第二話:光るペンダント
僕の名は吉岡翔太。小学校四年生の普通の男の子のはず・・・なんだけど、実は自分でも信じられない秘密がある。
幼稚園の時に僕は高い木から落ちて頭をぶった。何ヶ月も入院しなければならなかったんだけど、夢に天使が出てきて僕の頭や体を治してくれたと告げてきた。
ついでに、他の人より優れた能力も身についてしまったことも。
初めのうちは、普通の小学生より、勉強やスポーツができて力持ちなんだろうって思っていたんだけど、どうやら僕に備わっている力はそれだけではないらしいことが判ってきたんだ。
僕の読書に関する能力は、中学生、いや高校生の教科書を読んでもきちんと中身がわかったり、お父さんの難しい本や図書館の大人向けの本を読んでみたんだけど、きちんと中身がわかったりするんだ。
当然、漢字もきちんと読める。口に出して読んだりはしないけどね。
それと、毎日、近くにある空手道場の練習を窓の外から眺めていたんだけど、いつの間にか、型だとか、組手なんていうのも覚えてしまった。
一人でそれを誰も見ていないところで練習したことも良かったのかもしれない。
その他には、大人も持てないような重いものを持てたり、普通の自動車ぐらいなら追い越すぐらいに早く走ったり、電線に止まっている鳩を捕まえるぐらいに高く飛び上がって素早く動くことができたりすることもわかった。
そんな普通の小学生じゃない能力がついてしまうなんて、逆に僕は怖くなってしまった。
でも、これらのことは全て内緒なんだ。
これは、僕を生き返らせてくれた天使との約束事なんだ。
それに、実際にこんなことできるなんて言ったらうそつき呼ばわりされるにきまっているし、天使との約束で、人前では絶対これらのことをやってはいけないって、約束させられているからやってみせることはできない。
僕はおとなしくしていればいいんだ。そう自分に言い聞かせた。
ある日のこと、もう日が暮れる頃だった。近くの公園で空手の型の練習を誰も見ていないところでやっていた。
ところが、黄色の髪をした悪そうなお兄さんたちが、三人ぐらいで一人のおじさんを取り囲み、ぼこぼこにしていた。そして最後には財布からお金とか、時計とかを取って逃げて行った。
それを見ていた僕は、急に悔しい気持ちが湧いてきた。
僕なら助けられたのに。
あのおじさんを助けることができたのに。どうしてできなかったんだろう。
理由は一つ。天使との約束があるからだ。
僕はあの悪そうなお兄さんたちをやっつけ、あのおじさんに怪我をさせずに、そしてお金も取られずに済むようにしてあげられたのに。
それができないのは、人よりすぐれた力を人前では絶対にやってみせてはいけないと言われていたからなんだ。
僕はその晩、寝る前に天使に祈ってみた。
どうか、人助けのためにはこの能力を使うことができますようにって。
その晩、夢に例の天使があらわれて、こんなことを言っていた。
「さっきの御祈り、聞いていたよ。
う~ん。実はね、やっぱり君の能力はこの世界じゃ目立ってはいけないことになっているんだよなあ。
だから、僕たち天使は、君が人前であの特別な能力を使うことは、本来やって欲しくないんだ。
でもね。天使としては、君がいいことをしたい! 人を助けたい! という願いは叶えてあげなくちゃいけない義務もあるんだ。
君がそう言う気持ちを持ってしまった以上、僕も君が能力を使うことを止めることができない」
どうしたらいいものか、天使は悩んでいたようだ。そして、決心ししたように、透明な水晶のついたペンダントを僕に手渡してくれた。
「きみが能力を発揮したい時、このペンダントを見ること。このペンダントが白く光り輝いていたら、君は人前で能力を発揮してもいいって印。そして、その後にペンダントが光っているのを君が助けたり、やっつけちゃったりした人に見せること。そうすれば、君の記憶はその人たちから消える。」
そう言って天使は消えた。
朝起きてみると・・・・僕の手には夢で見た水晶のペンダントが握られていた。