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裏切り

 ――ゲームみたいだ。とボクは思った。


 この世界の住民にとって、ダンジョンとは生活から切っては離せないものだった。

 ダンジョンと呼ばれる建築物の中では、外の世界では見ることが出来ない凶暴な生物が生息している。その攻撃性と危険度は飛び抜けて高く、ダンジョンに潜る者には常に死の危険が付きまとう。

 それでも人々が次々にダンジョンに挑むのには理由がある。ダンジョンの怪物(モンスター)が落とす魔石には用途が多く、日常生活のいたる所で利用される。魔石が無いと文化的な生活がままならなくなるのだ。魔石を集めて利益を得るため、稀に見つかる宝を手に入れ一獲千金を狙うため、作成者と製作目的不明のダンジョンの謎を解き明かすため、未知の最深部に辿り着き名誉を得るため……。人々はいくつもの思惑を持ってダンジョンに潜るのだ。


 何の因果か、ボクはそんなダンジョンに潜る冒険者の一人となった。そして、ボクを迎え入れてくれた三人の仲間と共に様々なダンジョンに潜った。

 森の中にある古びた遺跡型のダンジョンや、山の中にある洞窟型のダンジョン、時には空に浮いているダンジョンや水中にあるダンジョンなんてものもあった。

 ボクのチームメイトの潜在能力はかなり高かったらしく、次々に高難度のダンジョンに挑んでは強敵を倒していった。持ち込める食料の制限等の物理的な理由によって未発見の最下層へはたどり着けなかったものの、平均的な冒険者では倒せないような怪物(モンスター)を次々と屠るボクたちのパーティは瞬く間に有名になり、栄光を手に入れた。

 一方、ボクはといえば直接的な戦闘には参加せずにパーティのサポートを務めていたため、その名声は居心地が悪かった。パーティのサポートは確かに大切な役回りなのだろう。それでもボク一人では最下級の怪物(モンスター)も倒すことが出来ない。そんな自分には過ぎた名声だと思っていた。


 ボクたちのパーティが有名になると、大手のギルドから勧誘が来た。ボクはギルドに所属する事になるのかなぁと漠然と考えていたが、リーダーのレナードはその誘いを断った。ギルドに縛られるのは嫌だという、いかにも彼らしい理由だった。ギルドに所属することは大人数での安全な狩りを可能とし、不安定な収入をいくらか安定させられるというメリットがあった。よって、多少後ろ髪を引かれたが、あまり人と関わりたくなかったボクは、レナードがギルドへの加入を断った事に少し安堵した。

 パーティが有名になってからも、リーダーである魔法剣士のレナード、前衛の剣士であるジェイド、後衛の魔法使いのジリナ、癒し手であるボクは四人でダンジョンに潜り続けた。そして、それは傍から見ればいつまでも続くように見えたであろう。

 しかし、その幻想は今日打ち壊された。ほかならぬボクの手によって。




「なんでよチャートッ! なんで……なんでッ!」

「……」

 二人の仲間がボクに武器を向けていた。剣士のジェイドは片手剣を鞘から抜き放ち警戒心を顕わにしている。魔法使いのジリナは何が起こっているのか分からないというように首を振った。それでも杖を僕に向けている。……そして、レナードはうつ伏せに地面に倒れていた。その背中には剣による切り傷が刻まれ、血が溢れ出している。

 今、ボクたちはダンジョンの深部にいた。ダンジョンの中にはなぜか怪物(モンスター)が入ってこない安全地帯が存在し、この部屋もそんな安全地帯の一つだった。

 ボクはこの部屋の唯一の出入り口を塞ぐように二人の前に立ちふさがった。手には血に濡れた短剣、白い髪と病的に白いボクの肌は返り血で赤く染まっている事だろう。


「私たち仲間でしょうッ!? なんでレナードを斬ったのよッ!?」


 激昂するジリナを見て出てきたのは、そういえばジリナが本気で怒ったのを初めて見たな。という淡白な感想だった。


「ふーん? ボクはずっとみんなの事が憎かったんだけど。それでもジリナはボクの事を仲間だって言えるの?」

 ボクの口から出た声はやたらと低く、自分でもいったいどこからこんな寒気を催す声が出て来るのかと不思議だった。いつもは子供っぽく、女の子らしい声だったとはとても思えない。パーティメンバーの中ではボクは最も小柄で、よくジリナには愛玩用の人形のように可愛がられていた。そんなボクを怯えたような視線で見つめる彼女が新鮮で、思わず口元が緩んでしまった。

