~ムーカイト伝説~
昔むかしの物語です。
遙か西の彼方に大きな島がありました。
その島には銀の髪と碧い瞳を持った、心優しき人々が自然と共に幸福に暮らしておりました。
けれど或る日、その島に碧い髪を持つ人々が移り住み、銀の髪の人々の暮らしは一変しました。
碧い髪の人々は銀の髪の人々に“科学”というものを教えたのです。
銀の髪の人々は碧い髪の人々を神様のように崇めました。
碧い髪の人々は“科学”という力だけでなく、人を遙かに凌ぐ身体能力を持っていたからです。
けれども碧い髪の人々は驕る事なく銀の髪の人々を大切にし、二つの一族は仲良く暮らしていました。
そしてその平和な時は永遠に続くと思われました。
しかし……
碧い髪と銀の髪の人の間に産まれるのは銀の髪の子供だけ。
元々少なかった碧い髪の人々は少しずつ減っていきました。
そんな或る日、碧い髪の巫女が不吉な予言をしました。
『この島は程なく海の底に沈む』と――
碧い髪の人々は銀の髪の人々を護る為、海底でも生活出来る大きな都を建造し、銀の髪の人々に自分たちと同じ能力を与えようと彼らの遺伝子を操作したのです。
そうして島が沈んでも少数の碧い髪の人々と銀の髪の人々は海底の都で生き延びたのです。
けれど……
「人の手が加えられた“異端の命”を、神様は決して許さなかったのかもしれない……」
そう言って微かに微笑んだ少年の顔は、何処か大人びて哀しげだった。
風もないのに木々がざわめく。
花が揺れる。
鳥や動物たちが常に少年の周りに集まって来る。
そして屈託のない輝くような少年の笑顔。
ゆったりと流れる時間。
此処は“楽園”なのだと私は思っていた。
けれどその瞬間、私は“楽園の真実”を。
その“儚さ”を垣間見たような気がした――
これは「ノンマルタス伝説」番外編“幻の島”の隠し設定です。
“幻の島”は50ページ弱ほどの短編漫画ですが、それ自体にこのエピソードは登場しません。
この物語に登場する少年が「ノンマルタス一族最後の生き残り」である事実も出てきません。
それらは表には出さない裏設定だからです。
けれど、それこそがノンマルタス一族創世のキー設定だったりします。