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迷走

人によっては不快になるような表現があります。ネタバレになるので伏せますが、鬱注意。

 ボクが加入した時の『エクウェスロード』はただの弱小パーティだった。

 ボク以外のメンバー全員が同じ村出身の幼馴染で、英雄譚の騎士に憧れたレナードがダンジョンに潜ろうとした時、彼を心配したジェイドとジリナが彼に付き合って立ち上げたのがこのパーティ『エクウェスロード』、『騎士への道』だった。

 レナードは剣術スキルと攻撃魔法関係のスキル、ジェイドは剣術スキルと索敵関係のスキル、ジリナは攻撃魔法と補助魔法のスキルを所持していた。

 スキルはボクのようにある日突然取得する物もあれば、たゆまぬ訓練で身につくものもある。そして、スキル持ちとスキル未所持者の技量には天と地ほどの開きがあり、まさに死地というべきダンジョンを人間ごときが探索できるのは、スキルのおかげだった。

 三人の持っていたスキルは冒険者ならば誰でも持っているような基本的なスキルだったため、それほど飛び抜けて優秀なパーティだったという訳でもない。ボクの癒し手のスキルも少し珍しいというぐらいで、そこまで優秀という訳ではなかった。


 しかし、ある時を境に状況が一変した。レナードにスキル『英雄の器』が発現したのだ。

 そのスキルの効果は凄まじかった。レナードの基礎能力が大幅に増加し、成長速度も著しく上がったのだと思う。今まではボク以外の三人が全力で倒しにかかっていたモンスターを彼一人で討伐できるようになり、手が出なかったモンスターもバックアップさえあれば倒せるようになった。

 すると、レナードのバックアップをするジェイドとジリナにはよりレベルの高い支援が求められるようになった。その経験が新たなスキルの発現を促し、スキルの進化に繋がった。

 かくして『エクウェスロード』は瞬く間に成長し、力を誇示して名声を掴み取った。


 そう、ボク以外は……。


 ボクの癒し手のスキルは、触れている人間の怪我を治療するスキルであり、スキルが強化される条件はより多く、より酷い怪我を治す事らしかった。そして不運なことにその対象として自分自身は当てはまらないらしい。

 彼らに助けられる前、毎日のように自分の傷を癒していたが、それがスキルの強化につながる事は無かったのだ。

 ダンジョン探索中にみんなを治療する事はあれど、ボクらは死なないためにいくらかの安全マージンを取っていた。そのおかげで怪我をすること自体が少なかった。強敵と戦うようになってもそれは続いた。メンバーの技量が極端に高くなったために、怪我をする頻度は相変わらず少なかったのだ。

 まさか、スキル強化のために怪我をしてくれと言う訳にもいかず、彼らと相談して別のスキルを覚える事になったのだが、ここでも問題が出て来た。

 いくら修行してもボクにはスキルが発現しなかったのだ。才能の無い者には発現しないスキルもあるが、長期にわたって複数の修業をこなしても発現しないのは異常なことだった。原因を調べた結果、スキルは人によって取得できる限界数が決まっていることが分かった。スロット限界までスキルを習得するのは時間的に不可能だとされていたが、ここに例外がいた。『癒し手』と『性技』以外のスロットを大量の耐性スキルで埋めたボクには、これ以上の伸びしろは無かったのだ。


 それでも彼らはボクを見捨てなかった。ボクは彼らと共にダンジョンに潜り、さらに名声を得た。

 有名になってくると、二つ名でよばれる事が多くなってくる。レナードは『英雄の再臨』や『一騎当千』など複数の二つ名で呼ばれ、ジェイドは『黒騎士』、ジリナは『火力馬鹿の魔女』、ボクは『小さな聖女』と呼ばれるようになった。レナードはジェイドの騎士という称号を羨ましがり、火力馬鹿呼ばわりされたジリナは悪態をつきながらも満更でもなさそうだった。