 やたらと元気がよく、困っている人を見ると放っておけないレナード。紅い長髪をなびかせて颯爽と理不尽に立ち向かう姿に憧れた。

 鋭い目つきで戦場を見回しては的確にサポートに入るジェイド。表情に乏しく、珍しい黒髪から近づきがたい雰囲気を放っているが、たまに隠し持っている飴玉をくれた。その度に子供扱いしないでよと反発したものだが、彼の優しさを感じて暖かくなった。

 薄紫の長髪を持つジリナは可愛らしいと思った。いつもボクを猫可愛がりして少しうっとおしかったけど、ほんとに気が利いて優しい。しかし、戦闘になると強力な魔法を使いこなす姿が凛々しいと思った。

 ボクはそんな彼らと一緒に冒険できたことを誇りに思うし、愛している。


 けれど、ダメなんだ……。


「ジェイド、ジリナ、ボクは三人の事が大好きだよ? 行くあても無かったボクを拾ってくれた事を感謝している。……でも、ボクはみんなの事をすごく憎んでもいるんだ……。だから、ここで終わらせようと思う」


 ボクにはこの思いを押えることが出来ない。


「レナードはもうすぐ毒で死ぬよ。ボクを倒してさっさと解毒薬を奪い取らないとね」

 ボクは懐から瓶を取り出し、ちゃぽんと中身を振ってみせた。

 ジリナはボクが解毒薬を取り出したのを確認すると、掴みかかって解毒薬を奪おうとしたようだ。しかし、駆け出そうとしたところでジェイドに肩を掴まれて止められた。

「何するのジェイドっ!」

「決まっている。近接戦素人のお前が、武器を持ったチャートにかなわない事くらい察しろ」

 ジリナはジェイドに怒りの矛先を向けるが、ジェイドは無表情に受け流した。ああ、残念だ。ジリナが怒りに任せて解毒薬を奪いに来たなら、楽に斬りつけることが出来たのに。


「チャート、後でみっちり説教だ。なぜこんな事をしでかしたのか聞かせてもらうぞ」

 ジェイドは剣をボクに向け、凄まじい形相でボクを睨んだ。長い付き合いだから知っている。ジェイドはただ単にボクの動きを観察するために集中しているだけだと。ボクはそれを見て嬉しくなってしまった。

「ふふ、こんな事をしでかしたボクをまだ仲間だと思ってくれているんだ。とっても友達がいがあるよ」

 三日月型に口元を歪ませたボクは、毒を塗った短剣を構えて体の重心を下げた。ジェイドは油断なく長剣を構えている。ジリナも杖を構えてジェイドをサポートする姿勢を取った。解毒薬を破壊する訳にはいかないため、おそらく状態異常系の魔法を使ってくるはずだ。


 静寂が場を包み、整った息使いだけが空間を満たした。

 やがて、呼吸のリズムが変わる。体に力を入れるために一瞬呼吸が止まったのだ。それを合図にボクはジェイドに向かって駆け出した。


 今執筆中の物語がなかなか進まないので息抜きに書きました。全5話。

 予約投稿の練習のために本日9時から12時まで一時間ごとに投稿します。

 決して、我慢できずに一話目投稿したわけじゃないんだからね! これ以降の話の推敲していなかったり、最終話が2/3しかできてない訳ないんだからね!


 間に合わなかったらごめんなさい。


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