~久遠の楽園~
「ねぇ、前に言ってたよね? この島は島が許した人じゃないと入れないって! 私はどうして此処に来れたの?」
「声が聞こえたんだ。ぼくを呼んだでしょう? だから跳んで行ったんだよ」
「とんで……行った?」
「うん! 跳んで行ったんだ」
そう言って少年は微笑んだ。
何時もの、あの輝くような笑顔で。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
少年の周りには何時も鳥や動物たちが集まって来る。
彼が傍に居ると風もないのに草や花が揺れる。
彼はこの世の全てのものと友達になれるのだと私は思った。
私には見えない、生きとし生けるものに宿る精霊たちでさえも。
けれど、彼の力はそれだけではなかった。
私は彼の言葉の意味をその別れ際に知る事になる。
彼は文字通り“跳んだ”のだ。
私を連れて――
気がつくと私は少年と共に船の甲板に立っていた。
初めて体験した瞬間移動だった。
呆然としている私に……
「それじゃあ~元気でね。さよなら、お姉ちゃん!」
そう言うや否や、少年の身体が宙に浮いた。
「お姉ちゃんが島に居てくれたこの一週間、ほんとに楽しかった」
そう告げて、少年の姿は掻き消すように見えなくなった。
それは一瞬の出来事で……
私は別れの言葉も、感謝の言葉さえも彼に伝える事は出来なかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そうして月日は流れた。
私は少女から大人の女性へと変わっていった。
忙しい仕事の合間をぬって、私は“あの島”を探した。
もう一度あの少年に逢いたかった。
命の恩人に逢って、きちんとお礼が言いたかったのだ。
否、多分違う。
私は疲れ果てた心を……少年の笑顔と、あの美しい楽園で癒したかったのかもしれない。
けれど島はどんな地図にも載っていない。
私は二度と島を訪れる事は出来なかった。
純真な子供の心を忘れてしまった私を、あの島が受け入れてくれる事はないのかもしれないと思った。
あの出来事自体が“夢”だったのかもしれないとも思う。
しかし、あの“楽園”で過ごした刻は……
碧い髪の輝くような少年の笑顔は……
私の心の一番大切な場所に今も静かに眠っている――