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幻の島  作者: トト
4/5

~命の還る場所~

《カイト……?》

《カイト、身体は大丈夫?》

《寝てなくてもいいの?》


 【風】が、【光】が、心配そうに話しかける。


 その【声】を聞きつけて、鳥や動物たちも集まって来た。


《カイト、起きて大丈夫なの?》


「うん! ……心配かけてごめんね。今日は凄く調子がいいんだ」


 彼等の問いに、少年は笑顔でそう答えた。


「久しぶりに、みんなでお山のてっぺんに登ってみようよ」



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 ムーカイト島で一番高い処(山の頂上)に聳え立つ大木。

 その木の上に登ると、普段は見えない外海を見る事が出来る。

 少年は木の枝に座って、じっと海を眺めていた。


 太陽の光を受けて煌めく碧い海。


(世界は、なんて綺麗なんだろう!)


 少年は心の底から、そう思った。


「ぼくは、この世に生まれて……みんなと友達になれて本当に幸せだよ」


《カイト……》


 少年の傍に集まって、共に海を眺めている彼の【友】たちは、もう少年の命がそう長くない事を知っていた。

 それだけに、少年の言葉が心に沁み入る。


《カイト、ぼくたちもだよ》


 その言葉を聞いて少年は嬉しそうに微笑んだ、その刹那!


 少年の身体はバランスを失って空を舞う――


《カイト――――っ!?》


 直ぐ傍に居た動物たちの絶叫が響く。


《大丈夫よ、心配しないで》

《私たちが助けるから!》


 【風】が、少年の落下の速度を和らげる。

 【大地】が、【草】が、【花】が、クッション代わりとなって少年の身体を優しく受け止めた。


《……カイト?》

《カイト……っ!》


「……うっ! あ、ああ……ごめん、ね。心配……かけちゃった、ね」


 友の呼びかけに少年は薄っすらと目を開けて、消え入るような声でそう答えた。


《…………》


「……大丈夫だと思ったんだけど、ぼくは……もうダメみたい、だ」


《カイトっ!》


「ごめん、ね。ぼくが死んだら、この島も死んじゃう。みんなも一緒に……。だから、少しでも長く……ぼくは生きなくちゃって、そう思ったんだけど……。ごめん……ね、ぼく……」


《カイト、分かってるよ。君がぼくたちの為に頑張ってくれてた事、みんな知ってる。分かってる!》

《だから、もういいよ。……もう、休んでいいんだよ》


 【友】の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

 幾粒も、幾粒も──


 それを見た少年の瞳からも一粒の涙が零れ落ちた。


(ありがとう。じゃあ……君たちだけでも、島から離れて)


 少年にはもう、声を発する力は残されていない。

 それは彼の心の声。魂の叫び。

 少年は“翼あるもの”にそう告げた。


《ううん、ぼくたちも一緒に逝くよ》

《私たちは渡り鳥じゃない。遠くまでは飛べないから》


 その言葉を聞いて、少年の表情が曇った。


(やっぱり。……ぼくの所為で、みんなが……)


《それは違うよ、カイト。ぼくたちは君の為に生まれた存在。君と共に生きて、君と共に逝くんだ》


(えっ?)


 長い間、海底に沈んでいたムーカイトが海上に浮上してより十年。

 たった数年でムーカイトは緑豊かな【楽園】へと生まれ変わった。

 それは、ノンマルタスが偉大なる幻の大陸から受け継いだ【科学】の力だけで成し得た事ではない。

 

 空が、海が、大地が――

 風が、光が――

 島を取り巻く全ての精霊たちが、碧い髪の愛し子を育む為に力を尽くした。

 大自然と科学が織り成した奇蹟の島。

 それが【ムーカイト島】。  


 そして精霊たちは、愛し子が哀しまぬように。

 孤独な想いをさせぬように。

 彼の為に命を育んだ。

 それこそが島に生きる【生命(いのち)】(勿論、ノンマルタスの都から共に来た動物たちも居るには居たのだが……)


(でも、それじゃあ~みんなは、ぼくの為にっ!?)


《ううん、ぼくらは死ぬんじゃないんだよ》

《そう! 私たちはカイトと一緒に帰るの。だから哀しまないで》


(帰、る?)


《そうだよ。カイトが何時も話してくれた、海の都――ノンマルタスの国へ! 白い雪の降る、美しい君の(ふるさと)へ!》


(……帰る? みんなと一緒に?)


《ああ!》


 少年に記憶はない。

 ノンマルタスの都で生を受けた彼だったが、産まれて間もなくムーカイトへと旅立った彼に故郷の景色は残されてはいない。

 けれど、父が話してくれた。

 限りなく漆黒に近い碧の中、舞い散る白き花――マリン・スノー。

 白い石造りの美しいノンマルタスの都。

 其処に住む銀の髪の心優しい人々。


《其処には、きっとカイトのお父さんとお母さんも居るよ。ぼくたちが帰るのを待っててくれてる筈だ》


(そう、だね)


 少年は嬉しそうに微笑んだ。


(きっと、待っててくれるよね?)


《ああ!》


(友達、沢山連れて行ったら喜んでくれるかな?)


《うん! きっと喜んでくれるよ》


(帰ろう! ぼくたちの(ふるさと)へ。白い雪の降る都へ。父さんと母さんが……ううん、きっと一族のみんなが待っていてくれる)



    挿絵(By みてみん)



 僅かに残った百名足らずの人々が、滅び逝くノンマルタスの都と運命を共にしてより十年――

 唯一残されていたムーカイトは、少年の脳波が途絶えた瞬間、己の最期の使命を遂行した。


 ムーカイトのメイン・コンピューターはゆっくりと島を海底に沈めると、その全機能を停止。

 ここに、ノンマルタスはその痕跡を地上から永遠に消し去ったのだ。


 たった一度の過ちを悔いて、更なる海の底に沈んだ一族。

 世界を支配する力を持ちながら、それ故にひっそりと生きる事を選んだ。

 何時か、地上の人々と共に暮らせる日を。

 地上の人々が手を差し伸べて迎えに来てくれる日を!

 その願いを胸に秘め、精一杯生きて、そして滅んで逝った……これは、そんな哀しき一族の物語。



 ――でも、ね。

 ぼくは決して不幸じゃなかったよ。

 ナナミお姉ちゃんにも逢えたしね。

 きっと地上の人々は、お姉ちゃんみたいに優しくて良い人たちなんだと思う。


 ぼくはみんな大好きだよ。

 空も海も大地も……

 世界はこんなにも綺麗で優しいのだから――

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