己を信じている表情をしていた。

「あなたは、私に嫌がらせをしました! 人のせいにするなんて最悪です! これが貴族だなんて! 自分のしたことを認めてください!」

「・・・あなた、私の話を聞いておられましたか?」

ユフィエルは少し苛ついた。

眉根を寄せてイセリ嬢を見ると、イセリ嬢が短い悲鳴を上げて怯えた。

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