 一方、ボクはと言えば自分の二つ名が大嫌いだった。自分の体は穢れていると思っていたし、中身も卑屈で聖女なんて柄じゃないと常々思っていた。……そんな事をみんなの前で言えば彼らを悲しませる事になると分かっていたので、口には出さなかったのだけれど。

 癒し手のスキル持ちならば、ちょっと珍しいだけで腐るほどいる。少し昔に起こった戦争に参加した人の中には癒し手のスキルが進化した人もいるし、耐性スキルとは違って幅広い状況で効果を得られるスキルを持つ人もいる。ボクは『エクウェスロード』の成果のおこぼれだけで二つ名を貰っていたのだ。


 二つ名を貰ってからのボクは、誰かに役立たずだと指摘されることに恐怖した。いつか彼らに着いて行くことが出来ずに捨てられることを恐怖した。そして、みんなと過ごす時間が苦痛になった。

 表面的にはいつも通りに振る舞えていたと思う。だてにあの牢獄を生き抜いてきてはいない。本心を隠して媚びを売ることは得意だった。

 それからしばらく、みんなの前では何の悩みもないように振る舞い、部屋で一人になると演技を止めて落ち込む日々が続く。しかし、ある時ふと思いついた。自分に出来る事をやればいいと。

 ボクのスキルで戦闘に直接使える物は無かった。ジェイドから教えてもらった護身術はスキルとして発現していない。スキルなしの暴漢から身を守って逃げるくらいのことは出来ても、怪物(モンスター)は倒せない。数々の耐性スキルは有用ではあるが、前衛で盾役を務めるにしては体が貧弱すぎた。状態異常を無効化する前に物理的に死ぬだろう。そして、残ったスキルは『性技』だけだった。

 ボクはその考えに至った時にコレだと思った。物心ついてから大半の時間をつぎ込んで得たスキルが役に立つと、愚かにも思い込んだのだ。


 冒険者には常に死の危険に付きまとう。人間には命の危険が迫ると種を残そうとする本能が働くようだ。ならば、とボクはレナードとジェイドに迫った。流石に直球に誘うのは前世の記憶とジリナの教育で生まれた羞恥心が許さなかった。だから遠回しに誘った、しかし、二人は乗ってきてくれなかった。ついでにジリナにも迫ってみたのだが、それも軽くあしらわれた。全員ボクの事を子ども扱いして、そんなはしたない事をしてはいけませんと注意されるだけに終わった。少し傷ついた。


 そして、三人がダメだと判断したボクは、隠れて夜の店に体を売ることにした。

 いくつか思惑はあったが、前世の記憶に引きずられているのか、あたし自身に素質があったのか、それともボクの飼い主の躾の成果なのかは分からないが、ボク自身が人肌恋しさに耐えられそうになかったのだ。

 結果、ボクの夜のアルバイトはかなりうまくいった。スキルを持つボクの技はそういう店でも十分に通用し、幼い子供が趣味の一部の客にかなりの人気が出たのだ。

 単純に、もらえるお金がかなりの額になったし、ボクの欲求も満たされた。何よりこういう店では、情報屋にしこたま貢がないと手に入れることが出来ないような情報が、掃いて捨てるほど転がっていた。

 ボクは、三人に儲け話や、『エクウェスロード』の活躍を妬んで嫌がらせを企む輩の情報を、出元を隠して教えていた。その度に三人には感謝されたが、なぜかボクの心は満たされる事が無かった。

 それでも、夜の店で働くようになってからは多少気持ちを持ち直したが、それに伴い、夜の店で働くと決めた時の自分の精神状態がどれだけ異常で、視野狭窄していたかを知覚することが出来るようになった。

 三人も酒場やクエストの依頼主から情報収集をしていた。なぜボクが夜の店で働いているという情報が漏れないと思った? なぜボクが『エクウェスロード』の評価を下げる可能性に思い至らなかった? なぜ……。


 その日、ボクはもうみんなとは一緒にいられないと気が付いた。なんで飼い主からボクを助け出し、生き難いこの世界に連れ出したのだという逆恨みが湧き上がることを押えることが出来なかったのだ。


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